プリデスティネーション、見ました。

2015年3月1日、ユナイテッドシネマズとしまえんにて。

http://www.predestination.jp/

オーストラリア出身のスピエリッグ(スピーリグ)兄弟による監督作。ピーターとマイケル。1976年生まれの双子だそうです。

3月1日だから映画が安い。としまえんの上映ラインナップから良さげな作品を選んだ結果この映画を見ることにしたんですが。

こんな映画に出会えたことが本当に嬉しくて、暗がりでガッツポーズしまくりましたよ。



あらすじ。

爆破テロ犯を追い詰める男。銃を突きつけるものの逃げられ、爆破を阻止できずに爆風を浴びて吹き飛ぶが、命からがらバイオリンケースに手を伸ばす。ケース型タイムマシンを起動した彼は1992年にジャンプして死を免れ、整形外科手術で「別人のような顔」を手に入れる。

男(イーサン・ホーク)はタイムマシンを駆使して事件に対処する公安組織[The Temporal(時間の) Bureau(局)]、男はそこに所属している。数々の指令をこなしてきた男が、最後のミッションとして1970年にジャンプ。バーテンダーとしての生活を続けながら一人の男を待ち続ける。

そこに現れる一人の男(サラ・スヌーク)。バーテンダーは男から身の上話を聞き始める。それは数奇で不可解で長ーい過去だった…

ある意味ここまでがプロローグで、バーテンダー相手に己の過去を語る男の半生が映画の軸を担っている構成です。「今」何が起こっているのかという視点に捕らわれると「男が思い出話を続けている映画」になってしまうので、「今」という時間軸は意識から忘れた方がいいです。

男はかつて女だった。

孤児として育てられるも、知性・体力ともに優れている彼女=ジェーンはその才能を持て余して社会的に孤立するように。

ジェーンに救いの手を差し伸べたのはタイムスコープという謎めいた民間企業。宇宙飛行士への女性斡旋が目的の奇妙な企業体制だったが、無味な日々の中で得られなかった生きがいを見つけたジェーンは積極的に「結果」を残そうとする。

しかしある時に同じ立場の候補者女性と揉め事を起こして退社を余儀なくされる。

その後恋に落ち、

恋人は突然姿を消し、

妊娠し、

出産するも、

その子供は何者かによって誘拐され二度と会えなくなり、

病気の治療のために性転換を余儀なくされ、

ジョンという名の男として生きる事を決断。

そんな自分の半生を独白雑誌に投稿。ペンネームをThe Unmarried Mother(未婚の母)とする。

そして、オープニングから登場しているバーテンダー=航時局の一員と出会う。

…このような展開がナレーションと共に語られていきます。

ジェーン=ジョン=未婚の母を演じたサラ・スヌーク。彼女はオーストラリアを代表する若手女優なのですが、彼女のルックスと演技が本当に魅力的で。ヨシダの中では「今年のベスト女優決定だな」などと思いました。

女性としての佇まいはコケティッシュ?な部分を強調していて、なおかつ美人すぎないルックスが逆にツボで。上記のメガネっ子モードでは無敵状態の可愛らしさでした。もちろん演技も達者。

そんなジェーンが傷つき、数々の不幸を受け入れて男性になるわけですが、男になろうと努力する過程もきっちり描いていてこれがまた素晴らしいんですね。こういう過酷なチャレンジを俳優に課す映画って結果的にスベることはないんですよ。

バーテンダーと未婚の母が出会ってどうなっていくか、終盤に至るまでの展開はそんなに斬新でもないし振り回される感覚もあまりないのですが、演出テンポ、世界観美術などなどがきっちりしてるから映画に集中できるんですね。

しかしこの映画のオチは…愕然としたし歓喜したし、この結末を選んだスピーリグ兄弟に喝采を送りたいと思いました。ネタバレとして言葉で説明すると陳腐になってしまうから書きませんけど。

タイムループものの映画なので過去の色んな作品を思い出しました。『LOOPER』、『ミッション:8ミニッツ(Source Code)』、『STEIN'S GATE(ゲーム)』。シュタゲはともかく、今作はタイムループもののエンディングとして圧倒的なインパクトを残してきた『LOOPER』『ミッション:8ミニッツ』に匹敵するインパクトの結末だと思います。

一見するとバッドエンドに思えるんだけど、しばらく反芻しているうちに「もしかしたら彼はああすることで自分の魂を浄化できたんじゃないか」なんて思えてきたりして、解釈するのがとても楽しい映画でした。

主役的ポジションにいるイーサン・ホークも、クールな佇まいだけど瞬間的に露呈する弱さが彼らしいなあと感じたし、演出としても見事でした。

この作品はSF界の重鎮ロバートAハインラインの短編小説『輪廻の蛇』の映画化なんですが、よくもこんなネタを映画化しようとしたなあ、と感心しましたね。鮮やかな手腕を見せつけられました。

タイムループものであり、復讐劇であり、悲劇的な恋も描きながら、これまで見たことがないような関係性だったり。多面的な物語なので噛み砕くのが難しいのですが、だからこそ後味の良い上質な映画でした。低予算だし地味だけど、人の心に何かを問いかけるパワーがこの映画にはあります。オススメ!!

ちなみにスピーリグ兄弟の前作は吸血鬼をモチーフにした『DAYBREAKER(デイブレイカー)』で、早速レンタルして見てみたら、これが傑作!斬新な世界観とグイグイ引きこむ展開、ハリウッドには出せない味わいもあって、とても好印象でした。未見の方は是非ご覧あれ。