映画:アンブレイカブル あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり

 シックス・センスで大ヒットを飛ばしたシャマラン監督作、アンブレイカブル。

 シックス・センスで主人公の精神科医を演じたブルース・ウィリスと再びタッグを組んだアンブレイカブルでは、平凡な男デイヴィッド・ダンが不思議な男、イライジャ・プライスの助言のもとに、自分の中に"何か"を見出していく様子を描く。

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 列車に乗っているデイヴィッド。彼の隣にやってきたのは見知らぬ美人。結婚指輪をはずし、ぎこちない会話をするデイヴィッドだが、彼女は席を立ってしまった。
 一方、自宅にいた息子のジョセフはニュースを見ていた。列車の脱線事故のニュース。彼は台所に張られたメモを見に行った。父が乗っているはずの列車だ。

 デイヴィッドが目覚めたのは病院のベッドの上だった。脱線事故で唯一生き残った乗客だったのだ。その次の日、車のワイパーに挟まれていたメッセージカードに気が付く。中には「あなたは今までの人生で何日病気にかかりましたか? 」と書かれていた。

 妻に聞いても、覚えてないという。彼自身も、5年間一回も欠勤したことがなかった。これはどういうことなのか。彼はメッセージカードに書かれていたアドレスの場所に行ってみることにする。

【映画データ】
アンブレイカブル
2000年(日本公開2001年)・アメリカ
監督 M・ナイト・シャラマン
出演 ブルース・ウィリス,サミュエル・L・ジャクソン


映画:アンブレイカブル 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり

★結末までのあらすじ

 イライジャ・プライスを怪しい人間だと思ったデイヴィッドだったが、彼の心はイライジャの説く理論が気になってもいた。イライジャの言うとおり、この世のどこかに、漫画のヒーローのような人物がいて、その眠った才能を持つ男が自分かもしれない。

 息子は父のことを「強い人間だ」と思っている。「パパも普通の人間だ」というデイヴィッドの言葉を嫌がっている。妻とはやり直すことができそうだし、妻もゆっくりやり直せばいいと言ってくれていた。もっと、息子との距離を縮めたい。

 そこで、半信半疑ではあったが、自分の能力を試して見ることにする。イライジャに電話をかけ、「何をしたらいいか」をたずねる。イライジャのアドバイス通り、人の多い場所に行き、行きかう人々の意識を読む。さまざまな意識が流れ込んできた。道を歩く黒人にジュースをぶっかける人種差別主義者の白人の若者、酔いつぶれてベッドで寝込む女性を強姦しようとする男、そして誰かの家に強盗に入ろうとする男。

 デイヴィッドはターゲットを強盗をした男に定めることにした。その意識を読み取ったのは明るいオレンジ色のつなぎをきた清掃員の男だ。男の後をつけ、彼が帰りついた家に忍び込む。2階に上がると、女の子の部屋がある。この家はあの清掃員の家ではない。清掃員の男が押し込みに入った家に居座っているのだ。デイヴィッドは地下でこの家の住人である子供2人を発見し、解放する。そして、清掃員を探しているときにバルコニーから突き落とされ、真下のプールに落下。

 水はデイヴィッドが苦手なもののひとつだ。彼は幼いころに学校のプールで溺れて死にかけたことがあり、それ以来水は苦手だった。案の定、溺れかけたところに、誰かが棒を差し入れてくれる。それに捕まり、プールサイドに上がった彼は、さっき、彼が縄を解いて解放した子供たちが自分を助けてくれたことを知った。

 再び、デイヴィッドは犯人を追って家に侵入する。清掃員の背後から近付き、首を絞め、格闘の末に気絶させることに成功した。そして、縛り付けられていた母親らしき女性を解放するが、残念ながら、間に合わず、彼女は死んでいた。

 翌日、デイヴィッドのした救出劇は新聞に掲載された。妻と談笑しながら朝食を食べているときに息子が起きてくる。息子のジョセフに新聞を差し出し、デイヴィッドは自分のしたことを教えた。"正体不明のヒーロー、子供たち2人を救う"。息子はそれをみて嬉しさのあまり泣くのだった。

 そして、デイヴィッドは自分の才能を見出してくれたイライジャにあいさつに向かう。画廊では展覧会が開かれており、イライジャの母親も来ていた。イライジャのオフィスに案内され、握手を交わす。そのとき、彼の脳裏にはイライジャの意識が怒涛のごとく流れ込んできた。

 イライジャが飛行機事故を起こし、ホテルの火災を起こし、列車の脱線事故を起こしたという記憶。そして、壁に目をやると、メキシコで土石流など、様々な事件の記事がべたべたと貼り付けられている。

 デイヴィッドは全てを悟った。イライジャ・プライスは、デイヴィッドを探すために、今まで世界各地で大災害を起こし続けてきたのだ。そして、彼はついにデイヴィッドを見つけた。イライジャの仕組んだ列車の脱線事故の唯一の生存者だったデイヴィッドを。

 デイヴィッドはきびすを返し、イライジャのオフィスを出ていった。その後、イライジャ・プライスは逮捕され、精神病棟に収容されたのだった。

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★デイヴィッドは何者か?

 彼は、一種の超能力を持った人間でした。相手の意識を読むことができるのです。そして、相手の意識を読むのに特に何かをする必要はありません。ただ、その場にいるだけで、相手の意識が勝手に流れ込んでくるときがあります。

 イライジャに言われたとおり、ヒーローとして何かをしようと決意したデイヴィッドは、解決すべき悪を発見しようと、人ごみに立つことにしました。まず飛び込んできたのは、人種差別主義者、次に強姦魔。たしかにこれらも犯罪ですが、過去の記憶で、現在進行中の犯罪ではありません。

 デイヴィッドが探していたのは、たった今、進行している犯罪で、助けを待っている人間がいる犯罪でした。そこで、彼が発見したのは家に押し込みに入る男の記憶です。その記憶が清掃員のものだと分かった彼は家まで彼を尾行し、みごとな救出劇とあいなったというわけです。

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★イライジャ・プライスは何者か?

 彼は骨が折れやすい病気で、ヒーローのような活躍をすることはできません。逆にヒーローに守ってもらうべき弱き存在なのです。彼は漫画は実際の経験を漫画に描き直しているだけだと考えていました。自分のようなか弱い存在の対極の存在、つまり"ヒーロー"が実在するはずだという理論を立てたのです。これは自分のような弱い存在が地球上に存在する理由は、それを守る存在がいるから、という理論です。彼は自らの存在意義を未だ見ぬヒーローの存在に求めていたのです。この理論に沿い、彼は不死身の人間を探し続けました。

 普通に探すだけでなく、自ら大災害や大事故を引き起こして、生き残る者がいないか調べつづけていました。そして、ある日、彼が起こした脱線事故からデイヴィッドという男を発見します。そして、彼の予知能力を知ったイライジャはデイヴィッドが探し求めたヒーローであることを確信しました。彼はデイヴィッドに働きかけて、本当にヒーローとして活躍させることに成功します。

 イライジャ・プライスはヒーローがこの世に存在することを確信し、"ヒーローに守られる者"として、自分がこの世にいることの価値を確認しました。だが、イライジャはヒーローを探すために大量殺人を犯し続けており、ヒーローに敵対する存在にもなっていたのです。

 そこで、イライジャは自分という存在がヒーローの"敵"という存在になっていることにも気がつきました。"守られる者"としての存在意義を求めていたはずの彼が、"敵"としての存在意義をも有することになっていたのです。

 しかし、彼としてはそのどちらでも構いませんでした。彼にとって重要なのはこの世に自らの"存在意義"がある、というその1点に絞られていたからです。彼にとっては、いずれにしても、この世の中で自分が存在する意味があるということだけが重要でした。


 イライジャは言います。「コミックで最大の敵はヒーローの正反対」で、しかも、「元はヒーローの友達」だった人物だ、と。

 ヒーローの潜在的な才能の存在にヒーローを目覚めさせる役割を果たす友人も必要です。そして、何よりヒーローがヒーローであるためには、敵が存在しなくてはならない。倒すべき敵がいなければ、ヒーローは必要とされないでしょう。

 そして、敵となる人物が引き起こす犯罪がなければヒーローはその才能を生かす場はありません。つまり、ヒーローの存在には友人と敵の両方の存在が不可欠なのです。イライジャはこの役割の両方を果たすことに成功しました。

 イライジャのしたことは多くの人を殺したという点で大きな過ちを含みつつも、ひとつの真実を指し示しています。

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★自分自身を救ったデイヴィッド

 デイヴィッドはイライジャによってヒーローとなり、妻や息子との距離を縮めることができた。なぜ、デイヴィッドが妻と疎遠になっていたのか? 彼ら夫婦は決定的な喧嘩をしたとか、どちらかが不倫したとか、そういう理由で仲が悪くなっていたわけではありません。

 夫婦の中が冷えてしまったのは、デイヴィッドが今の生活に嫌気がさし、ニューヨークに行って新しく人生をやり直したいと思っていたから。

 なぜ、今の生活に嫌気が差したか。イライジャの言葉を借りれば、「すべきことをしていないから」。デイヴィッドは大学時代、フットボールのスター選手でした。しかし、彼の妻になったオードリーはフットボールは嫌い。彼女によると、フットボールなんて「暴力的で」「粗暴なスポーツ」だそうです。

 デイヴィッドは大学時代に起こした交通事故でけがなどはしていませんでした。新聞記事になった、「スター選手がケガ」というニュースはウソ。デイヴィッドは交通事故で怪我をしたとウソをついて引退したのです。何のため? それはオードリーのため、早く引退して家庭を持つため。オードリーはデイヴィッドにフットボールの選手であってほしくないと思っている、とデイヴィッドは思っていたのです。

 デイヴィッドはオードリーにもウソをつき通していました。彼女は夫とのデートで、「怪我するなんて望んでいなかった。あなたの才能は天が与えたもの。失ってほしくはなかった」と言っています。彼女はいまだ、夫の怪我がウソだとは知らないのです。

 デイヴィッドが「すべきことをしていない」と毎日感じ、そんな生活に嫌気がさしたのは、もう、プレーができなくなったから引退したのではなく、妻のため、家庭のために自分の選手生命を犠牲にしたと考えていたから。

いわば、今ある家庭の犠牲者になった、とデイヴィッドは自分のことを考えていました。だから、妻を愛していないわけではないし、息子を可愛がってはいるけれど、自分を犠牲にしたものの大きさを考えると、感情がさめてしまう。だから、妻とも、息子とも、距離を置いていました。

 しかし、イライジャに会ったデイヴィッドは自分の才能に気が付きます。相手の意識や感情を読み取ることができるという一種の特別な才能。この才能を警備の仕事に使うだけではなくて、才能を伸ばし、他のことに使わないか、というイライジャの誘い。

 デイヴィッドは選手を中途半端にやめたことで、息子に自分が誇るべきものがなくなったと感じていました。「普通の人間」になってしまった。何の取り柄もない中年の男。しかし、息子はそんな父に怒ります。「何でいつもそういうの!? 」

 彼はイライジャの誘いをとんでもないと思いつつ、これが、息子に誇れる父となるきっかけになるかも知れないと気が付きます。フットボールでは自ら挫折させてしまった才能を他のことで開花させる。

 結果は成功。「正体不明のヒーロー」として子供たちを救いました。彼はこれで息子に自分を誇ることができます。そして、彼は自分自身も救うことができました。フットボールを不本意にもやめてしまったことがずっと彼の心に傷を残し、挫折経験として記憶されていた。それを今回のヒーローとしての成功経験が上書きしてくれる。彼は息子だけではなく、自分自身をも救ったのです。

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★すべてイライジャの思い通り…
 
 ヒーローに人々は何を期待するか。それは、困っているときに助けてくれること。安心をヒーローに求めるのではないでしょうか。
 今回デイヴィッドの活躍で命を助けられた2人の子供たちはまさにそれ。典型的なヒーローに助けられた市民のパターンです。

 しかし、デイヴィッドは自分を救い、自分と家族の絆も救いました。そして、実は、イライジャも。

 イライジャはデイヴィッドに通報されて逮捕され、病院に隔離されてしまったではないか?とも思えます。

 でも、それはハッピーエンド。イライジャの望んだ結末です。思えば妙な話です。イライジャはデイヴィッドの特殊な能力を知っています。相手の意識を取り込むことのできる能力のことを。それならば、デイヴィッドといるときは秘密にしておきたいことを思い浮かべるのは彼に伝わってしまう危険があるので危険ですし、握手をするなどという直接接触する行為はなおさら危険。

しかも、今までに起こした事件の記事が壁にたくさん貼られているオフィスになぜ、デイヴィッドを連れてきたのか。これらの記事を見られたら、デイヴィッドに意識を読まれなくても何かおかしいと気がつかれる危険があります。

 ここまでくれば、答えはひとつ。イライジャ・プライスは自分が今までの大事故を仕組んだ張本人であり、ヒーローを見出した人物であることを、デイヴィッドに気がついてほしかったのです。

 イライジャ・プライスこそが、デイヴィッド・ダンというヒーローの生みの親であり、彼の友人であり、彼の敵でもある。イライジャ・プライスはここにいる。この地球上に確かに存在していて、彼のしたことが世界中に知れ渡り、彼のことは恐れられるかもしれないが、彼という人間の存在が認識される。「私のこの体にも意味がある。ヒーローの敵にはあだ名があるのを知ってるか? 」そう、これでイライジャは晴れてヒーローの友人であり、敵でもある"ミスター・ガラス"と呼ばれることができるのです。

 イライジャ・プライスの逮捕は彼自身が望んだことでした。「アンブレイカブル」のストーリーは最初から最後まで、イライジャ・プライスの書いたシナリオ通りの展開だったのです。

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★人間の孤独

 イライジャ・プライスには彼を誇りに思い、愛してくれる母がいました。また、立派な画廊を構えて商売もうまくいっている様子。しかし、イライジャはそれだけでは足りませんでした。それだけでは、自分のこの脆い体がこの世に生まれおちたことに対する説明が付かない。彼はこの考えに取りつかれ、自分の体がこの世に存在する理由を探し続けていたのです。

彼の考えは歪んでいる、確かにそうなのですが、それだけでは片付けられない人間の深層心理が潜んでいます。人間は常に他者に対して「承認」を求めます。確かに自分がここにいるという証、自分が意味あってこの世に生きているという証が欲しい。

 人間は常に孤独なのです。他人とは違うガラスの体を持つイライジャはとりわけ、強い孤独を感じていました。誰にも理解されないこの体は一生彼について回る。同じ苦悩を持つ者は少なくとも彼の周りにはいない。

デイヴィッドの活躍によって実証されたヒーロー理論によって、彼の存在意義は実証されたともいえます。イライジャは満足を得ることができたでしょう。自分がなぜ、この世に生まれ、そして生きているのか。この問いの答えがヒーロー理論では片付かないことは自明のことですが、では正しい答えが何かと問われれば、一朝一夕で答えの出る問題ではないとしか言うことはできません。

しかし、日々を懸命に生きている人間は常にこの問題に対して無意識的に答えようとしているといえるのではないでしょうか。もやもやとしたはっきりしない気持ちを抱えながら、自分の目標に向かって生きていくうちに知らず知らず、この問題に対する答えを用意できる日がくるのかもしれません。

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All pictures in this article belong to The Kobal Collection.