スーパースター:スティーヴ・マックィーンも燃え尽きる
評価:★★★★☆
映画に目覚めたのは1970年代半ばの中学生の頃、初めて親抜きで友人と見に行った映画がこの「タワーリング・インフェルノ」で、大スクリーンで見るスペクタクルに興奮し、消防隊長を演じるスティーヴ・マックィーンのファンになった。
その後も、劇場で3~4回、ソフトもレーザーディスク、DVD、ブルーレイと発売されるごとに購入し続けた。今は廃刊になってしまったが「ロードショー」という映画雑誌の別冊も購入し今でも持っている。
ということで初めての映画レビューは「タワーリング・インフェルノ」から始めます。
1960年代後半はセックスと暴力をテーマにしたアメリカン・ニューシネマの時代で、家族やカップルで楽しめる娯楽映画が少なかったが、1970年代に入ると「ポセイドン・アドベンチャー」「スティング」「エクソシスト」などの王道の娯楽映画が大ヒットしていた。
「ポセイドン・アドヴェンチャー」で大成功したプロデューサーのアーウィン・アレンが同じスタッフで20世紀フォックスとワーナーブラザーズという2大メジャー初の合作で高層ビル火災を題材にした作品を制作し、当時のトップスターであるスティーヴ・マックィーンとポール・ニューマンが共演するというニュースが映画雑誌に出たときは衝撃的だった。
安易にオールスター映画に出ない正真正銘の一枚看板のスター同士の競演に当時の映画ファンは期待に胸を膨らませて公開を待った。(1970年代はアメリカのヒット作は半年から一年遅れで日本公開だった)
原作は2作あって「THE TOWER(塔)」と「THE GRASS INFERNO(ガラスの地獄)」。
両者を合わせて「THE TOWERING INFERNO(そびえたつ地獄)」とうまい命名。
<ストーリー>
素晴らしい特撮技術、アカデミー賞受賞の主題歌、オールスターのスペクタクル映画として大変面白く、パニック映画の決定版という感じだった。
ただし、人間ドラマの部分では前作の「ポセイドン・アドベンチャー」の方が上回っていたように思う。
人間ドラマが弱くなった要因としては、議員や市長が典型的な正義感で、悪役を娘婿のリチャード・チェンバレン一人に背負わせてしまったキャラクター設定の安易さや、カップルが5組もあって恋愛関係の描写が薄くなってしまった部分だろう。
冒頭の「自分の命をかえりみず人名救助に励む、全世界の消防士にこの映画を捧げる」というテロップ。
エンディングのマックィーンの「今夜は運がよかった。死体は200足らず、いまに1万人も死ぬような火災がおきる」という最後のセリフ。
そして隣のビルもかなり高層で、2本の高層ビルの遠景は否が応でも9.11のツインタワーの悲劇を連想させる。
この映画の制作時の大きな話題はスティーヴ・マックィーンとポール・ニューマンというスーパースターの競演だった。
当然、2大スターのどっちがトップビリングを取るか話題になったが、映画のオープニングではマックィーンが左下、ニューマンが右上。
これではどうしても左側にあるマックィーンに先に目が行ってしまうし、当時、多くの映画雑誌のキャストの紹介もマックィーン、ニューマンの順だった。
ところが映画のエンドロールでは同じ配置で下から上にスクロールしてくるので、ニューマンの方が先に目に入るようにされていた。これでほぼ同格。
クレジットでここまで苦労するほど同格のスーパースターの共演は空前絶後ではないか?
エンドクレジット(下から上にスクロールするのでPAULが先に目に入る)
しかし映画の中ではスティーヴ・マックィーンの圧倒的な存在感と格好良さが勝っていた。開始から30分以上経過してからの登場にもかかわらず、その後は大活躍で、ほかの登場人物のように恋愛関係が描かれることもなく、ひたすらプロフェッショナルに消火作業に徹し、防火服の下は半袖ワイシャツに無地のネクタイという姿も好印象。最後のセリフもマックィーンがもらっている。
マックィーンの登場シーン
(ワイシャツ+ネクタイがポイント高し)
防火服でも格好いい
ポール・ニューマン(見せ場少な目)
ラストシーン
最初はマックィーンが設計士、アーネスト・ボーグナインが消防士というキャスティングだったが、自分と同格に近い俳優が設計士を演じるなら自分は消防士の役に変更したいと言ってキャスティングが変更されたと言われているが、この判断は大正解。
ポール・ニューマン主演の「傷だらけの栄光」のちょい役から18年、実質、ニューマンに勝ったこの映画の出演後はマックィーンは燃え尽きてしまい癌におかされ晩年まで目立った仕事がなかったのが残念。
オールスターキャストでマックィーン、ニューマン以外にもいろいろなスターが出演している。
当時、絶頂期にも関わらず添え物程度の役柄なのが哀しいフェイ・ダナウェイ、70年代に入って急に老け込んだウィリアム・ホールデン(この当時56歳!)、本作でアカデミー賞にノミネートされたダンスの神様フレッド・アステア、いつもの政治家役のロバート・ヴォーン、一人で悪役を全部引き受けたリチャード・チェンバレン、パニック映画ではおなじみ途中退場してしまう忘れられた過去の大スタージェニファー・ジョーンズ、私生活でお騒がせO・J・シンプソン、この人も私生活でお騒がせロバート・ワグナー、その他ダブニー・コールマンや主題歌を歌っているモウリーン・マクガヴァンもちょっと顔見世しています。
オールスターキャスト揃い踏み
CGがない時代での炎の描写とアクションシーンのスタントは大変だと思うが、かなり迫力があります。
屋上からヘリで救出しようとするが失敗(ヘリ炎上)
ビルのあちこちで爆発が起こる
もはや煙突状態
しかし、ビルのガラスがイスを投げつけたり、人の体が当たったぐらいで簡単に割れてしまうのと、登場人物の多くがやたらと鉄製の手すりをつかまって移動する場面が多いのは気になった(普通熱くて触れないのではないか)
人が当たっただけで簡単に割れるガラス(このガラスも経費節減の手抜き?)
手すりを素手で・・・(熱い!)
ジョン・ウィリアムズの高揚感あふれるメインタイトルも最高だったし、映画の見せ場のほぼすべてを網羅した“全部乗せ増し増し“のポスターイラストも秀逸。
この当時は飛ぶ鳥を落とす勢いだった製作者のアーウィン・アレン。
この後、映画界は特撮技術の進歩で「スター・ウォーズ」「未知との遭遇」などSF映画ブームとなったが、アーウィン・アレンは安っぽい合成で相変わらずパニック・スペクタクルに固執し「スウォーム」「ポセイドン・アドベンチャー2」「世界崩壊の序曲」と凡作を連発して表舞台から消え去った。
【鑑賞方法】ブルーレイ(吹替):ワーナー
【原題】
カラー 165分
【
【脚本】スターリング・シリファント
【原作】トーマス・N・スコーシア フランク・M・ロビンソン リチャード・マーティン・スターン
【制作】アーウィン・アレン
【撮影】フレッド・コーネカンプ ジョセフ・バイロック
【音楽】ジョン・ウィリアムズ
【主題歌】モウリーン・マクガヴァン
【特撮】L・B・アボット
【出演】
スティーブ・マックイーン:マイケル・オハラハン
ポール・ニューマン:ダグ・ロバーツ
ウィリアム・ホールデン:ジェームズ・ダンカン
フェイ・ダナウェイ:スーザン・フランクリン
フレッド・アステア:ハーリー・クレイボーン
スーザン・ブレイクリー:パティ・シモンズ
リチャード・チェンバレン:ロジャー・シモンズ
ジェニファー・ジョーンズ:リゾレット・ミュラー
O・J・シンプソン:ハリー・ジャーニガン
ロバート・ヴォーン:ゲイリー・パーカー上院議員
ロバート・ワグナー:ダン・ビグロー
スーザン・フラネリー:ローリー
シーラ・マシューズ:ポーラ・ラムジー市長夫人
ノーマン・バートン:ウィル・ギディングズ
ジャック・コリンズ:ロバート・ラムジー市長
ドン・ゴードン:カピー消防士
フェルトン・ペリー:スコット消防士
グレゴリー・シエラ:カルロス
ダブニー・コールマン:消防署副署長
スコット・ニューマン:若い消防士
ジョン・クロウフォード:キャラハン
モーリン・マクガヴァン:歌手