本筋よりも脇のエピソードが面白い

 

 

評価:★★★★☆


自分にとっては伊丹十三の監督デビュー作の「お葬式」は大傑作というわけではなかったが、なかなか面白い映画だった。リアルタイムで第2作の「タンポポ」を鑑賞した時は評価に戸惑ってしまい、次作の「マルサの女」がわかりやすい傑作娯楽映画だったので「タンポポ」の印象は薄れてしまった。

その後、「タンポポ」の海外での評価が高まり数年後に再見したら意外に面白かった。

 

<ストーリー>

雨の夜、タンクローリーの運転手、ゴロー(山崎努)とガン(渡辺謙)は、タンポポ(宮本信子)という女性が経営するさびれたラーメン屋に入った。ラーメンの味はまずく、タンポポは食通のゴローに店の立て直しを頼み込む。

ゴローとタンポポは食通の乞食集団と一緒にいるセンセイ(加藤嘉)、金持ちの運転手ショーヘイ(桜金造)、タンポポに惚れているピスケン(安岡力也)らの協力を得て、おいしいラーメンを提供する店を目指して奮闘する。

 

ゴロー(山崎務)何故か入浴中も帽子をかぶっている

 

ガン(渡辺謙:若い!!!)


ビスケン(安岡力也)、センセイ(加藤嘉)、ショーヘイ(桜金造)

 

 

メインのラーメン屋を再建していくストーリーと並行して、白服のギャング(役所広司)とその情婦(黒田福美)の食と性と死に関するエピソードが描かれる。

ギャング(役所広司)と情婦(黒田福美)

 

卵の黄身の往復キス

 

カキを少女(洞口依子)の手から食べる

 

唇の血をなめる洞口依子(唾液が糸を引いている)

 


 

そこに本筋とは関係のない様々なスケッチ風のエピソードも挿入される形をとっているが、メインのストーリーと関係のない脇のエピソードの方が圧倒的に面白かった。

 

以下、印象的なエピソード(登場順)
 

・箸で表面をなでる、チャーシューを右上に置くなど怪しげなラーメンの食べ方を講義する大友柳太朗(そんなことしている間に麺が伸びてしまうのではないか?)

ラーメンが伸びてしまいそうな長いうんちく

 
 

・ホテルのフランス料理店で超グルメな平社員と、料理の知識がない上司(金田明夫、高橋長英)や取引先の役員、そしてクールに対応するボーイ(橋爪功)

グルメの若手社員とボーイと上司

 

高橋長英はチックの役 「マルサの女」でも同じような役

 
 

・スパゲッティを静かに食べるようにマナーを教える岡田茉莉子と派手に音を立てて食べている外人

講義中の岡田茉莉子センセイ

 

派手に音を立ててパスタをすする外人

 

・守衛と鬼ごっこしながらオムレツを作る場面

 

・虫歯が痛い藤田敏八と異常に色っぽい歯科助手

虫歯が痛い藤田敏八

 

異常に脇が開いたユニフォームの歯科助手

 

何故かクネクネしている左の歯科助手
 

・餅を喉に詰まらせる大滝秀治(悶絶演技が最高)

 

お汁粉の餅を頬張る大滝秀治(この後は予想通りの展開)

 

・食料品店での柔らかいものを指でひたすら押しつぶす原泉と店員の津川雅彦の対決

やわらかい物を見るとつぶしたくなる原泉

 

店長(津川雅彦)との攻防戦

 
 

・北京ダック好きな詐欺師の中村伸郎

 

 

・臨終間際に突如、起きてチャーハンを作ってから死ぬ井川比佐志の妻

井川比佐志の「飯作れ」の命令

 

おいしそうに食べる家族

 

幸せそうに見守る妻(幸薄そうなビジュアルがGOOD


 

メインのストーリーが面白くなかった理由としては、西部劇のスタイルをとっているにも関わらす明確な悪役がいないことで強力なライバル店との競争に勝つというカタルシスがないこと。(いくつかライバル店は出てくるが対決という感じではない)

 

そして、もう一つは改装した店のデザインが今ひとつだったり、苦労して完成した新しいラーメンの味の凄さが伝わらなかったことがあげられる。映画で味そのものを表現することは難しいのだが、開店前の試食に集まった人の表情だけではうまく伝わらない。(かと言って、どうしたら“味”が伝わるかというと自分の頭では思いつかないのだが・・・)

なので、どうしても最後がスッキリしない感じだった。

 

 

そして、これは伊丹映画全般に言えるが多くの作品で主役を務めている宮本信子にあまり魅力がないことも欠点だと思う。

宮本信子は伊丹十三の奥さんであり、映画作りのパートーナーなのであろうが、女優としてはあまり演技がうまくなく華もない。

「お葬式」は夫婦の経験を元に映画が作れていたため自然な演技ができていたし、一生懸命にラーメン作りに励む本作では力みがまだいい方に作用していた。次回の娯楽作「マルサの女」でも誇張されたキャラクターの設定が宮本信子の演技に合っていたが、その後は同じようなキャラクターと鼻につくオーバーアクトで飽きがきてしまった。

そのため宮本信子が主人公の作品は「マルサの女2」「あげまん」以降はだいたいパターンが読めてしまい、最初の3作を超える作品はなかった。

 

この映画でも途中で宮本信子が衣装を変える時にその美しさに山崎努が驚く場面があるが、その直前に渡辺謙が「ゴロー(山崎努)以外にはわからない」と言っていたようにきれいな衣装を着た後でも美しさが自分には伝わらなかった。

 

変身前(左)と変身後(右):何も変わらん

 

 

ラストシーンが何も調理の手が加えられていない母乳を飲む赤ん坊だったのが印象的。

 

時代なのだろうが、喫煙シーンがやたらと多い。タンポポやゴローが店の中でタバコを吸う場面もある。飲食店の多くが禁煙になってタバコの匂いが公共の場から消えた現在、タバコを吸う料理人は考えられなくなった。

 
 

【鑑賞方法】ブルーレイ:東宝

【英題】TAMPOPO

カラー 115

 

【制作】伊丹プロ

【配給】東宝

 

【監督】伊丹十三

【脚本】伊丹十三

【制作】玉置泰

【撮影】田村正毅

【美術】木村威夫

【編集】鈴木晄

【音楽】村井邦彦

【出演】

山崎努:ゴロー

宮本信子:タンポポ

役所広司:白服の男

黒田福美:白服の男の情婦

渡辺謙:ガン

安岡力也:ピスケン

桜金造:ショーヘイ

加藤嘉:センセイ

大滝秀治:老人

篠井世津子:おめかけさん

洞口依子:カキの少女

津川雅彦:マネージャー

榎木兵衛:ピスケンの手下

粟津號:ピスケンの手下

田中明夫:部長

高橋長英:課長

加藤賢崇:ヒラ

橋爪功:ボーイ

横山あきお:中華そば屋コック

藤田敏八:歯の痛い男

原泉:カマンベールの老婆

井川比佐志:走る男

三田和代:その妻

中村伸郎:美食家の詐欺師

大友柳太朗:ラーメンの先生

岡田茉莉子:マナーの先生