幻想的で美しい最も有名なカルト映画
評価:★★★★★
「情婦」「スパルタカス」などに出演した名優チャールズ・ロートンの監督デビュー作であったが、公開当時は批評的にも興行的にも失敗となり、失望したロートンは以後、監督することはなく、この作品が彼の唯一の監督作品となっている。
後年、再評価され現在はカルト的な名作として人気を得ている。
<ストーリー>
銀行を襲って1万ドルを奪ったベンは、娘の人形の中に金を隠した後に警察に連行される。刑務所の同室で金のことを聴いたハリー(ロバート・ミッチャム)は福音伝道師になりすまして、ベンの妻ウィラ(シェリー・ウインターズ)と結婚する。
ある夜ハリーは子供たちに金のありかを問いつめているのをウィラに目撃され彼女を殺す。
子供たちは家から逃げ出し川を下って、身寄りのない子供たちを世話している未亡人ミス・クーバー(リリアン・ギッシュ)の世話になるが、ハリーが子供たちを追ってくる。
白黒の陰影と独特な構図で美しく印象的なシーンのオンパレード
・子供たちの寝室の壁に映るロバート・ミッチャムの影
・シェリー・ウィンターズを殺害する場面の構図
・川底で髪の毛が揺らぐ美しい死体
・川下りをする小舟と川辺の動物たち。
・納屋から遠くに現れる馬に乗ったミッチャムの姿
・そして、夜の闇の中で銃を構えるリリアン・ギッシュのシルエットがローソクの灯りで反転し外のミッチャムの姿が消える場面。ここで敵対するはずのミッチャムとリリアン・ギッシュが讃美歌を合唱するのも印象的。
撮影の多くがセットで行われたとされているが空撮場面や優れた構図のロングショットも忘れがたい。
空撮シーン
ロングショットの構図のすばらしさ
また単に映像表現に優れているだけではない。
少年がハリーが逮捕される際に、目の前で逮捕された父親を思い出し、それまで恐怖と憎しみの対象でしかなかったハリーに対してぶつける複雑な感情を表現するシーンもある。
父親が目の前で警官に取り押さえられる。
ハリーの逮捕される姿が父親の逮捕の時を思い起こさせる
そして最初はハリーに簡単に心酔しウィラに結婚を勧めておきながら、犯罪者とわかると手のひらを返したように先頭に立って糾弾する老夫婦の姿は、いつの世でも大衆は周りの雰囲気や状況に流されやすいことを痛烈に皮肉っている。
ハリーに簡単に騙され、逮捕後は手のひら返しの老夫婦
憤る群衆
この陰湿な物語の最後が雪が降るクリスマスの暖かいシーンで終わるのもいい。
その後の多くの映画に影響を与えている。「サイレント・ランニング」の冒頭、宇宙船の中に人工的に作られた緑の中を美しいメロディをバックにカメラが移動し様々な小動物をとらえていく場面は川下りの場面を思い起こさせるし、冒頭の星空を背景に説教するリアン・ギッシュとそれを聞く子供たちの顔が浮かび上がる場面はデヴィッド・リンチの「砂の惑星」の最初のナレーション画面もこの映画の影響か。
「狩人の夜」のオープニング
「DUNE 砂の惑星(1984)」のオープニング
ロバート・ミッチャム扮するハリーは「恐怖の岬」に匹敵する不気味なキャラクターで、ストリップ小屋で女の踊りを見ながら「HATE」の左手はでナイフを握りしめ、その後、ポケットから出るナイフの刃が勃起した男性器を連想させ彼が異常に女性を憎悪していることが分かる。結婚してもウィラとのセックスを拒否する。
LOVE & HATEの刺青
LOVE & HATEについて熱心に解説するハリー
ヘイズコードのあった時代に主役級のスターが変質者の役を2作品で演じることが珍しく、マリファナ使用の逮捕歴(これは冤罪だったらしい)や独特のsleeping eyesもあって他のスターたちとは雰囲気が異なる。
ミッチャムにとっては、この「狩人の夜」と「恐怖の岬」、「ライアンの娘」、「エディ・コイルの友人たち」あたりが代表作だろうか。
子供たちの乗ったボートを逃した時に突然、吼えるようなうなり声や姿も脳裏に焼き付く。
リリアン・ギッシュの子供たちに対する節度のある愛情と、子供の危機に毅然として立ち向かう姿が素晴らしい。
「ポセイドン・アドベンチャー」の太った元水泳選手の老婦人役でしか知らなかったシェリー・ウィンターズの若い頃が以外に綺麗。
ブルーレイで鑑賞。
特典映像にロートン夫人から提供された素材を元に構成された2時間以上の「チャールズ・ロートンが「狩人の夜」を監督する」という素晴らしいメイキングが入っている。
出番が終わった子役を抱きしめるロートン監督
撮影風景
【鑑賞方法】ブルーレイ(字幕):KADOKAWA
【原題】THE NIGHT OF THE HUNTER
モノクロ 93分
【制作】UA
【配給】ケーブルホーク
【監督】チャールズ・ロートン
【脚本】ジェームズ・アギ―
【原作】デイヴィス・グラブ
【制作】ポール・グレゴリー
【撮影】スタンリー・コルテス
【美術】Hilyard Brown
【衣装】Jerry Bos
【編集】ロバート・ゴールデン
【音楽】ウォルター・シューマン
【出演】
ロバート・ミッチャム:ハリー・パウエル
シェリー・ウィンタース:ウィラ・ハーパー
リリアン・ギッシュ:レイチェル・クーパー
イヴリン・ヴァーデン:アイシー・スプーン
ピーター・グレイヴス:ベン・ハーパー
ドン・ベドー:ウォルト・スプーン
ビリー・チャピン:ジョン・ハーパー
サリー・ジェーン・ブルース:パール・ハーパー
グロリア・カスティロ:ルビー