シェフ 三ツ星フードトラック始めました、見ました。2015年2月28日、TOHOシネマシャンテ(日比谷)にて。

http://chef-movie.jp/



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この映画を見た時にメモを持っていなかったので、1ヶ月前の記憶を頼りに書くしかないのですが…結論から言うとけっこう好きです。しかしクライマックスの展開が…違和感ありました。

主人公は一流シェフ。部下には慕われ、名声も得ている陽気な男。演じるは、今作の監督も務めるジョン・ファブローです。

日本語タイトルで「フードトラックを始める話」とネタバレしてるわけですが、主人公がフードトラックを始めるまでの経緯はかなりじっくり描いています。邦題の印象だと冒頭20分くらいでフードトラック業務が始まっちゃうんじゃないかって感じですけど、そういう端折り方はしてない。

務めているレストランのオーナーと衝突する、匿名批評家の酷評にキレる、クビになる。という流れの中に、別れた妻の元にいる息子との交流が多めに描かれていきます。

料理人としての名誉よりも家族との絆を取り戻す方が大事ってわけです。その息子との結びつきをいかにして獲得していくのか。

それまでロクに会話もしてこなかったけど、一緒の時間を過ごすことによって自分の無理解と息子の孤独感が身にしみて…のようなよくある(曖昧な)描き方ではなく、父親のフードトラック業務を手伝うことで父の偉大さや優しさを再認識していくのです。

自分の仕事ぶりを子供に見せたがらなかった父は、元妻に子育てを一任してきたことや父子間のコミュニケーション不足という負い目からフードトラックへの同乗を認めます。そこからこの映画は「ロードムービー」になります。

アメリカを横断する主人公たちを描きながら、同時に各都市の特色も捉えます。人、料理、音楽。それがどれくらい実情に迫っているかは分からないですが、アメリカらしい多様性を意識的に描いているのはよく分かります。

ロードムービー的な面白さに加えられるのが、Twitter≒SNSツールにまつわるスラップスティックコメディ感

主人公は覚えたてのTwitterで大失敗し、バッシングを受けたりクビになったりするのですが、同じくSNSの力によって自信と名誉を取り戻します。

そこにはネット慣れした息子の介助があるわけですが、このSNS描写はうまいし笑えます。Twitter、YouTube、Facebook、Vineなど、現在進行形に限りなく近いネット描写が適度なバランスで盛り込まれている。

主人公のキャラクター造形もベタになりすぎてないから良いんですよね。よくある天才系主人公の枠に収まっていない。

才能はあるけどコミュニケーションが下手で理解されにくい…ではなく、基本的には周囲に慕われるカリスマ。しかしどれだけ才能があっても現実社会において「わからず屋」との衝突は避けられない、そんなメッセージが表現されているようにも感じられるのです。

打ちのめされた主人公を支える存在として調理助手の男が登場。「ボスが辞めるなら俺も辞めるぜ!」と、見事な忠誠心を見せてフードトラックに同乗することに。

この助手を演じるのがジョン・レグイザモという名バイプレイヤー。コロンビア出身のプエルトリコ系。元はコメディアンなので今作のようなノリはお手の物。

父と子だけでは到達しえない面白さが彼の存在によって成立しているのです。父子の間を取り持つ潤滑油になったり、シェフをしっかりサポートする優れた料理人になったり、コメディリリーフだったり。彼の存在に登場人物も制作者も観客も救われている気がします。

主人公は料理人としての自信を取り戻し、息子との関係も修復させることができたわけですが。

そこから「自分の店を持ち」、「元妻と再婚する」という展開が、どうしても性急かつ詰め込みすぎな印象になってしまうのが残念!

店を持ち、スタートさせて、「やっぱり俺はこういう場所に立つべきなんだ」と再認識して、妻に再びプロポーズするという流れならまあ納得できるんですけど、店のグランドオープンが結婚披露宴になってるからなかなかビックリで。

このラストの締め方に違和感があったので見た直後は「う~ん…」となってしまいましたが、料理描写はひたすら美味しそうだし、テンポも良くて笑いどころも多かった。ジョン・ファブロー監督作品をもっと追いかけよう!という気持ちにはならなかったですが、とても有意義な時間を過ごせたと思います。

…しかしなぜ自分は、この映画を見る直前にコンビニで焼きそばを食べてしまったのか。最悪の愚行でした。

「料理を食べた人間のリアクション」を最初に見せるのがスカーレット・ヨハンソン様であり、彼女の表情と声は無駄にエロティックでした。

そういう意味でも、ごちそうさまでした!