一流のスタッフ・キャストで作られた傑作
膨大な情報量の原作をうまく脚色した脚本

 

 

 

評価:★★★★★

 

アメリカン・ニューシネマが暴力やセックスをテーマにし、家族連れや大人の観る映画がなくなってしまった1970年に突如、グランドホテル系形式の本作が公開されアメリカでは大ヒットした。

 

飛行機の爆破というアクシデントや、大雪の空港で立往生した飛行機が破損した飛行機の着陸前に排除できるかというサスペンスはハリウッド黄金時代の娯楽大作映画の復活であり、2年後には転覆した船からの脱出を描いた「ポセイドン・アドベンチャー(1972)」、さらにその後、超高層ビル火災をテーマにした「タワーリング・インフェルノ(1974)」というスペクタクル大作が公開され、本格的なパニック映画ブームが到来する。

 

 

<ストーリー>

リンカーン国際空港は数十年ぶりの大雪に見舞われていた。

そんな時、着陸後の飛行機の車輪が雪に埋まり立往生して長い滑走路が閉鎖されてしまう。

空港長のベーカースフェルド(バート・ランカスター)は、旅客係のタニア(ジーン・セバーグ)、保安主任パトローニ(ジョージ・ケネディ)らの協力を得て事態の収拾に尽力する。

一方、吹雪の中、ローマ行きのボーイング707 機が飛び立った。搭乗しているのは機長のデマレスト(ディーン・マーティン)、デマレストの不倫相手のスチュワーデスのグエン(ジャクリーン・ビセット)、乗客には密航の常習犯の老婦人クオンセット(ヘレン・ヘイズ)、そして生保険金をかけて爆弾と共に搭乗したD・O・ゲレロ(ヴァン・ヘフリン)。

空港ではゲレロの妻であるイネス(モーリン・スティプルトン)の証言からゲレロが爆弾を持っていることがわかる。

地上からの連絡で機長のデマレストがゲレロを説得するが、ゲレロは爆弾を爆発させてしまい、機体には穴が開き、グエンは重傷を負ってしまう。

機はただちにリンカーン空港に引き返すことになったが、着陸には長い滑走路が必要だ。

はたして、立ち往生している機体を移動して、無事に着陸することができるか?

 

 


 

この映画が単なるパニック映画と呼ばれていない理由は、原作の優れた人間ドラマと職人技の脚色にある。

 

ベストセラーになったアーサー・ヘイリーの原作は文庫本上下2巻にわたる大長編だったが、膨大な原作をこの映画の監督でもあるジョージ・シートンがうまく脚色している

 

原作は手元にはもう無いが、記憶では原作では重要な位置を占めていたメルの弟の管制官がいたと思うが映画では登場しない。管制官は出てくるがあくまで脇役である。

原作からのもうひとつの変更点はディーン・マーティンのキャラクターで、原作ではもっと嫌な奴で飛行中も副操縦士に散々嫌がらせを言っているが、映画では副操縦士との間ではあまりトラブルがなく、嫌味なキャラクターも抑えられている。

動きが少ない映像表現の難しい管制官を主役グループから削除し、嫌味すぎるキャラクターを観客に嫌悪感を抱かせない程度に変更した脚色のうまさ。

監督も務めたジョージ・シートンは「三十四丁目の奇跡」と「喝采」でアカデミー脚色賞2回受賞している。

 

 

真っ暗な画面に登場アナウンスがかぶり、その後のメインタイトルに流れるアルフレッド・ニューマンの壮大なテーマ曲

 

航空会社のおしゃれな制服デザインはイーデス・ヘッド。「ローマの休日」「麗しのサブリナ」「スティング」などでアカデミー賞8回受賞、ノミネートは35回に及ぶ衣装デザインの大御所。

パイロットの制服

 

 

CAの制服

 

 

地上勤務の制服

 

 

 

 

俳優もオールスター・キャスト。空港のマネージャーのバート・ランカスター、パイロットのディーン・マーティン、CAのジャクリーン・ビセット、航空会社の地上勤務のジーン・セバーグ、トラブル処理のジョージ・ケネディ、無賃搭乗のヘレン・ヘイズ(アカデミー賞受賞)、爆弾犯人のヴァン・ヘフリン、その妻のモーリーン・ステイプルトン(名演技、彼女もアカデミー賞候補になった)、副操縦士はシャイニングのオーバールックホテル支配人のバリー・ネルソンという豪華な布陣。

 

バート・ランカスター 妻との関係は冷え切って家庭は崩壊している

 

 

ディーン・マーティン 義兄であるバート・ランカスターとことあるごとに対立する

 

 

 

ジーン・セバーグ 確か原作では小文字のみのタイプを打つ才女

 

 

ジャックリーン・ビセット ディーン・マーティンと不倫関係

 

 

ジョージ・ケネディ 後にパニック映画の常連となる

 

ヴァン・ヘフリン

 

モウリーン・ステイプルトン アカデミー賞受賞の「レッズ」の女性運動家とは全く異なる役柄

 

バリー・ネルソン 「シャイニング」のホテル支配人


 

オールスターキャストの中でもっとも印象的だったのはやはり、この作品でアカデミー賞を受賞したヘレン・ヘイズ。

一見上品な老婦人でタニヤが最初にあった時に無賃乗車にも関わらず思わず敬語を使ってしまうところや、医者を呼びに行こうとする若い航空会社の職員を意外に力いっぱい引き戻す時の表情など本当に名演技でアカデミー賞受賞も頷ける。彼女の登場シーンのコミカルな音楽もよい。

 

無賃搭乗犯なのに誰もが思わず気を使ってしまう

 

意外に力持ち


 

 

 

この手の映画では定番のやたらと事態を悪化させる親父の活躍もグッジョブ。

 

空港行のバスからすでに登場

 

「ナッツがしけってるよ」

 

せっかく奪った鞄を犯人に返してしまう

 

「爆弾を持ってるぞ!」の余計な一言で爆発

 

 

最後は泣きわめいて牧師からビンタ

 


 

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替)―ユニバーサル

【原題】AIRPORT

カラー 136

 

【制作会社】ロス・ハンター・プロ

【配給】ユニバーサル

 

【監督】ジョージ・シートン

【脚本】ジョージ・シートン

【原作】アーサー・ヘイリー

【制作】ロス・ハンター

【撮影】アーネスト・ラズロ

【美術】アレクサンダー・ゴリッツェン E・プレストン・エイムズ

【衣装】イーディス・ヘッド

【編集】スチュアート・ギルモア

【音楽】アルフレッド・ニューマン

【出演】

バート・ランカスター:メル・ベイカースフェルド空港長

ディーン・マーティン:バーン・デマレスト機長

ジーン・セバーグ:タニア・リビングストン

ジャクリーン・ビセット:グエン

ジョージ・ケネディ:ジョー・パトローニ

ヘレン・ヘイズ:クォンセット夫人

ヴァン・ヘフリン:D・O・ゲレロ

モーリン・ステイプルトン:イネーズ・ゲレロ

バリー・ネルソン:アンソン・ハリス機長

ダナ・ウィンター:シンディ・ベイカースフェルド

ロイド・ノーラン:ハリー

バーバラ・ヘイル:サラ・デマレスト