アンドリュー NDR114 あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

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 人間とロボット、そしてその境界線。人間になりたいという願いをもつロボットのアンドリューの生涯を通して、人間の心と命を見つめる感動作。

 2005年の春、マーティン一家にロボットがやってきた。アンドリューという名前をもらったこのロボットは日々の家事の手伝いや掃除、ベビーシッターなど何でも引き受ける便利なロボットだった。

 ある日、アンドリューはマーティン家の幼い娘・リトル・ミスのために、馬の置物を木で彫って作る。これをみた父親のリチャードはアンドリューに可能性を感じ、教育を施し、書物を与え、創作活動をさせるようになる。

 やがて、年月は流れ、リトル・ミスは結婚し、家庭を持ち、子供も生まれた。リトル・ミスの一家と幸せな日々を過ごしていたアンドリューだったが、彼は人間になりたいという気持ちを強く持つようになる。やがて、アンドリューは「自由になりたい」と思うようになるのだった。

【映画データ】
1999年・アメリカ
監督 クリス・コロンバス
出演 ロビン・ウィリアムス,エンベス・デイヴィッツ,サム・ニール,オリヴァー・プラット,ウェンディー・クルーソン,ハリー・ケイト・イーゼンバーグ

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アンドリュー NDR114 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★人間になるために必要なもの

 人間になりたかったアンドリュー。彼はロボットでした。しかし、彼が望んだのは人間になること。でも人間になるには何が必要なのか。

 人間らしい外見 ? 味覚や痛覚を感じる神経 ? それとも、喜怒哀楽を感じる心 ?

 アンドリューは「神経系統が備わった」と喜びいさんでポーシャの元に駆けつけ、ポーシャにキスをしてくれるように頼みます。ポーシャのキスを感じることのできたアンドリューは喜んでいますが、その喜びは、キスの感覚を感じられたことに向けられたもの。ポーシャのキス、ポーシャの愛情を喜んでいるわけではありません。このアンドリューの態度にポーシャは「その他人行儀でバカ丁寧な態度はどうにかならないの ! 」

 アンドリューにはポーシャは婚約者がいる女性なので、その彼女に愛を訴えるなどということは合理的に考えてありえないことと考えています。アンドリューは心でポーシャを愛しつつ、アンドリューの頭に入っている陽電子回路の判断はポーシャに愛を伝えることは許されないと判断しているのです。

 そして、ロボットとして生まれついたアンドリューには頭脳がはじき出す、合理的で論理的な答えが全て。それに従うことに何らの疑いを抱いていません。それは外見を変え、神経系統を改良に改良を重ねて備えても同じ。アンドリューの思考回路は相変わらず頭におさめられた陽電子回路に支配されたままなのです。

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 ポーシャは「人間てむちゃくちゃなものなのよ」と言います。人間とは、合理的には計算できない生き物。なぜなら、人間には心があるからです。そして、その心のままに行動し、過ちを犯し、あるいは、その心に従った行動で望外の喜びを得る。

 人間とは陽電子回路で合理的に計算された通りの行動は必ずしも取らない。特に、人に対する愛情や感情的な部分の動きを100%予測することはできません。「心に従うことが大事なのよ」。ポーシャは「アンドリューには心がある」と言い、アンドリューに対して、自分の持つ心に素直に向き合うように求めます。

 アンドリューはポーシャの助言を受け入れ、自分の持つ心に正直になろうとします。ポーシャの婚約パーティを覗いたアンドリューはアンドリューの改良を研究してくれているルパートに「嫉妬している」と指摘され、自分に芽生える感情というものを初めて自覚します。その結果、分かったことはポーシャを愛しているということ。今度こそアンドリューはポーシャに真剣な愛を伝えることができました。

 「中も外も改良した」というアンドリュー。しかし、心を育んだのはルパートの改良のおかげではありません。それは今まで、アンドリューがしてきたことすべてから生まれた自然な感情の発露。心だけは技術や改良でどうにかなるものではありません。

 次のアンドリューのステップは人間として社会的に認めてもらうこと。ポーシャの愛を得、私生活の充足を得たアンドリューは次に社会的な認知を求めました。ポーシャはアンドリューを心から愛していてくれます。社会的にアンドリューが人間として認められず、ロボットだとして見られていたとしても、何らの不自由はなかったでしょう。

 しかし、アンドリューはあくまで、社会的にも人間でありたいと願い、世界議会に訴え出ます。「私を人間として認めてほしい」。しかし、訴えは聞き届けられませんでした。アンドリューはあくまでも「人工のマシン・ロボットとして分類する」との裁定が下ったのです。

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★人間として生きること、永遠の命を生きること

 それから長い月日が経ち、新たな問題が降りかかってきました。最愛の人、ポーシャが老いてきたのです。最初の主人リチャードの死に立ち会い、リトル・ミスの死を見届けてきたアンドリューには、いずれはそのときが来る、と分かっていたことですが、アンドリューは“老い”に抵抗しようとします。

 アンドリューはリトル・ミスを亡くしたとき、「僕の大事な人たちはいつか皆、逝ってしまうんだ」と嘆いていました。「辛いけど、事実よ」というリトル・ミス。しかし、アンドリューは「そうはさせない」と決意し、人工臓器の設計図を書き、ルパートに渡して開発をし始めていました。ルパートは既に開発された人工臓器よりすごいものができるとアンドリューの設計図を賞賛しました。ルパートは人工臓器の開発を進めた結果、今では、彼の会社は市内の一等地に大きな社屋を構える大会社に成長しています。

 しかし、ポーシャの反応は意外なものでした。彼女は永遠の命を拒否したのです。「老化防止薬を飲むつもりもないし、臓器を全部取り換えるつもりもない」。

 アンドリューはなぜポーシャが死を望むのか、理解できません。彼はかつての主人、リチャードの言葉を思い出します。「人間はときとともに成長する」。しかしアンドリューにとって時は無限に存在しています。命の尽きないロボットに寿命はありません。

 「君にとって時は違う意味を持つだろうな」。リチャードはアンドリューの永遠の生について、心配もしていました。永遠に生きるとはどういうことか。仮にアンドリューに心がなければ、永遠にいきたところで、何らの支障も生じないでしょう。アンドリューがそれに矛盾を感じたり、苦しみを感じることもありません。ただ、次々に自分の仕える主人が変わっていくだけ。

 しかし、一度、心を持った者が永遠の命を手にするということは、それだけ、「愛する人の死」という苦しみを数多く味わうということになります。愛する人が次々に死んでいき、常に後に残されるという苦しみ。

 アンドリューはリチャードの死、リトル・ミスの死を経験して、その苦しみから逃れようと、人工臓器の開発にいそしみ、人間に永遠の命を与えようと研究を続けてきました。しかし、人間の体には限界があり、全てを入れ替えて生きることには無理があります。また、ポーシャのように、そのような延命を拒否する人もいる。人間は時とともに成長するから、限られた寿命であれ、その時間を生きるということに価値を感じます。

 しかし、その時が永遠に続くならば、それは単なる人生の延長、人生の無理な引き延ばしに過ぎない。人間としての尊厳とは、ただ生きていることではありません。自らの心で、意思を持って、生を望んで生きているということ。臓器を全部機械にしてまで生きるということは私の人生ではない。ポーシャは人間としての尊厳を持ったまま、死ぬことを望んでいました。

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★生きるということ 死ぬということ

 「自然の摂理」。ポーシャはその言葉で人間の生き死にについてアンドリューに説明します。「人間は一時地上に生きてそして死んでいくように定められてるの。それが正しいのよ」。アンドリューは人間になりたいと願って生きてきたロボットでした。そして、その通り、人間になるためにあらゆる努力を重ねてきました。しかし、人間の限りある寿命については、逆にロボットの持つ永遠の命を生かそうとしていました。

 ポーシャの言葉、そして、リチャードの言葉を思い出したアンドリューは永遠の命を放棄し、本当の人間になることを選択します。ルパートにさらに改良されたアンドリューは寿命を持つロボットとなりました。彼は30年から40年の寿命と告げられます、そのあいまいさに驚くアンドリュー。「それが人間と言うものなんだよ」というルパートもすっかり老けて、白髪の老人になっていました。

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★アンドリューの死

 果たして、年を取り始めたアンドリュー。再び、人間として認めてもらおうと世界議会に訴え出ます。かつて、「人間として認めてほしい」と訴えたアンドリューは今度は「ありのままの私の存在を認めていただきたい」と訴えました。今や、限りある命とともに人間となったアンドリューにとって、「人間として」認めてもらうのではなく、「ただ、今あるアンドリューと言う存在」を認めてほしいというように変化したのです。たった今、ここに存在するアンドリューはもはや人間以外の何者でもない。人間と何ら変わることのない存在である。アンドリューの存在を認めること、すなわち、アンドリューが人間であることの証明になる。

 「生きるにしても死ぬにしても人間としての尊厳を持ちたい」と訴えるアンドリュー。尊厳を求める心はやはり人間としての自然な感情の発露です。アンドリューでなくても、人間であるならば誰しも、認めてほしいという気持ちを持つはず。特に、限りある命を持つ者ならば、その時間を生きたという証として、自分の存在をきちんと認めてほしいと思う気持ちが強くなるものです。

 アンドリューは200年の人生を生き、そして、人間として認めるとの裁定を聞くことなく、その生涯を閉じました。しかし、世界議会の裁定はもう、アンドリューには分かっていたこと。例え、その裁定がアンドリューの訴えを退けるものだったとしても、ポーシャを始めとしたアンドリューに関わった人々にはアンドリューは人間だと分かっていました。愛する人の隣で、愛する人の近くで死を迎えること。アンドリューは最高の幸せを感じたまま、死んでいくことができたのです。

 ポーシャは生命維持装置のスイッチを切らせます。アンドリューの老いた手を握り、「もうすぐ会えるわ」とつぶやくポーシャ。「愛する人と天国に行ける」。アンドリューの言葉は現実になりました。

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★人間が人間であるための条件

 ルパートはアンドリューに人間そっくりの皮膚をかぶせる改良をする際にこう言いました。「このアップグレードは外観だけ、見た目だけのものだ。中身は何も変わらないまま。君がロボットであることに変わりはない」。

 人間らしい外見を持っていても、心がなければ人間ではない。どんなに人間そっくりの皮膚や目を持っていても、心がなければ、笑うことはないし、目が輝くこともない。それはただ、人間にそっくりな人形に過ぎない。それに、痛みや快感を感じる神経があったとしても、それを動かす心がなければやはり、ただの神経感覚のある人形にしか過ぎない。「人間のようなロボット」に過ぎない。

 人間にとって、一番大切なのは心です。表情や、感覚を動かすのは人間の心。その心は目には見えず、手にすることもできず、触れることはできない。それの設計図を書くこともできないし、それを部品で組み立てることもできない。けれど、心は確かに人間の中に存在していて、その心に従って人間は動く。ときには頭で考えて理性を働かせるときがあるけれど、人間の本質は心に従って動くことにある。

 例え、ロボットでなく、人間としてこの世に生を受けたとしても、心のない人はやはり人間とはいえない。そして、人間で心のない人はいない。人間かロボットかの境目はこの、心のあるなしで決まると言っても過言ではないでしょう。アンドリューが人間になるための条件とは、そのまま、人間が人間らしくあるための条件でもあります。

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★素敵な人生を送るということ

 リトル・ミスの大切なガラスの馬を壊したアンドリューは「修理すれば直りませんか」。そして、プロポーズしてくれたフランク以外に好きな人がいるけれど、その人とは結婚することは無理、だからフランクと結婚すると言うリトル・ミスに「人間というのは…」と言っていたアンドリュー。

 大切なものを壊したら、直せばいいということではなく、それの代わりはないということ、そして、ロボットのアンドリューを愛していても結婚できないから別の人と結婚するというリトル・ミスの愛が分からなかったアンドリュー。

 しかし、それから数十年も経った後に彼は人間の心を理解し、アンドリュー自身に存在する心を自覚するようになります。アンドリューは200年の人生を生き、200年かけて成長し続けてきました。リチャードから書物を与えられ、創作活動をするようになったアンドリューは自我に目覚め、自由を欲し、一人立ちし、やがて愛する人の元に居場所を見つけていきます。そして、人間として長い人生を終えました。

 人間の寿命は100年に満たないものだけれど、アンドリューの人生と人間の人生の密度は変わらない。アンドリューが見つけた大事なものと人間が見つけたい大事なものは同じです。アンドリューが200年かけて見つけたものを人間は100年足らずで駆け抜けなくてはならないから、人間はけっこう、忙しいのかもしれません。

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