素晴らしいアイデアの本格的SF映画

 

評価:★★★☆☆

 

 

円谷英二の東宝特撮映画50本目の節目として、構想3年、製作費38000万円、製作延日数300日、特撮パートが全体の3分の1を占める超大作(「東宝特撮映画大全集」より)

いわゆる怪獣映画以外の東宝特撮映画では「宇宙大戦争」「地球防衛軍」「世界大戦争」と並ぶ傑作。

 

 

 

“妖星”という言葉もいい。

 


 

時代設定は1979年、この映画の製作当時(1962年)はアメリカとソ連の宇宙開発競争中で、当時の映画関係者は20年後には月どころか火星や木星、土星などに人類が到達し大宇宙時代が来ることを想像し期待していたことがわかる。現実には宇宙開発には膨大な予算が必要なため、半世紀以上経過した今日まで人類は月より遠くには行っていない。

また、当時の東西冷戦や原子力の平和利用などのテーマを扱い「世界大戦争」に続いてハードな本格的SF映画として制作された。

 

 

 

<ストーリー>

質量が地球の6,000倍あるという妖星ゴラスが発見され、いずれ地球に衝突することがわかる。

ロケット推進装置を南極に設置し地球の軌道を変えるという「地球移動計画」が提案され、南極に巨大ジェットパイプが建造されていく。

完成したジェットパイプ基地のジェット噴射は、地球を動かし始めるが、地球の各地ではゴラスの引力によって多くの天変地異が発生する。はたしてゴラスとの衝突は回避できるのだろうか?

 

 

 

30年以上後になってアメリカが「アルマゲドン」や「ディープ・インパクト」など同じ彗星衝突のテーマを扱った映画が作られたが、解決策は彗星を爆破してしまうという単純な方法で、爆破に向かうヒーローたち(当然アメリカ人)の自己犠牲で危機を回避するという日本人以上に浪花節的なドラマになっていたことを考えると、この時代に邦画の作り手たちが衝突を回避するために地球の軌道を変えてしまうという大胆な発想をしていたことが素晴らしい。

 

 

特撮は冴えに冴えており、富士山麓の宇宙港の広大なセット、南極の噴射口の工事中の風景や基地内のデザイン、クライマックスの洪水シーン、垂直離着陸可能な飛行機や宇宙ステーションなど、さすがに円谷英二の50本記念の大作だけある。

 

宇宙港

 

 

 

噴射口の工事風景

 

 

基地内のセット

 

 

洪水シーン

 

 

宇宙船内の潜望鏡はご愛敬。


 

残念なのは途中でマグマというトドみたいな怪獣が出てくることで、ストーリー上の必然性がなく、安易に人気の怪獣もの路線を入れないで欲しかった。

 


全く必然性のない怪獣の登場が残念


 

主役は池部良だが、東宝特撮ではおなじみの平田昭彦、佐原健二、田崎潤、上原謙、志村喬らに加えて、シリアスなSF的内容を意識して普段はあまりSF映画には顔を魅せない小沢栄太郎や西村晃が高官役で出演してリアリティを高めている。

 

特撮映画に出演は珍しい:小沢栄太郎と西村晃


 

若手では陽気な久保明と美しい水野久美の特撮映画でおなじみのコンビがいい。

水野久美:眼福のひと時


 

後年テレビできれいなお母さん役を演じていた白川由美も主役級で出ているが、この人は映画女優としては綺麗だが、あまり魅力がなく、この作品の他にも主役級で映画に何本も出ていながら代表作や名演技などが全く思い浮かばないという稀有な女優で、この映画でも水野久美の存在感と美しさに負けていた。

またこれは本人の責任ではないが演じているキャラクターも何か変。バカンスに来ていた道中で打ち上げられたロケットを見て初めて自分の父親が乗っているロケットだと指摘される場面があるが、土星までの長期の宇宙任務に行く父親の日程を知らず見送りにも行かないなんてことがあるのか?

またクリスマスに街で浮かれていて家に帰ってきて父の死亡を知る場面があるが、すでに祭壇と遺影が飾ってあって自分以外の関係者には連絡がついてほぼ全員揃っているのだから父が死んでから相当な時間が経過しているはずなのに娘だけが知らないのはおかしい。


 

 

やたら長く挿入されている宇宙船のパイロットたちが歌う軍歌はなにか意味があるのだろうか?

 


謎の合唱シーン(長い)


 

久保明の記憶喪失のエピソードもうまく本筋に絡んでいない。

 

ジェット噴射によって南極の氷が溶けたり、大気に影響が出ないのか、また軌道を動かした後の地球の自転の変化やさらに大きな気候変動などで結局は人類は滅亡してしまうのではないか、という疑問はあるのだが。

 

もう少しで「世界大戦争」と並ぶシリアスな本格的SF路線の傑作の誕生だったのに惜しい。

 

 

 

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ:東宝

【英題】GORATH

カラー 88

【制作会社・配給】東宝

 

【監督】本多猪四郎

【脚本】木村武

【原作】丘美丈二郎

【制作】田中友幸

【撮影】小泉一

【美術】北猛夫、阿部輝明

【編集】兼子玲子

【音楽】石井歓

【特撮】円谷英二

【出演】

池部良:田沢(宇宙物理学会博士)

上原謙:河野(宇宙物理学会博士)

志村喬:園田謙介(古生物学者)

白川由美:園田智子

水野久美:野村滝子

佐々木孝丸:関総理大臣

小沢栄太郎:木南法相

河津清三郎:多田蔵相

西村晃:村田宇宙省長官

佐多契子:秘書

田崎潤:園田(隼号艇長)

桐野洋雄:真鍋(隼号副長)

平田昭彦:遠藤(鳳号艇長)

佐原健二:斎木(鳳号副長)

西条康彦:鳳号通信員

久保明:金井達麿(鳳号パイロット)

太刀川寛:若林(鳳号パイロット)

二瓶正典:伊東(鳳号パイロット)

堺左千夫:医師

天本英世:キャバレーの客