【映画】怪物 | おきらく映画ファンクラブ

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怪物(2023・日・125分)

監督:是枝 裕和

脚本:坂元 裕二

音楽:坂本 龍一

出演:安藤 サクラ、永山 瑛太他

*カンヌ国際映画祭 

 脚本賞、クイ・パルム賞受賞

 

どこにでもある子供の喧嘩のはずが

誤解や勘違い、思い込みから

学校、マスコミ、世間を騒がせる

事件へと発展する

 

いいとか、凄いとか、感動なんて

言葉じゃ言い表せないくらい

私は心が震えました。

そりゃ、脚本賞を獲るわ。

ヒューマンドラマという

ジャンルで紹介されていますが

ミステリーであり

サスペンスでもあり

ファンタジーでもあり

ラブストーリーでもあると思います。

 

是枝監督28年ぶりの監督専業

つまり今までの作品は

企画脚本の時点から

監督自身が関わっていたという事です。

脚本家・坂元裕二さんとの

コラボの経緯は不明ですが

恐らく何らかの化学反応を期待して

新しい挑戦をされたような気がします。

キャストも安藤サクラさん以外は

全員是枝組初参加。

しかしながら田中裕子さんや

永山瑛太さん、高畑充希さん

中村獅童さんなど

脇を固める俳優さんの

贅沢かつ的確な配置。

東京03の角田さんも含め

奇跡のキャスティング

だったと思いますよ。

 

母親の視点、教師の視点

子供たちの視点

事実は一つなんだけど

真実は一つではないのかも。

 

不穏なファーストカットから

中盤そして後半の

クライマックスまで

物語が進むにつれ

誰が「怪物」なんだろう?って

考察しておりました。

候補はチラシの5人かって?(笑)

いえいえ、そこは

鮮やかに予想を覆されました。

 

カンヌで脚本賞と同時に受賞した

クイア・パルム賞とは

LGBTQのカテゴリーの中で

優れた作品に授与されるものです。

「戦場のメリークリスマス」の

作曲家・俳優として出演した

坂本龍一さんの音楽を起用したのも

こっそりとメッセージを

忍ばせたのではないかと私は感じました。

 

日本ではお馴染みのイジメや

モンスターペアレント

教育現場の閉鎖的な状況

マスコミの取り上げ方など

複合的な原因を示すために

問題を詰め込みすぎた感はあります。

 

また、彼がイジメられる原因や背景

イジメる側の理屈も不明瞭です。

しかし、製作側の理想や想像で

観客をミスリードするのでなく

むしろ事実だけを淡々と描くことで

誰にも降りかかるかもしれない

「誤解」や「冤罪」で済まない

恐怖を増幅させます。

 

子供というのは大人が想像する以上に

大人の事情を把握して演技しています。

大人の喜ぶ言動と自分の現実の乖離を

受け入れられないことに悩んでいる

子供もいると思います。

その点、欧米人の方が「自由」とか

「多様性」に対し寛容です。

日本だとまだ大人と子供の関係性も

扶養する者と期待にこたえたい者という

愛情という名の束縛に近い気がします。

人と違うという事に不安や嫌悪感を

感じやすい国民性もあるでしょう。

 

誰が「怪物」だったのでしょう。

私はそもそも「怪物」なんて

いないと思います。

それは乏しい想像力で作り上げた幻想。

得体のしれない感情に「怪物」

と名付けただけのもの。

シンプルに「違和感」こそが

「怪物」であり人の心も真実さえも

脅かす厄介なものだと思いました。

 

私は映画の途中から、まるで舞台劇を

見ているような錯覚を覚えました。

眼も心も頭も五感も研ぎ澄ませて

スクリーンの中のドラマの行方に

集中していました。

エンドロール終了後

私は一人でも「ブラボー!」と

スタンディングオベーションをしたかった。

でも、できなかったんだよな・・・

 

素直に感情表現できる

カンヌで観たかったな(笑)