“七人”という絶妙な人数

 

 

評価:★★★★★

 

 

映画に夢中になり始めた1975年。黒澤明の「七人の侍」の全長版がリバイバル公開されることが話題になっていた。

そのころは洋画を中心に鑑賞していて邦画には詳しくなかったが、親が「この映画は見たほうが良い」と言って、有楽町のテアトル東京という大劇場に連れて行ってもらった。

凄い熱気だった。売店ではパンフレットと黒沢関係の本が飛ぶように売れていて自分もパンフレットと「悪魔のように細心に天使のように大胆に」という本を買ってもらった。

 

 

 

 

そして映画は大傑作だった。

 

 

<ストーリー>

戦乱の時代、相次ぐ野武士集団の略奪に農民たちはおびえていた。

ある村は長老の提案で侍を雇って村を守ることになった。

町で侍を探しに行く四人(土屋嘉男、藤原釜足、左卜全、小杉義男)。

子供を人質にした盗人を退治した勘兵衛(志村喬)が協力してくれることになり、侍探しが始まった。

集まった五人(宮口精二、加東大介、木村功、千秋実、稲葉義男)と野生児のような菊千代(三船敏郎)を入れた七人の侍が村に到着し、野武士の襲撃に備えて村人の戦闘訓練と村の要塞化が進むなか、野武士の襲撃が始まる。

 

 

工藤栄一監督の「十三人の刺客」のような集団抗争時代劇を見てもわかるように仕事チームの人数が10人を超えると中心になる数人とそのほか大勢というふうにキャラクターの描き分けが雑になる。
 

「四方に備えるだけでも四名、後詰にニ名、どう少なく見積もっても、わしを入れて七名」(勘兵衛)
 

七人という数字は単に戦略上、必要というだけではなく、一人一人のキャラクターを十分に描ける人数でこの映画が名作と言われている理由は単にアクションシーンの迫力だけではなく、前半の侍集めの部分も飽きさせない工夫が脚本にあるからだろう。

 

 

七人の侍

①勘兵衛(志村喬):リーダー

  剣の腕だけではなく、知力や人望にも優れた人物。理想的なリーダー

 


②五郎兵衛(稲葉義男):参謀

  決して自分が前面に出すぎず、勘兵衛と一緒に戦略を練る。

 

 

③七郎次(加東大介):古参兵

  腕のいい侍だが戦略を練る場面には登場しない。完全な現場実践主義。

 

 

 

④久蔵(宮口精ニ):剣豪

  孤高の剣豪。五郎兵衛が倒れた後は五郎兵衛の代わりに勘兵衛と戦略を練る。

 

 

 

⑤平八(千秋実):ムードメーカー

  ユーモラスなキャラクターは皆を和ませるが本格的な決戦を前に倒れる。

 

 

⑥勝四郎(木村功):新米

  恋に剣の修行に純粋に励む。久蔵に憧れている。

 

 

⑦菊千代(三船敏郎):ジョーカー

  百姓と侍の架け橋。完全に野生児。何故か子供に大人気。

 


 

勘兵衛の弓、七郎次の槍、菊千代の大刀など武器のバリエーションも見事。

 

侍たちだけではなく、百姓たちのキャラクターの描き方も丁寧で、娘を心配し男に見せかけるため髪を切る万蔵(藤原釜足)、川向こうの自分の家を引き払うことになってしまう茂助(小杉義男)、女房を取られ野武士を恨む利吉(土屋嘉男)、そしてLOVELY与平(左卜全)。4人の侍探しに出かけた百姓たちのうち、与平だけ死んでしまうのは哀しい。


万蔵と儀作

利吉と与平

 

 

 

侍を雇って村を守ることを決意する長老:「やるべし!」

 

 

この映画の脚本の優れているところは人物の描き方だけではなく、ストーリーの展開にも、いたるところに判りやすくする工夫があることで、勘兵衛と五郎兵衛が村を見回りする場面では村の地理を大まかに把握することができたし、地図の横に野武士の数を〇で書いて倒すごとに×を付けていくことで野武士の残りの数がわかった。

勘兵衛の地図&野武士の頭数記録

 


 

映画の前半は侍集めと百姓の戦闘訓練が描かれている。

  

侍集めでは若き日の仲代達矢と宇津井健が登場 

 

戦闘前に引払うことになった川向こうの三軒の住人が訓練を離脱しようとした時に、勘兵衛が初めて百姓たちに向かって刀を抜く。

 

ここで “休憩”になるのも秀逸なタイミング

 

 

 

そして、休憩後の後半は野武士との戦闘開始となる。

まだ序盤戦の夜襲で“苦しい時には重宝な男”平八を失い、中盤戦では参謀格の五郎兵衛を失うことによって、頭数が減ってきた野武士との侍側との戦力の均衡がとれ、後半の戦闘が面白くなる。

海外版リメイクの「荒野の七人」の残念だった部分はガンマン7人中4人が死ぬことになるが、4人とも最終決戦でバタバタと死んでしまうところだった。

 

もちろんアクション映画としても一流で、スローモーションの久蔵の対決シーン、夜襲の時の燃え上がる野武士の砦、竹やりで野武士を突き殺す百姓たち、そして豪雨の中の最終決戦雨の中、しぶきを飛ばして走る勘兵衛の矢などCGなどがない時代にこれだけの迫力のある映像を作ることができるのは並大抵の才能ではない。

  

 

 

 

馬のシーンの迫力(ピントが合ってるのが凄い)

 

 

 

豪雨の最終決戦

「残るは十三騎、これは全部村に入れる」

「勝負はこの一撃で決まる」

 

 

勘兵衛が飛沫を飛ばして弓を射る

 

「一本の刀では五人と斬れん」
 

 

奮闘する菊千代
 

久蔵倒れる!

 

世界中を熱狂させたミフネの尻

 

 


「勝ったのはあの百姓たちだ。わしらではない」

 

 

クライテリオン版と東宝版ブルーレイで鑑賞。

クライテリオン版は、大島渚と黒澤明の長い対談(映画監督としての作風が全く異なるこの2人の対談は面白い)、メイキングなどが入っていて特典が満載なのと、意外にわかりやすい英語字幕が聞き取りにくいセリフを補ってくれて重宝していた。

 

黒澤明と大島渚の対談

 

 

メイキングには橋本忍(脚本)と堀川弘通(助監督)のインタビューが入っている

 

今回、新しく発売された東宝の4Kブルーレイは画質、音響ともに最高だった。

 

 

 

 

【鑑賞方法】ブルーレイ:東宝 & CRITERION COLLECTION

【英題】SEVEN SAMURAI

モノクロ 207


【制作会社・配給】東宝

 

【監督】黒澤明

【脚本】黒澤明 橋本忍 小国英雄

【制作】本木荘二郎

【撮影】中井朝一

【美術】松山崇

【編集】岩下広一

【音楽】早坂文雄

【助監督】堀川弘通

【出演】

三船敏郎:菊千代

志村喬:勘兵衛

加東大介:七郎次

木村功:勝四郎

千秋実:平八

宮口精二:久蔵

稲葉義男:五郎兵衛

津島恵子:志乃

島崎雪子:利吉の女房

藤原釜足:万造

小杉義男:茂助

左卜全:与平

土屋嘉男:利吉

高堂国典:村の長老・儀作

東野英治郎:盗人

上田吉二郎:斥候A

多々良純:人足A

堺左千夫:人足B

渡辺篤:饅頭売

小川虎之助:豪農家の祖父

山形勲:鉄扇の浪人

上山草人:琵琶法師

千石規子:豪農家の嫁

仲代達矢:町を歩く浪人

宇津井健:町を歩く浪人