映画:1408号室 解説とレビュー
映画:1408号室 解説とレビューの続きです。どうぞ。
前半を読みたい方はこちら

1408号室


★なぜ、カウントダウンが終わったあとに再びカウントダウンが始まったのか?

 神はそのひとり子(イエス)をお与えになるほどにこの世を愛してくださった。
 それは御子(イエス)を信じるものが、一人として滅びることなく、「永遠の命」を持つためである。

 上は聖書の一節です。

 「永遠の命」ですが、これは不老不死ということを意味するわけではありません。人間には必ず死が訪れます。それを避けることはできません。
 ただ、イエスを信じる者は天国という美しい場所で新しい人生を生きることができるということです。

 一方、マイクのような無神論者は自分の罪を背負って死にますので、審判では地獄行き。マイクが経験し、観客が共に見た60分は始まった地獄の片鱗にすぎません。

 マイクにとっての一番の地獄は娘の死という苦痛を永遠に経験し続けることです。何度も娘を失うという経験を繰り返すという恐怖です。

 もっと娘が生きているうちに愛してやることができた、と思う罪悪感と取り返しのつかない後悔を何度も繰り返し味わうことを想像してみてください。

 マイクに与えるべき苦痛は娘の死を繰り返し与えること、すなわちマイクにふさわしい地獄は無間地獄。また始めから娘の死という結末に向かって進む60分を味わうという無限ループなのです。

 マイクは1408号室を燃やして、この悪夢を断ち、マイクを探して1408号室に来ようとしている妻を巻き込まないようにすることを決意します。
 途中、何度も繰り返される、「生きながら焼かれる」という文字。それはマイクの最期を暗示していました。

1408号室


★サミュエル・L・ジャクソンは何者?

 ホテルの支配人オリンは悪魔か?というわけですが、そうではありません。彼は1時間ともたずに人が死ぬことを知っていましたが、その部屋に泊まろうとする者を必死に止めようとしていました。

 キリスト教では悪魔は死であるといわれます。
 悪魔は自分の最高の持ち味が人間に死をもたらす力であることを知っています。オリンが悪魔であるなら、その部屋に泊まりたいと言う者を止めることはしません。

 支配人オリンはその真逆、神の側です。彼はこの世とあの世の境にいる最後の神の使者です。1408号室に入ろうとする人間を間際で引きとめ、救おうとする神の意志の現われ、それが支配人のオリンでした。

 天国を信じあの世を信じる人間は、1408号室に死をもたらす邪悪な力があると聞けば自然と悪魔を連想します。

 従ってそう簡単に死人が出るいわくつきの部屋に行こうとはしないでしょう。あれだけ支配人が止めるのに、それでも行こうとする人間は目に見えるものしか信じていないことが明らかです。

1408号室


 キリスト教では神を信じさえすれば、死の間際であっても主イエスに救われます。すなわち、死と生の境界線上にある1408号室に向かう者に対して、あなたは神を信じますか?という最後の質問をする役割の人間でした。

 支配人オリンは、1408号室の掃除をさせていたと言っています。それを自分が見張っているから大丈夫なんだ、とも。

 掃除をしていたというのは1408号室が決して不必要な場ではなかったという証。それは審判が行われる場所であるからです。
 そして、支配人が見張っていると大丈夫な理由は、彼が神の使者であるので、悪魔を見張ることができるからでしょう。

 それでも、掃除をした者が目を失ったとオリンは言っていました。
 いわくつきの1408号室に入って室内の掃除を引き受けようという者は程度の差はあれ、神や天国を信じている者ではなかったでしょう。

 マイクに呼ばれて1408号室に空調を直しに来た黒人の男は部屋に一歩も入ろうとしませんでした。
 目を失った者は不信心者でしたが、オリンがいたのでどうにか命は助かったのです。

1408号室


★マイクに残された最後の救い

 マイクのこの世でのラストチャンスは部屋にあった聖書。

 マイクはろくに読みもせずに投げ出しました。そして、二度目に開いたときには文字が消え、白紙になっていました。
 もはや、信じるには遅すぎました。あの世への扉は開いてしまっていたのです。

 キリスト教ではこの世で神を信じず、一度悪魔の手に落ちても、地獄で改心した者が信仰を持てば、そこで神が救ってくれます。

 マイクは娘への愛の深さを改めて知り、妻への愛をも再確認しました。また、白紙ではあったけれど、一度投げ出した聖書を再び手に取っています。
 そこには神への思いが芽生え始めていることが見て取れます。

 彼が神に救われる余地は多いにあると思われます。

1408号室


★宗教映画としての1408号室

 1408号室。決して入ってはいけない地獄への入り口。

 誰もが経験があるのではないでしょうか。開かずの部屋、秘密の部屋。子供のころ、なんとなく怖くて行けなかった部屋。学校や家に一つはそういう場所ってありませんでしたか。
 
 小学校の4階にひとつだけあった部屋。真っ暗な物置で、バタンと閉まるドアがとても分厚くて重いんです。たぶん防火扉になっていたんでしょう。
 高学年になって学校行事の準備で出入りするようになるまでは怖かったですね。その恐怖感を懐かしさとともに思い出させてくれる映画でした。

 さて、1408号室はやたらにキリスト教関連の説明が多かったのですが、アメリカ発のハリウッド映画にはキリスト教の影響がかなり強い映画が多くあります。

 ターミネーターやマトリックス、最近ではキアヌ・リーヴス主演のコンスタンティンもそうです。必ずしもキリスト教の背景がなくても理解できる映画もありますが、1408号室はそうはいきません。

 そもそも無神論者と思われる男が主人公に設定されています。そして、神を信じないがゆえに地獄を見させられ、挙句の果てには悪魔に体を乗っ取られてしまいます。
 一方では、その男が改心して信仰に目覚めていく兆候も織り込んであります。
 ホラーの体裁をとりつつ、キリスト教の思想にそった宗教映画のようなストーリーになっています。

 マイクを1408号室に入れるか入れないか、マイクを改心させられるか…1408号室は神と悪魔の綱引きの場でもあります。

1408号室


★1408号室の心理描写

 1408号室は命の危険を感じるような、手に汗握る恐怖感は伝わってきます。しかし、まだ幼かった娘を亡くした父親の痛切な痛みや身を切られるような哀切の感情が分かりにくくなっているように感じました。

 ラストの方で悪魔の仕業とはいえ、娘の幻影と再会して抱きあうシーン。

 娘を亡くして傷ついた父親としての表情や妻とうまくいかずに孤独になっているマイクの表情を前半部でもっと出した方が良かったでしょう。ラストの娘との再会シーンとのギャップで泣かせるほどの感動を与える演出ができたと思います。

 この映画はホラーとしての要素とスリラーとしての要素と父と娘のドラマとしての要素といろいろ詰め込んでいますが、どれかに軸足をいまひとつ置ききれておらず、中途半端な印象を受けます。

 一つのジャンルに置ききれない要素を入れることもいいですが、どれかに主軸を定めないと、ホラーとしてみても、人間ドラマとして見ても不満の残る完成度になってしまいます。

 死と生の境界線を描く映画としてはユアン・マクレガー主演のステイという映画もあります。ステイではNYのブルックリン橋があの世への架け橋でした。この映画もおススメですね。ステイのレビューはこちら

 こちらの方は、神だとか悪魔だとかは関係しません。あくまでも、人間の精神構造や心理に注目しています。思わぬときに突然訪れた死を受け入れられない人間の心の叫びが痛いほどに伝わってくる秀作です。

 ステイは構成を凝りすぎて分かりにくい面は否めません。
 しかし、死に向き合った人間の心の複雑な動きを捉え、アーティステックに表現したという点で、ステイの方が心理描写が巧みだと思います。

 1408号室はホラーとして面白い部類には入ります。
 ただ、どうせ、父娘の関係や夫と妻の関係の回復をセカンドラインとして描くなら、もう少し器用な織り交ぜ方があったでしょう。
 そこに成功していれば『1408号室』は一押しの映画になっていたと思われます。

1408号室


★1408号室というタイトルの意味

 1+4+0+8=13。これが全ての意味だと思います。監督が言っていたとかの根拠はないので言いきりませんが、この他に思いつきません。

 13日の金曜日なんて言うホラー映画もありましたが、キリスト教圏において、13という数字は6と並んで嫌われる数字です。
 理由はなぜかよくわかっていませんが、イエスを裏切った弟子ユダが最後の晩餐で13番目の席に座っていたとか、悪魔が13番目の天使だとか(悪魔も一応天使なので)いろいろ言われています。

 キリスト教圏では13の付いたナンバリングを避けるほどなので、13は相当嫌われてますね。

 私は誕生日が13なので、あんまり悪魔の数字といわれるとがっくりなのですが。たまに、金曜日にもあたりますしね。

1408号室

 
↑赤いリンゴはイブとアダムの禁断の果実.特に聖書に『リンゴ』とは書かれていないが,リンゴが象徴的に使われる.


 以上、1408号室の解説とレビューでした。読んでくださった方、ありがとうございました。そして、お疲れさまです。

1408号室解説とレビュー前半はこちら