映画:ハート・ロッカー あらすじ -完全版-

ハート・ロッカー↑イラクのキルクークに展開するアメリカ軍。後ろはUH-60ヘリ(ブラックホーク)。.jpg

↑イラクのキルクークに展開するアメリカ軍。後ろはUH-60ヘリ(ブラックホーク)。


 「ハート・ロッカー」はイラク駐留アメリカ軍の爆発物処理班の日常を描く映画。張りつめた緊迫感が半端ではなく、今までにない戦争映画として新鮮な印象の残る秀作です。アメリカ軍がイラクで悩まされるIED(即席爆発装置)に焦点を当てているのも、映画としては初めて。

ハート・ロッカーの『解説とレビュー』はこちら

 しかし、日本での配給先が決まらず、日本公開が危ぶまれる映画でした。が、ついに、日本公開が決定しました ! 2010年3月6日よりTOHOシネマズ みゆき座、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国にて公開です。

 ブルーレイ・DVDには当然ながら、日本語版は出ていません(2009年12月末時点)。アメリカから英語版を購入するしかありません。内容を知ることが難しいと思われますので、あらすじを全てのせておきます。結末までの完全版あらすじです。ただし、自分なりに再構成しているので、その点はご了承ください。

ハート・ロッカー

↑攻撃され、炎上するハンヴィー。IEDによるもの。イラク・バグダッドにて。

↑ハンヴィー。撮影場所はアフガニスタン。アメリカ国防総省提供。.jpg

↑ハンヴィー。撮影場所はアフガニスタン。アメリカ国防総省提供。


【映画データ】
ハート・ロッカー
2008年(日本公開予定・2010年3月6日よりTOHOシネマズ みゆき座、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国にて公開)
監督 キャスリング・ビグロー
出演 ジェレミー・レナー,アンソニー・マッキー,ブライアン・ジェラティ,レイフ・ファインズ,ガイ・ピアース,デビッド・モース
ロサンゼルス映画批評家協会作品賞、監督賞受賞

ハート・ロッカー↑イラク現地で使われるハンビーのバックにはこのような表示がなされている。イラクにて。.jpg

ハート・ロッカー↑ハンヴィーの背面にアラビア語で警告文が書かれている。イラク・モスル、2007年3月7日。アメリカ空軍提供。.jpg

↑イラク現地で使われるハンヴィーのバックにはこのような警告表示がなされている。「100メートル以上離れないと撃つ」。イラクにて。

 2007年イラク。アメリカ陸軍の爆発物処理班(EOD)は日々発見される爆発物との格闘を続けている。その毎日は死と隣り合わせ。今日もトンプソンとサンボーンを始めとするB(ブラボー)中隊の面々は出動要請を受け、爆発物とおぼしき物の処理作業に取り組んでいた。

 今回のターゲットはC4爆弾で爆破する。爆発物の大きさに検討をつけ、C4爆弾4つ、40ポンド(18.14kg)の爆弾により爆破できると踏んだ。問題は誰が猫のクビに鈴をつけるか。すなわち、誰が40ポンドの爆弾を持って、爆発物の近くに行くか、だ。

 爆破のための遠隔操作ロボットも支給されているのだが、故障してしまった。ロボットが役に立たないので人力でやるしかない。今回、その役目を引き受けるマット・トンプソン軍曹は爆破から身を守る防爆服を身にまとう。

ハート・ロッカーアメリカ軍海兵隊の「IED DETONA.jpg

↑ハート・ロッカーアメリカ軍海兵隊の「IED DETONATOR」。IEDの無力化や除去に使われるロボット。イラクのキャンプ・ファルージャ近郊にて。アメリカ国防総省提供。

 防爆服とは爆破で生じる衝撃波から身を守るためのもので、見た目は宇宙飛行士の宇宙服のよう。重さはヘルメットを合わせて44kgにのぼり、手の指の部分は作業をできるように穴が開いていて指は露出している。しかも、数十キロに及ぶ大型の爆発物に対する防御力はゼロに近い。

 つまり、解除に失敗したり、思わぬときに爆発してしまえば、防爆服を着ていても死ぬことになるのだ。トンプソンは、40ポンドのC4を手にとってゆっくりと爆発物の近くに歩いて行った。

 部下のJ・T・サンボーン軍曹はその他の兵士を指揮して周囲の警戒に当たる。爆破作業を狙って狙撃してくる者や、遠隔装置による爆破をしようとする者、または自爆テロをしようとする者がいないか、周囲の警戒が欠かせないのだ。

 そうこうするうちにトンプソンは爆発物に到達。爆薬を置き、サンボーンたちの方に引き返してくる。サンボーンはそのとき、不審な男を発見した。周囲の店にいる男が何やら携帯電話で話しているのだ。遠隔操作を疑い、その男に携帯電話による通話を止めるように警告する。

 しかし、時すでに遅かった。男は携帯電話のボタンを押し、その瞬間に爆発物が巨大な地響きと轟音をあげて爆発したのだ。トンプソンは吹き飛ばされ、周囲はしばらく土煙に包まれた。

 その日、基地に帰ったサンボーンは白い箱がずらっと並んだ基地内の施設にいた。トンプソンの遺品を納めに来ていたのだ。係の兵士が事務的な態度で白い箱にパチンパチンと4か所に封をしていく。これで、遺品は封印され、本国アメリカに帰っていくことになるのだ。

 サンボーンはキャンプ・ビクトリー内に立ち並ぶ兵士用のバラックのひとつにやってきた。大音量の音楽が聞こえてくるバラックのドアをノックする。出てきたのは新たにブラボー隊に転属してきたウィリアム・ジェームス2等軍曹。彼は死んだトンプソン軍曹の代わりにサンボーンの爆発物処理班に配属されてきたのだ。

 ジェームスはサンボーンに窓際に張られた大きな木の板をどかすのを手伝ってくれという。その木の板は毎晩のようにキャンプ・ビクトリーに撃ちこまれる迫撃砲を避けるためのものだった。サンボーンは「動かさない方がいい」と注意するのだが、ジェームスは「窓だけ木の板を置いても屋根からは防げない、だったら部屋が明るい方がいい」というのだった。


※以下、ネタバレしていますので、ご注意ください。

ハート・ロッカー↑イラクで撮影。アメリカ軍・軍事情報センター提供。.jpg

↑早朝に家宅捜索を行うアメリカ軍。イラク・ラマディ、2006年。アメリカ軍・軍事情報センター提供。


「B中隊の任務終了まであと38日」

 爆発物処理班の出動要請が絶えることはない。今日も出動だ。オーウェン・エルドリッジ技術兵はキャンプ・ビクトリーにずらっと並んだ戦車を見て、自分たちが軍用トラック・ハンヴィーで任務に出かけては爆弾テロの餌食になっていることを嘆き、「戦車を回さないと下っ端の兵士は死ぬしかないんだ」と嘆いていた。

 B中隊の面々が出動要請された地点にやってくると、そこには誰もいない。無線で確認するが、場所に誤りはないらしい。警戒しながら道を曲がるとそこにはもう一台のハンヴィーが。彼らは「味方だ」と叫びながらハンヴィーに近づくが誰も乗っていなかった。どうやら燃料切れで放置されているらしい。

 ジェームスは向こうの建物からアメリカ国旗を振っている手を発見。近づいていくと、8名ほどの米兵が崩れかけた建物の隙間に隠れているではないか。彼らによると、近くにIED(即席爆発装置)があると情報提供者が警告してきたのだという。しかし、燃料切れで身動きが取れなくなり、救援が来るまで隠れていたのだった。

 IEDの処理には、防爆服で対応するとジェームスはいい、さっそくIEDを探しに出かけた。サンボーンらから離れた地点に来ると、ジェームスは発煙弾を放ち、スモークを張ってしまった。これでは、サンボーンらはジェームスの援護射撃ができなくなってしまう。サンボーンは焦ってジェームスに大声で呼びかけるが、ジェームスは完全に無視している。

 そうこうするうちにアラブ人が運転するタクシーが突っ込んできた。爆破作業を狙った自爆テロだ。煙幕のせいでサンボーンらはジェームスを援護することができない。しかし、ジェームスは慌てずにタクシーの前に立ちはだかり、拳銃で狙いをつけた。

 そこに、サンボーンらが救援に駆け付け、タクシー運転手の男は確保された。ジェームスは爆弾を引き続き捜索し続け、道の中央に置かれたごみの中から埋もれた爆弾を発見。さっそく解除作業にかかり、作業は完了した。

 しかし、ジェームスはその解除した爆弾から延びる赤い導線を見逃さなかった。その赤い線を引っ張ると芋づる式に7つもの爆弾を発見。ジェームスはそれを見ても顔色一つ変えない。もくもくと作業を進め、見事に解除に成功。けが人も死者も1人も出ずに処理作業は終わった。

 しかし、ジェームスのやり方にサンボーンは怒り心頭だった。勝手な行動を気にも留めないジェームスのやり方を続けていてはいつか爆発事故が起き、死人が出る。「あと38日の任務なんだ。もっと安全にやるべきだ」。サンボーンはそういって不満をもらすのだった。

 キャンプ・ビクトリーに帰ってきたB中隊。そのひとり、エルドリッジは心ここにあらずといった表情で戦争ゲームをしている。画面に映る人間。次々に射殺していく。そこに、現われたのは軍医のケンブリッジ大佐。彼は精神的に疲労しているエルドリッジの話し相手だった。エルドリッジはトンプソンが死んだことが忘れられないと訴え、銃を構え、「トンプソンが生きてる、死んでる、生きてる、死んでる」そう繰り返すのだった。

ハート・ロッカー

↑手前の道路にゴミがたくさんあるのが見える。道路に積もっているこういうゴミがIEDを隠しやすくする。イラク・アルサラム、2007年3月1日。アメリカ軍・軍事情報センター提供。

「B中隊の任務終了まであと37日」

 翌日、国連関係の施設に駐車されたヒュンダイ車に爆弾が仕掛けられているようだとの通報がイラク警察から入る。爆発物処理班・ブラボー隊の出番だ。

 周囲の建物から住民を避難させ、ジェームスは防爆服を着てヒュンダイ車に近づく。トランクを開けたジェームスは驚いた。20本以上はあろうかという爆弾が山のように積み込まれているのだ。この爆弾の前ではもはや防爆服は無意味だった。

 ジェームスは防爆服を脱ぎ捨てて、解除作業にかかる。サンボーンは周辺住民や国連職員の避難、そして、警備に当たるが、周囲の建物からは住民が顔を出して解除作業を見物しており、遠くにはカメラで解除作業を撮影している男も見える。そして、その男のちょうど反対側にあるモスクの塔の上には3人の男が見えた。

 塔の男たちとカメラの男を見ていたサンボーンは彼らが何やら合図しあっているように感じた。もしかしたら、遠隔操作で解除作業中のアメリカ兵を吹き飛ばすタイミングを見計らっているのかもしれない。アメリカ兵を爆弾で吹き飛ばす様子をテロ犯がカメラで撮り、インターネットで公開することはよくあることだった。

 危険を感じ始めたサンボーンはジェームスに作業を中止して引き揚げろと指示。しかし、ジェームスはヘッドセットを外してしまっていて、連絡が取れない。ヘッドセットをつけろ、と部下に叫ばせるが、"Fuck ! "との返事。

 そうこうするうちにようやく、解除作業が終わり、今回も事なきを得た。サンボーンたちが撤収にかかっていると、リード大佐が視察にやって来て、ジェームスの解除作業をほめ、今までに何発解除したんだとたずねる。「873発です」と答えるジェームスだった。

 その日の夜。エルドリッジは軍医のケンブリッジ相手に「やつ(ジェームス)は俺を殺そうとしている」と言ってぼやいた。「やつの強情なプライドのせいで、今日も爆死しかけた」、と。ケンブリッジは「戦争は一生に一回参加するだけと考えろ」と慰めるが、「戦争を社会勉強だと思えというのか !? 」とエルドリッジは言い返した。

ハート・ロッカー

↑車に仕掛けられたIED。車爆弾という呼び名もある。

ハート・ロッカー

↑車に仕掛けられた爆弾(車爆弾)が爆発した後。イラクのバグダッドで撮影。


「B中隊の任務終了まであと23日」

 砂漠で爆破装置を作動させ、爆弾を爆破処理しているB中隊。爆破装置を起動させようかというときに、ジェームスが手袋を起爆装置のところに忘れてきたと一言。さっさと爆弾のところまで手袋を取りに戻ってしまった。

 サンボーンとエルドリッジは黙ってそれを見ていたが、サンボーンが一言、「事故は起きるものだ。報告書を書けばそれで終わりさ」。それを聞いたエルドリッジは「自分には報告書を書く勇気がない」。ジェームスの勝手な行動に部隊の面々はそろそろ我慢の限界だったのだ。

 そのまま、砂漠を走っていると、不審な車両を発見した。停車させ、乗っている男たちを降ろす。5人ほど乗っていて、みなアラブ人のかっこうをしている。そのうちの一人が装束を取るとなんとアメリカ人だった。彼は軍事契約企業の社員だと名乗る。同僚の社員2人とアラブ人2人の確保指令を50万ポンドで引き受け、ターゲットの2人を確保して今は帰るところだと言うのだ。

 彼は「あと任務終了まで何日だ ? 」とブラボー隊の隊員たちに尋ねてきた。彼らが、「あと23日か22日ほどだ」というと、「俺たちは誰もそんなの数えてないな」と笑いながら言うのだった。

 そのとき、突然社員の1人が狙撃された。誰かが狙っているらしい。たちまち銃撃戦になり、隊員たちは砂丘の向こう側に隠れて応戦した。その間に捕まえてきたアラブ人2人が逃走。彼らを捕まえてきたと言っていた社員は「50万ボンドがパーになる ! 」と叫び、慌てて追いかけようとするが、突然、彼らを射殺した。彼は戻ってくると、「生死を問わず、50万ポンドがもらえることを忘れていたよ」。しかし、その直後、彼も狙撃されて死亡してしまった。

ハート・ロッカー

↑爆発物の処理。イラクにて。アメリカ軍・軍事情報センター提供。


 いつの間にか、味方はサンボーンにジェームス、そしてエルドリッジのB中隊の隊員しかいなくなっている。無線で応援を要請し、狙撃犯がいると思われる場所に狙いをつける。ジェームスが当たりをつけ、サンボーンが狙撃するのだ。2人は元特殊部隊出身だったので、狙撃もこなせる。

 一方、エルドリッジは狙撃ライフルのカートリッジを軍事企業社員の死体から取ってくるように命じられた。彼は、それを取ってきてそのままジェームズに渡したが、それには血がべっとりついている。ジェームスはさっそく装填し、サンボーンが撃とうとするが、血が詰まってうまく動かない。

 ジェームスがエルドリッジに血を拭くようにと投げてよこすが、血を見たエルドリッジはすっかりパニックになってしまっていた。ジェームスはエルドリッジに付き添い、ツバをつけてこうやって落とすんだ、と実演して見せる。ジェームスはエルドリッジを落ち着かせ、血をカートリッジから落とした。

 狙撃犯はサンボーンにより射殺され、B中隊の背後から狙ってきた狙撃犯の仲間もオーウェンが射殺。彼らは夕日が差すまでその場を動かなかったが、もう撃ってくる者はいない。狙撃犯は全員射殺されたようだった。

 基地に戻ってきたB中隊。ジェームスとサンボーン、エルドリッジはジェームスの部屋で酒を浴びるように飲み、取っ組み合いをして大騒ぎ。部隊の面々はすっかり打ち解けていた。ジェームスは妻と息子がいることを打ち明け、「妻がなぜ自分と一緒になったままなのか分からない」という。彼はめったに電話をしないし、妻はなぜ、自分と別れないのかが不思議だというのだ。

 一方、サンボーンとエルドリッジはジェームスのベッドの下から木箱に入った大量の爆弾の部品を見つけて仰天する。ジェームスによると、これらの部品は彼が今まで解除してきた爆弾の一部を持ち帰ったものだという。

 その後、飲み過ぎて歩けなくなったサンボーンを彼のバラックにまで連れ帰ったジェームスはサンボーンをベッドに寝かせた。酔いつぶれたサンボーンはジェームスに「あの防爆服を着て何を見つけたんだ?」とたずねる。ジェームスは「地獄かな」と答えてドアを閉めて出て行った。ジェームスは自室のベッドに座り、防爆服のヘルメットをかぶり、上半身を起こしたまま眠りにつくのだった。

ハート・ロッカー

↑イラク、住宅街での爆発。道路上に仕掛けられた爆弾によるものと思われる。


「B中隊の任務終了まであと16日」

 今日はエルドリッジの主治医であるケンブリッジ大佐がB中隊のハンヴィーに同乗するという。今日の出動要請は過激派のアジトと目される場所だった。到着後、周囲の警備をケンブリッジ大佐に任せ、ジェームスとサンボーンは建物の中に入っていく。すると、犯行声明のビデオを撮るためのカメラ、過激派の旗、そして、爆薬を造ることのできる化学物質などを大量に発見した。

 サンボーンらが、これは大発見だと喜んでいるとき、部屋の片隅に1人の少年が寝かされているのを見つける。少年は手術台の上にのせられ、血だらけになっていた。既に息はなく、胸から腹にかけて大きな一文字の切り傷がある。

 少年はいわゆる"人間爆弾"にされたのだ。彼を見てジェームスは絶句した。彼はベッカムと名乗るサッカーが大好きな少年で、よく基地の中にDVDを売りに来る現地の商人と共にキャンプ・ビクトリー内にやってきていたのだ。ジェームスはベッカムを可愛がり、彼とサッカーをしたり、DVDを頼んだりしていたのだった。

 恐らく、犯人はアメリカ兵と仲のいい少年に目をつけ、彼を利用して基地内に爆弾を持ち込み、テロを起こそうと考えたのだろう。

 少年の腹に仕込まれた爆弾の危険から、サンボーンは少年の遺体ごと爆破することを主張したが、ジェームスは爆弾を処理すると主張して譲らない。サンボーンらが外に退避したのち、ジェームスは少年の腹の傷を開いて中に仕込まれた爆弾をとりだした。そして、少年の遺体を抱えて外に出てきた。

 サンボーンやジェームスが建物の中を捜索している間、ケンブリッジ大佐は建物の外の住民を退避させようとしていた。荷馬車に物を満載したイラク人とたどたどしい英語で会話をしながら、彼らをどうにか立ち去らせた。その後、ケンブリッジ大佐がちょうど建物から出てきたサンボーンらの方に歩きはじめたときだった。荷馬車が残して行った肥料袋が大爆発を起こした。さっきまで大佐と談笑していたアラブ人たちはテロリストだったのだ。

 大音響と砂煙が消えたのちには何も残らなかった。ケンブリッジ大佐は粉々に吹き飛んだ。かけらすら残らなかった。エルドリッジは心の支えであった大佐を失い、完全にパニック状態に陥り、ケンブリッジの名を叫ぶのだった。

 その日の夕方、キャンプ・ビクトリーに戻ったジェームスはアメリカの妻に電話をかけた。「もしもし」という妻の声。そして、まだ言葉を話せない息子の声も聞こえる。しかし、ジェームスは何も言わずに電話を切った。

ハート・ロッカー↑イラク人商人たちがアメリカ軍の兵士を相手に商売をしに来ている。アメリカ軍・軍事情報センター提供。.jpg

↑イラク人商人たちがアメリカ軍の兵士を相手に商売をしに来ている。アメリカ軍・軍事情報センター提供。


 その日の午後、ジェームスはベッカムが商売をしていた場所に行き、ベッカムの雇い主とおぼしき男性にベッカムの行方をたずねるが、彼は英語は分からないといって話をしない。警備のアメリカ兵に咎められ、ジェームスはいったん引き下がったが、そのまま商人を待ち伏せしていた。夕方、商売を終えて家路に就く商人の車に銃を突きつけて強引に乗り込む。そして、彼にベッカムの家まで連れて行けと脅迫するのだった。

 ある一軒家につれてこられたジェームスはその家に侵入。その間に商人は逃げてしまった。中にいたのは初老の男性。彼はナヴィド教授だと名乗り、英語もフランス語も話せるという。彼は銃を突きつけられて驚いた様子だったが、ジェームスに丁寧な対応をとり、まずは腰掛けるように勧めてきた。ジェームスが戸惑った様子をみせるところに、妻とおぼしき女性が帰宅。銃を構えたアメリカ人の姿を見て悲鳴を上げ、大騒ぎになったため、ジェームスはその家を逃げ出した。

 既に日が落ちて、外は真っ暗だ。たった1人で小走りに歩くアメリカ人の姿を街中のイラク人たちがじっと見つめる中、ジェームスは市街を通り抜け、キャンプ・ビクトリーに戻ってきた。

 しかし、キャンプ出入り口の検問で止められ、「止まれ ! 」と激しく怒号される。そして、銃を持っていたため、後ろから蹴り倒され、地面に顔を押しつけられた。

ハート・ロッカー↑夜間パトロール前の打ち合わせ。イラク・バグダッド南部、2007年7月24日。アメリカ空軍提供。.jpg

↑夜間パトロール前の打ち合わせ。イラク・バグダッド南部、2007年7月24日。アメリカ空軍提供。


 その後、なんとか検問を通り抜け、ジェームスはバラックに戻った。しかし、息をつく暇もなく呼び出しが入る。緊急出動だという。グリーン・ゾーン(行政地区)内で爆発があり、自爆テロかどうか、爆発による被害の調査をする任務だった。

 向かった先はイラク市内の住宅や商店が立ちならぶ場所。赤々と燃える炎がそこかしこから上がり、黒い煙が立ち上る。黒く焦げた車や死体、けが人があちらこちらに転がっており、爆発の余波で横転した車も見える。

 自爆か、遠隔操作による爆発かはもう分からない。仮に自爆犯がいても死体が粉々になってしまっているので、調査のしようがない。ジェームスは周囲に隠れる場所がたくさんあることを指摘し、これが遠隔操作による爆破テロだと主張する。

 サンボーンらは危険だと言ってジェームスを止めるが、彼は聞かない。サンボーンらを押し切って、爆破犯の捜索に乗り出した。通りを一歩入ると人気のないくらい路地が広がる。手早く3エリアに捜索場所を割り振り、ジェームスは捜索を開始した。

 一通り捜索したが、怪しげな人影などは全く見つからない。あきらめかけたところにエルドリッジの担当するエリアから銃声が聞こえた。サンボーンとジェームスが現場に駆け付けると死体がひ一つ。慌てて近づくとエルドリッジではない。この近くにいるはずと探し始めると遠くに人影が見えた。彼らがそれに向かって銃撃すると、人が倒れた。

 走り寄ると3人が倒れており、そのうちの1人はエルドリッジだった。ジェームスとサンボーンはオーウェンまで銃撃してしまったのだ。幸い、足に当たっており、すぐに手当てすれば命に別条はなさそうだ。彼らはエルドリッジを両脇から抱えてキャンプ・ビクトリーに連れ帰ることができた。

ハート・ロッカー

↑IEDが仕掛けられていると思われた幹線道路付近を捜索するアメリカ軍兵士たち。イラク・東バグダッド、アメリカ陸軍提供。

 誰もいないシャワー室にやってきたジェームス。鏡に映る自分の顔は疲れた顔をしている。そして血だらけの軍服と装備。彼は何も脱がず、そのままシャワーの蛇口をひねった。降りそそいでくるシャワーの水が彼の軍服を濡らし、靴を伝って下に流れ落ちていく。排水溝に向かって流れていく水は真っ赤な色をしていた。ジェームスは崩れ落ちるようにしてシャワーブースに座り込み、嗚咽するのだった。

 翌日は負傷したエルドリッジが本国に送還される日だった。ヘリに見送りに行こうと兵舎を出るジェームスにイラク人の少年が走り寄ってくる。ちょうど、ベッカムと同じ年ごろの少年で、手にはベッカムの好きだったサッカーのボールを抱えていた。彼は人懐こそうな様子でジェームスに話しかけるが彼は無視する。ジェームスはまったく少年を相手にしなかった。

 エルドリッジが乗ったヘリに行くとサンボーンも来ている。エルドリッジは大腿骨を9か所骨折していた。彼は、「6か月で歩けるようになると医者に言われた」と話す。ジェームスらはエルドリッジに別れを告げ、ヘリは飛び立って行った。

ハート・ロッカー↑シャワー・ルームはこんな感じ。イラク・キルクーク、2009年11月撮影。.jpg

↑シャワー・ルームはこんな感じ。これは設備が少しグレードアップしたばかりのところを取った写真。イラク・キルクーク、2009年11月撮影。

「B中隊の任務終了まであと2日」

 任務終了が近づき、間もなく本国に帰国する日が近くなってきた日、出動要請が入る。体中に爆弾を付けられたイラク人がキャンプ・ビクトリーの近くに来ていて、その爆弾を外してほしいと言っているのだという。

 サンボーンは彼が作業班を近づけて自爆するつもりではないかと疑い、ジェームスに近づかないようにと警告するが、ジェームスは彼の爆弾を解除するために防爆服を着込んだ。通訳を介して彼に話しかけ、爆弾を体中につけられた男に近づく。

 早速解除作業が始まった。しかし、鍵が頑丈に付けられているうえ、この爆弾は時限式。あと2分で爆発することが分かった。サンボーンがジェームスを連れ戻しに来るがジェームスは強情に作業を続け、サンボーンを追い返す。ついに1つの鍵を破壊することに成功。しかし、そこまでだった。

 残り時間は数10秒。それに対して残る鍵は数個もある。もう間に合わなかった。

 ジェームスは「すまない、分かるか ? お前を助けられない、すまない ! 」と叫んで男から遠ざかる。男は空を仰ぎ、天に祈りをささげた。

 次の瞬間大爆発。

 ジェームスは吹き飛ばされたが、無事だった。ゆっくりと防爆服のヘルメットを取り、空を見上げる。今日も突き抜けるようにきれいな青空。ゆらゆらと空に凧が浮いている。近くの建物の屋上でイラク人の少年が凧をあげているようだ。

 帰り、ジェームスはトラックを運転し、サンボーンが隣に座っていた。サンボーンは「こんなクソみたいな場所はもうごめんだ」という。そして、過去の思い出やアメリカの家族のことを話し始る。サンボーンによると、彼は子供時代、両親に愛されず、空気のようにいないも同然の存在だったという。そして、妻との間には子供がいないとジェームスにこぼす。

 ジェームスは「これからだろ」とサンボーンに言うが、サンボーンは「もう無理なんだ、もう終わったんだよ」と答える。かと思えば、彼は「息子が欲しい」ともいうのだった。

ハート・ロッカー

↑イラクのアメリカ軍キャンプ。後ろに見える建物が兵舎。


「帰国」

 ジェームスはアメリカに帰ってきた。今日は家族で大型スーパーマーケットに買い物に来ている。白くて清潔な広い店内。ジェームスは1人で何も入っていないカートを押しながら店内を回っていた。反対側から妻と子供がもう1台、カートを押しながらやってくる。

 すれ違いざま、妻に「シリアルを」、と言われたジェームスは、シリアルの棚へ向かった。棚には何10種類ものシリアルが整然と並べられ、横一列に整頓されて客に買われるのを待っている。ジェームスは少し戸惑ったような様子でその一つを乱暴にカートに投げ込んだ。

 郊外の小さな一軒家。ジェームスは落ち葉の溜まった屋根のといを掃除ししている。そして、その仕事を終えるとキッチンにやってきた。ジェームスは妻が食事の準備をするのを手伝いながら、イラクの話をし始めた。「アメリカ軍の兵士がキャンディを配っている場所があった。いつでもその場所で配ってたんだ。そうしたら、そこで自爆テロが起きて59人が死んだ。」

 そこまで話してジェームスははっとしたように苦笑いする。「そうだ、こんな話ばかりしていたら、君の方が爆弾の話に詳しくなってしまうね」。妻は「私に爆弾で吹き飛ばしてほしいの?」と冗談めかして返すのだった。

 ジェームスは息子のベビーベッドのそばに行き、我が子にびっくり箱を開けて見せ、息子が喜ぶのを嬉しそうに見ていた。彼はまだ言葉を話さない息子に向かってあれやこれやと話しかける。

 「僕の歳になると、びっくり箱が布と針金でできてるって分かってしまうんだ」。「年をひとつずつ取るごとに、大事なものが多くなって、"特別なもの"とは思えなくなってくる」。そして、「そのうちに、ほんとに大好きなものが何かも忘れてしまうんだ」。

 息子はジェームスの言葉を全く理解していないが、ジェームスはかまわず話し続けた。「君が僕の歳になったときには、父親のことも記憶の一片になってしまうんだよ」。

「D中隊の任務終了まであと365日」

 彼は再び戦場へ向かう。彼は再び防爆服を着る。ジェームスは再びイラクという彼自身の居場所に戻ってきたのだった。

 "War is a drug." 戦争は麻薬だ。

 ジェームズは当分、この地獄から抜けられそうにない。そして、抜けるつもりもたぶん、ない。

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↑CH47輸送機。これに乗ってジェームスは戻ってきた。