適材適所の超豪華キャストが楽しい

 

 

評価:★★★★★

 

雪のため立ち往生したオリエント急行内で大富豪のラチェットが殺害された。列車には12人の乗客と、車掌、鉄道会社の重役、老医師、そして名探偵のエルキュール・ポワロが乗っていた。犯人は乗客の中にいるのか?

 

原作はミステリーの女王:アガサ・クリスティーのベストセラー。

監督は、「セルピコ」「狼たちの午後」など1970年代のこの頃が絶頂期だったシドニー・ルメット。ジェフリー・アンスワースの撮影、美術、衣装、音楽なども豪華絢爛で見事。

 

しかし、もっとも豪華だったのは出演しているスターの顔ぶれで、単に有名スターというわけでなく、いずれも俳優たちのこれまでのキャリアを活かした適材適所のうまい使い方だった。

 

以下、クレジット順に俳優名と役柄の解説です。
 

・アルバート・フィニー(名探偵ポアロ):撮影時30代後半のフィニーが50歳過ぎのポアロを演じている。少しオーバーアクト気味だが凝ったメイクと猫背で見た目がかなり小説のイメージに近かった。

 

・ローレン・バコール(ハバード夫人):この人が「亡くなった主人が・・」というと誰でもボガードを連想してしまう。うまく年齢を重ねて晩年までスマートで綺麗だった稀有な女優。

 

・マーティン・バルサム(鉄道会社の重役ビアンキ):アカデミー賞受賞の名優。70年代は「サブウエイ・パニック」「大統領の陰謀」など数多くの名作に出演している。一人尋問が終わると「あいつが犯人だ!」、金田一の加藤武の元ネタか?

・イングリッド・バーグマン(教師オルソン):伝説の女優であり、この作品アカデミー賞受賞している。少し発達遅滞気味の教師を演じているがちょっと芝居が臭すぎだが、彼女のみ特別車に入ってから尋問終了までワンカットで撮影されている。

 

ジャクリーン・ビセット(アンドレニー伯爵夫人):美しさのピークの頃で伯爵夫人という役柄にピッタリ。2004年(30年後!)の特典のインタビューでも相変わらず美しい。

  出演当時(1974)   特典インタビュー(2004

 

・ジャン=ピエール・カッセル(車掌ピエール):フランスの名優。「影の軍隊」「三銃士」「料理長殿、ご用心」など各国の名作に出演している。ヴァン・サン・カッセルの父親。

 

・ショーン・コネリー(アーバスノット大佐)007引退後はシドニー・ルメット作品の常連。「アンタッチャブル」でアカデミー賞助演男優賞受賞

 

・ジョン・ギールグッド(ラチェットの召使ベドウズ):イギリスの名優。いかにもシェークスピア役者のようなキッチリとした演技。怒りと共にナプキンを投げつける場面など大見えを切るような演技で楽しんでいそう。彼もアカデミー賞受賞者。

 

・ウェンディ・ヒラー(ドラゴミロフ公爵夫人):この方もアカデミー賞受賞経験者。「わが命つきるとも」のトマス・モアを支える奥さんの役が印象的だった。

 

・アンソニー・パーキンス(ラチェットの秘書マックィーン):「サイコ」のイメージそのままの役柄。ポアロに「あなたお母さんを愛していましたか?」と質問され、「僕がマザコンだから結婚ができないと思っているんでしょう」と憤慨しているのがおかしい。去り際にいつもブツブツ独り言を言っていたのが怖い。

 

・ヴァネッサ・レッドグレーヴ(デベナム):「ジュリア」でアカデミー賞受賞。授賞式での政治的な発言(パレスチナ解放機構支持)が物議をかもした。

 

・レイチェル・ロバーツ(ドラゴミロフの召使ヒルデガルド):英国アカデミー賞3度受賞。「ピクニックatハンギング・ロック」の教師役が有名だが一枚で名前が出る俳優陣の中ではもっとも名前が知られていない。

 

・リチャード・ウィドマーク(富豪ラチェット):過去の悪役イメージの集大成。

 

・マイケル・ヨーク(アンドレニ伯爵):「三銃士」「四銃士」で主役のダルタニアンを演じたイギリスを代表する2枚目スター。

 

 

 

ほとんどが列車内の限定された空間でしかもセリフ劇なので、同じような設定で名作「十二人の怒れる男」を作ったシドニー・ルメットに監督を依頼したのは適任だった。

 

 

ストーリー上、重要なアームストロング事件を冒頭で新聞記事を利用しながらテキパキと紹介していく構成が良かった。この映像処理は見事。事件の灯を再現しながら新聞記事を挿入する方法でわかりやすい


 

密室劇で、ポアロが乗客を延々とインタビューしていくという単調になりがちなストーリーなので、飽きのくる中盤でアームストロング事件を入れるという選択もあったと思うが、最初にアームストロング事件を持ってきたこの構成の方が観客が混乱せず判りやすいと思う。

 

アームストロング事件の5年後、駅で出発準備をしているオリエント急行に乗客たちが次々とやって来る。このシーンでは女優たちの豪華な衣装が目を楽しませてくれる。(イングッド・バーグマンだけが地味な服装だった)乗客たちのキャラクターも短い時間でしっかり観客に分かるように演出されており、ここでオールスターキャストが生きてくる。

 

これらの客を迎える車掌のジャン=ピエール・カッセルの表情が絶妙で、ここは2回目の鑑賞時の方が“納得”できて面白い。

 

駅構内に怪しげな着物姿の日本人(?)女性が見える。

 

背後では贅沢な酒と食料品のチェックが行われ列車内に運び込まれる。

 

 

そして、いよいよオリエント急行が出発する。

ここのカメラアングルや音楽が素晴らしい。

 
 

やがて雪で足止めされた日の夜、乗客の一人ラチェットが殺される。

何故か殺人現場では常に凶器は高確率で時計に当たって止めてしまう

 

ここからの事件解決に向けて名探偵ポアロの活躍が始まるが、主に乗客を尋問していくだけなので、映画としては“動き”があまりなく退屈になりがちだが、ルメットは演出を工夫して観客を飽きさせない。

 

尋問される様子も、ある者は座って、あるものは立ったまま、アンドレニ伯爵夫妻は2人一組で、ドラゴミノフ公爵夫人は客室内で、所々に過去のフラッシュバックを入れながら進行させ、途中に車掌の服やドレスや、ハバード夫人による凶器の発見などのエピソードを入れながら名優たちの演技合戦を堪能できる。

尋問シーンと謎解きシーンで同一人物が同じ証言をする時でもカメラアングルを変えたりして工夫している。

 

終盤の謎解きシ-ンで被害者であるリチャード・ウィドマーク以外のスターが勢ぞろいするところは壮観。

 

 

最後のカーテンコールのような演出も粋だった。


カーテンコールの最後もバーグマン

 

殺されてしまったリチャード・ウィドマークを除いたオールスターの集合写真では何故か最も無名な医者役の俳優が中心になっているのが可笑しい。

前列中央で床に座っているのがルメット監督、中列で椅子に座っている女優陣

後列で何故か男優陣のど真ん中に立っている無名なジョージ・クールリス

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替):パラマウント

【原題】MURDER ON THE ORIENT EXPRESS

カラー 128

 

【制作】 EMIフィルム 

【配給】パラマウント=CIC

 

【監督】シドニー・ルメット

【脚本】ポール・デーン

【原作】アガサ・クリスティー

【制作】ジョン・ブラボーン、リチャード・グッドウィン

【撮影】ジェフリー・アンスワース

【美術】ジャック・スティーヴンス トニー・ウォルトン

【衣装】トニー・ウォルトン

【編集】アン・V・コーツ

【音楽】リチャード・ロドニー・ベネット

【出演】

アルバート・フィニー(エルキュール・ポアロ)

ジャクリーン・ビセット(エレナ・アンドレニイ伯爵夫人)

アンソニー・パーキンス(ヘクター・マックイーン)

マイケル・ヨーク(ルドルフ・アンドレニイ伯爵)

ローレン・バコール(ハリエット・ベリンダ・ハバード夫人)

イングリッド・バーグマン(グレタ・オルソン)

ショーン・コネリー(アーバスノット大佐)

リチャード・ウィドマーク(ラチェット・ロバーツ)

ヴァネッサ・レッドグレーヴ(メアリー・デベナム)

ウェンディ・ヒラー(ナタリア・ドラゴミノフ公爵夫人)

ジョン・ギールグッド(エドワード・ベドウズ)

ジャン=ピエール・カッセル(ピエール・ミシェル車掌)

レイチェル・ロバーツ(ヒルデガルド・シュミット)

マーティン・バルサム(ビアンキ)

コリン・ブレイクリー(サイラス・ハードマン)

デニス・クイリー(ジーノ・フォスカレッリ)

ジョージ・クールリス(コンスタンテイン医師)