映画:ウォッチメン あらすじ
※レビュー部分はネタバレあり
ウォッチメンの原作はアメコミ。アラン・ムーアのアメコミで古典的名作の部類に入る。
まずはあらすじのご紹介。
世界の出来事の 裏にはウオッチメンがいた。ケネディ暗殺・ベトナム戦争・キューバ危機といった数々の歴史的事件の裏には必ずウオッチメンが存在し、その事件の真実をつくってきたのだ。
この世界ではアメリカが圧倒的優位を保ち、ソ連と冷戦の真っただ中にある。
ケネディ暗殺事件の後、ニクソンはウォーターゲート事件で失脚することもなく、現在5期目で、ベトナム戦争には勝利を収めた。
そして、人々は核戦争の現実に日々怯え、世界の終末時計は12時まであと5分の猶予を残すのみになっていた。
その世界を支えていたのはウオッチメンの存在だった。
ウオッチメンはいわゆるヒーロー達であり、政府に雇われて、裏で活動していた。彼らの活動により、数々の歴史的事件や事実の結末が変更されることで、もう一つの世界が形成されていたのである。
しかし、一方で、彼らの活動は一般人の知るところとなり、その活動が暴力的だとして反発が起きるようになる。
激しくなる抗議や批判の声に対してニクソン大統領はヒーローの活動を非合法化せざるを得ず、多くのヒーローは引退を余儀なくされた。
しかし、いまだ、ひそかに政府に雇われて、もしくは非合法に活動するウオッチメンが存在した。
そして、ある日、事件は起きる。
ウオッチメンの一人が殺害されて見つかったのだ。引退したとはいえ、ヒ―ローが殺害される事態は初めてのことだ。非合法にヒーロー活動を続けていたウオッチメンの一人ロールシャッハは調査に乗り出す。殺したのは誰なのか。ウオッチメンのかつてのメンバーに危険が迫っていた。
【映画データ】
ウォッチメン
2009年 アメリカ
監督 ザック・スナイダー
出演 マリン・アッカーマン,ビリー・クラダップ,マシュー・グッド,ジャッキー・R・ヘイリーなど
映画:ウォッチメン 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり
勧善懲悪のヒーローものかと思いきや、ミステリー要素が強くて面白い…特にオープニングの展開や映像の美しさは特筆ものです。
この映画は冷戦時代で米ソ核戦争が現実味を帯びていた時代のアメコミを原作にしていますが、扱うテーマが実に普遍的なテーマで、今でももちろん大きな問いかけをしてくれます。
そのテーマについても以下、みていきます
★ウォッチメンの心理
他の映画のレビューでもそうですが、原作がある映画でもそうでなくても、その映画だけを基準に評価しています。
スター・ウォーズのようにシリーズものでは、一作づつ評価するのはおかしい点もあるかも知れませんが、少なくとも、観客はその映画を見に来ているわけです。
それならば、映画のレビューはその映画のみを対象に評価をするべきだと思います。
ウォッチメンもその観点から見ていきます。
ビジュアル的な面の美しさは素晴らしく、オープニングからの掴みはかなりよかったと思います。映像も美しいですし、ストーリーも理解しやすい。
中盤過ぎまではストーリーに何とかついていけますが、火星にDr.マンハッタンが行ったあたりから一気に失速してしまいました。
まず、人物描写が薄いこと。
いずれも過去のトラウマやコンプレックスを背負った人間として描かれているウオッチメンですが、心理描写が薄いように思います。
そのために、Dr.マンハッタンが人間性を喪失していっていること、ロールシャッハの狂気や偏執性などがいまいち伝わってきません。
もちろん、それぞれ、その心理状態を示すエピソードは用意されていますが、エピソードが唐突過ぎて、いまいち、伝わって来ません。
それは、彼らがエピソード以外の他の場面においてはいたって普通に見え、精神的なバランスの危うさが除々ににじみ出る感じがないためです。
丁寧な心理描写がないと、
1, なんで火星にDr.マンハッタンが行って、また戻ってきたのか、
2, ロールバッハが最後まで絶対的正義に固執するのはなぜか、
3,「いまさら人間性が戻ってきたのか」とローシャルバッハ殺害を躊躇するDr.マンハッタンに投げかけられたローシャルバッハのセリフの意味が理解できません。原作が未読の者には辛い展開だったかな、と思います。
★結末
酷評しているようですが、実はそうではありません。
この映画、実はものすごい深い奥行きがあって、アメコミのヒーロー物に対する価値観がかなり変化させられた作品です。
初見で、これだけ内容把握が難しくても、また見ようとわせるのは、この映画に強いメッセージ性があるから。
このインパクトをもらえる映画というのはそうそうあるものではありません。いままで、原作があるのを知らなかったのが恥ずかしいほどの名作だと思います。
そこで、改めて結末を整理してみます。
結論としては、Dr.マンハッタンは最終的にはもはや人間としての感性を完全に喪失してしまい、火星に行ってしまいます。
地球上での関心はシルク・スペクターにしかなかった、というセリフがありますが、まさにその言葉通りに受け取っていいのでしょう。
実際、火星から帰還した動機は彼女の出生の数奇な軌跡を彼女の潜在的記憶を通して見たことがきっかけとなって、人類の存在自体が「熱力学的奇跡」と改めて評価したことにあるようです。
そして、一番人気のロールシャッハの正義への固執は人物紹介にある通り。
最後はオズマンディアスの計画…数百万人の一般市民の殺害と引き換えの平和の実現…を全員で黙認し、そうしなかったロールシャッハは殺されました。
ことでヒーロー達は揃って(殺害まで含めて)共犯になります。この作品には一般的な意味での正義を体現するヒーローはいません。
★オズマンディアスの計画
なお、オズマンディアスの計画が分かりにくいのでその全貌をまとめると以下のようになります。
その計画とはDr.マンハッタンに造らせた爆発性エネルギー炉でNYを含む主要都市を破壊することで核戦争を防ぎ、世界の破滅を救うというものです。
そして、破壊原因がDr.マンハッタンの造った物からと分かれば、米国・ソ連にDr.マンハッタンという共通の敵ができることで核戦争が回避され、平和が保たれるという計画でした。
さらに、
1, コメディアンの殺害
2, Dr.マンハッタンの火星への逃避
3, ロールシャッハの投獄の濡れ衣、
全てが計画の実行のために必要であったことをオズマンディアスは映画中で認めています。
まず、
1,は計画がバレそうであったことからの口封じであり、
2,Dr.マンハッタンに対しては報道操作で周囲の人物が癌にかかるという風評を立て、地球から追い出すことが必要でした。
なぜなら、彼はソ連の核戦力の99.5%を破壊できる能力を持っているので、彼がいる限り、核戦力の著しい不均衡が継続するからです。
彼を追い出して、核バランスを均衡させ、敵対するアメリカ・ソ連両陣営の共通の敵にすることが必要でした。
3,ロールシャッハの逮捕によって、ヒーロー連続襲撃事件が陰謀説によるもの,とのロールシャッハの誤認推理が現実味を帯びました。
★ウォッチメンが直面した問題
1人の人命を犠牲にすれば100人が助かる場合、あなたはその1人を殺すことができますか。
ウォッチメンの面々は「1人」を犠牲にする道を選びました。
この問題は永遠に解決しない難題です。
しかし、
1, ウォッチメンのような一握りの人間が、正義を実現しようと大勢の人間を殺害する行為に及ぶ(または黙認する)ことは、許されるのでしょうか。
2, たとえ、それが平和の実現を目的とするものであっても、ウォッチメンのような一部の人間が多数の犠牲を出すことを決定するのは許されてはいけないのではないでしょうか。
3, そもそも、多数の犠牲を出しても救うべき「正義」は誰が定義するのでしょう。この場合はやはりウォッチメンが定義することになるのでしょう。
正義の相対性、正義とは何か、そして一番の問題…誰が「一握りの人間」」であるウオッチマンを監視するのか。
Who watches the watchmen?が原作で掲げられているテーマでもあります。
結局、現実世界にはヒーローが倒すべき絶対的な悪は存在せず、同様に絶対的な正義も存在しません。
従って、一握りのヒ―ローが悪が何かを判断し、それを独断で抹消することは許されないもの、というのが私の結論です。
初めてみたとき、ウォッチメンたちの区別がなかなか大変だったので、映画に出てくるウォッチメンの面々の紹介を一応書いておきます。
ご興味のある方はどうぞ、お読みください。
【コメディアン】
もっとも初期から活動し、初代ナイトオウルや初代シルク・スペクターとも活動を共にした。数々の歴史的事件に関与し、ケネディ暗殺に関わっていた(彼が引き金を引いた)こともオープニングクレジットで明かされている。
また、本編ではベトナム戦争への参加も描かれている。
暴力的解決手法を好み、初代シルク・スペクターを強姦しようとしたことがある。
非合法化後も政府の管理下でヒーロー活動を継続。映画冒頭で殺害される最初の被害者でもある。
【ロールシャッハ】
トレンチコートに帽子、白黒の常に変動する模様のマスク。そしてそのマスクは常に異臭を放つという。極右雑誌を愛読し、トルーマン大統領とその業績を賞賛する。非合法化された後も、非合法的にヒーロー活動を続ける。
絶対的な正義を信奉し、決して妥協はしない。マスクの白と黒が混じり合うことはなく、灰色になることはないのがその象徴でもある。また、「マスク以外は何も必要ない」というくらいにマスクには固執している。 映画中でも描かれる事件をきっかけに、「犯罪者を生かしておく、今までのスタイルは甘かった」と語る。1人の女性が殺された事件で40人もの人間が見て見ないふりをした事件とも相まって人間に対して強い不信感を抱いている。
【ナイトオウル(2世)】
父は銀行家で、初代ナイトオウルでもあった。引退後は父の遺産を元に静かに生活している。ただ、自宅地下に自作の道具を多数保管しており、未練を感じさせる。
事件解決手法は至って紳士的。人間的な不信感はなく、その正義感にも疑いを見せない。
伝統的なヒーローに最も近い外見。
【シルク・スペクター(2世)】
女性のヒーロー。母親が初代で、15歳でヒーローの座を継ぐ。幼いころからヒーローになるための特訓をした母親とは感情的なしこりもある。非合法化後は引退して、Dr.マンハッタンの恋人として基地で生活をする。
【Dr.マンハッタン】
1950年代前半に科学実験の失敗で全身が粒子状に分解されてしまった。全身が青く発光しており、正体不明であるが一応、彼の人間としての意識は生き残っている。非合法化後も政府の管理下でヒーロー活動を続ける。
特殊の倫理観を持ち、人間の生死には関心が低い。映画中でもその特殊性を示すエピソードが多数あるが、そのひとつはベトナム戦でのコメディアンの殺人行為の傍観であろう。 彼の特殊な能力はアメリカがソ連に対して圧倒的優位を保つ要であり、その能力はソ連の核戦力の99.5%に相当する。彼の失踪(火星への逃避)を原因としてアメリカはその優位を失い、ソ連はアフガニスタンに侵攻し、核戦争の危機が現実化した。
【オズマンディアス】
ヴェイト社社長にして、「世界一の天才」と言われる頭脳を武器に難事件を解決した元ヒーロー。今は引退して、実業家として莫大な財産を築き、各地でチャリティー活動を行う。エジプト文明を愛好する文化人でもあり、南極に自分の基地を所有する。コメディアンの次に襲撃される。
なかなかの変わり者ぞろいですよね。
この映画は「ヘンタイしか出てこない」、かもしれない。
ひと癖もふた癖もあるヒーローばかりで、一人として100%正義の味方、伝統的なヒーローと言える人はいません。
ラストまで見ればわかりますが、「一人も」、いません。
その人間味がウォッチメンの魅力なのです。
※レビュー部分はネタバレあり
ウォッチメンの原作はアメコミ。アラン・ムーアのアメコミで古典的名作の部類に入る。
まずはあらすじのご紹介。
世界の出来事の 裏にはウオッチメンがいた。ケネディ暗殺・ベトナム戦争・キューバ危機といった数々の歴史的事件の裏には必ずウオッチメンが存在し、その事件の真実をつくってきたのだ。
この世界ではアメリカが圧倒的優位を保ち、ソ連と冷戦の真っただ中にある。
ケネディ暗殺事件の後、ニクソンはウォーターゲート事件で失脚することもなく、現在5期目で、ベトナム戦争には勝利を収めた。
そして、人々は核戦争の現実に日々怯え、世界の終末時計は12時まであと5分の猶予を残すのみになっていた。
その世界を支えていたのはウオッチメンの存在だった。
ウオッチメンはいわゆるヒーロー達であり、政府に雇われて、裏で活動していた。彼らの活動により、数々の歴史的事件や事実の結末が変更されることで、もう一つの世界が形成されていたのである。
しかし、一方で、彼らの活動は一般人の知るところとなり、その活動が暴力的だとして反発が起きるようになる。
激しくなる抗議や批判の声に対してニクソン大統領はヒーローの活動を非合法化せざるを得ず、多くのヒーローは引退を余儀なくされた。
しかし、いまだ、ひそかに政府に雇われて、もしくは非合法に活動するウオッチメンが存在した。
そして、ある日、事件は起きる。
ウオッチメンの一人が殺害されて見つかったのだ。引退したとはいえ、ヒ―ローが殺害される事態は初めてのことだ。非合法にヒーロー活動を続けていたウオッチメンの一人ロールシャッハは調査に乗り出す。殺したのは誰なのか。ウオッチメンのかつてのメンバーに危険が迫っていた。
【映画データ】
ウォッチメン
2009年 アメリカ
監督 ザック・スナイダー
出演 マリン・アッカーマン,ビリー・クラダップ,マシュー・グッド,ジャッキー・R・ヘイリーなど
映画:ウォッチメン 解説とレビュー
※以下、ネタバレあり
勧善懲悪のヒーローものかと思いきや、ミステリー要素が強くて面白い…特にオープニングの展開や映像の美しさは特筆ものです。
この映画は冷戦時代で米ソ核戦争が現実味を帯びていた時代のアメコミを原作にしていますが、扱うテーマが実に普遍的なテーマで、今でももちろん大きな問いかけをしてくれます。
そのテーマについても以下、みていきます
★ウォッチメンの心理
他の映画のレビューでもそうですが、原作がある映画でもそうでなくても、その映画だけを基準に評価しています。
スター・ウォーズのようにシリーズものでは、一作づつ評価するのはおかしい点もあるかも知れませんが、少なくとも、観客はその映画を見に来ているわけです。
それならば、映画のレビューはその映画のみを対象に評価をするべきだと思います。
ウォッチメンもその観点から見ていきます。
ビジュアル的な面の美しさは素晴らしく、オープニングからの掴みはかなりよかったと思います。映像も美しいですし、ストーリーも理解しやすい。
中盤過ぎまではストーリーに何とかついていけますが、火星にDr.マンハッタンが行ったあたりから一気に失速してしまいました。
まず、人物描写が薄いこと。
いずれも過去のトラウマやコンプレックスを背負った人間として描かれているウオッチメンですが、心理描写が薄いように思います。
そのために、Dr.マンハッタンが人間性を喪失していっていること、ロールシャッハの狂気や偏執性などがいまいち伝わってきません。
もちろん、それぞれ、その心理状態を示すエピソードは用意されていますが、エピソードが唐突過ぎて、いまいち、伝わって来ません。
それは、彼らがエピソード以外の他の場面においてはいたって普通に見え、精神的なバランスの危うさが除々ににじみ出る感じがないためです。
丁寧な心理描写がないと、
1, なんで火星にDr.マンハッタンが行って、また戻ってきたのか、
2, ロールバッハが最後まで絶対的正義に固執するのはなぜか、
3,「いまさら人間性が戻ってきたのか」とローシャルバッハ殺害を躊躇するDr.マンハッタンに投げかけられたローシャルバッハのセリフの意味が理解できません。原作が未読の者には辛い展開だったかな、と思います。
★結末
酷評しているようですが、実はそうではありません。
この映画、実はものすごい深い奥行きがあって、アメコミのヒーロー物に対する価値観がかなり変化させられた作品です。
初見で、これだけ内容把握が難しくても、また見ようとわせるのは、この映画に強いメッセージ性があるから。
このインパクトをもらえる映画というのはそうそうあるものではありません。いままで、原作があるのを知らなかったのが恥ずかしいほどの名作だと思います。
そこで、改めて結末を整理してみます。
結論としては、Dr.マンハッタンは最終的にはもはや人間としての感性を完全に喪失してしまい、火星に行ってしまいます。
地球上での関心はシルク・スペクターにしかなかった、というセリフがありますが、まさにその言葉通りに受け取っていいのでしょう。
実際、火星から帰還した動機は彼女の出生の数奇な軌跡を彼女の潜在的記憶を通して見たことがきっかけとなって、人類の存在自体が「熱力学的奇跡」と改めて評価したことにあるようです。
そして、一番人気のロールシャッハの正義への固執は人物紹介にある通り。
最後はオズマンディアスの計画…数百万人の一般市民の殺害と引き換えの平和の実現…を全員で黙認し、そうしなかったロールシャッハは殺されました。
ことでヒーロー達は揃って(殺害まで含めて)共犯になります。この作品には一般的な意味での正義を体現するヒーローはいません。
★オズマンディアスの計画
なお、オズマンディアスの計画が分かりにくいのでその全貌をまとめると以下のようになります。
その計画とはDr.マンハッタンに造らせた爆発性エネルギー炉でNYを含む主要都市を破壊することで核戦争を防ぎ、世界の破滅を救うというものです。
そして、破壊原因がDr.マンハッタンの造った物からと分かれば、米国・ソ連にDr.マンハッタンという共通の敵ができることで核戦争が回避され、平和が保たれるという計画でした。
さらに、
1, コメディアンの殺害
2, Dr.マンハッタンの火星への逃避
3, ロールシャッハの投獄の濡れ衣、
全てが計画の実行のために必要であったことをオズマンディアスは映画中で認めています。
まず、
1,は計画がバレそうであったことからの口封じであり、
2,Dr.マンハッタンに対しては報道操作で周囲の人物が癌にかかるという風評を立て、地球から追い出すことが必要でした。
なぜなら、彼はソ連の核戦力の99.5%を破壊できる能力を持っているので、彼がいる限り、核戦力の著しい不均衡が継続するからです。
彼を追い出して、核バランスを均衡させ、敵対するアメリカ・ソ連両陣営の共通の敵にすることが必要でした。
3,ロールシャッハの逮捕によって、ヒーロー連続襲撃事件が陰謀説によるもの,とのロールシャッハの誤認推理が現実味を帯びました。
★ウォッチメンが直面した問題
1人の人命を犠牲にすれば100人が助かる場合、あなたはその1人を殺すことができますか。
ウォッチメンの面々は「1人」を犠牲にする道を選びました。
この問題は永遠に解決しない難題です。
しかし、
1, ウォッチメンのような一握りの人間が、正義を実現しようと大勢の人間を殺害する行為に及ぶ(または黙認する)ことは、許されるのでしょうか。
2, たとえ、それが平和の実現を目的とするものであっても、ウォッチメンのような一部の人間が多数の犠牲を出すことを決定するのは許されてはいけないのではないでしょうか。
3, そもそも、多数の犠牲を出しても救うべき「正義」は誰が定義するのでしょう。この場合はやはりウォッチメンが定義することになるのでしょう。
正義の相対性、正義とは何か、そして一番の問題…誰が「一握りの人間」」であるウオッチマンを監視するのか。
Who watches the watchmen?が原作で掲げられているテーマでもあります。
結局、現実世界にはヒーローが倒すべき絶対的な悪は存在せず、同様に絶対的な正義も存在しません。
従って、一握りのヒ―ローが悪が何かを判断し、それを独断で抹消することは許されないもの、というのが私の結論です。
初めてみたとき、ウォッチメンたちの区別がなかなか大変だったので、映画に出てくるウォッチメンの面々の紹介を一応書いておきます。
ご興味のある方はどうぞ、お読みください。
【コメディアン】
もっとも初期から活動し、初代ナイトオウルや初代シルク・スペクターとも活動を共にした。数々の歴史的事件に関与し、ケネディ暗殺に関わっていた(彼が引き金を引いた)こともオープニングクレジットで明かされている。
また、本編ではベトナム戦争への参加も描かれている。
暴力的解決手法を好み、初代シルク・スペクターを強姦しようとしたことがある。
非合法化後も政府の管理下でヒーロー活動を継続。映画冒頭で殺害される最初の被害者でもある。
【ロールシャッハ】
トレンチコートに帽子、白黒の常に変動する模様のマスク。そしてそのマスクは常に異臭を放つという。極右雑誌を愛読し、トルーマン大統領とその業績を賞賛する。非合法化された後も、非合法的にヒーロー活動を続ける。
絶対的な正義を信奉し、決して妥協はしない。マスクの白と黒が混じり合うことはなく、灰色になることはないのがその象徴でもある。また、「マスク以外は何も必要ない」というくらいにマスクには固執している。 映画中でも描かれる事件をきっかけに、「犯罪者を生かしておく、今までのスタイルは甘かった」と語る。1人の女性が殺された事件で40人もの人間が見て見ないふりをした事件とも相まって人間に対して強い不信感を抱いている。
【ナイトオウル(2世)】
父は銀行家で、初代ナイトオウルでもあった。引退後は父の遺産を元に静かに生活している。ただ、自宅地下に自作の道具を多数保管しており、未練を感じさせる。
事件解決手法は至って紳士的。人間的な不信感はなく、その正義感にも疑いを見せない。
伝統的なヒーローに最も近い外見。
【シルク・スペクター(2世)】
女性のヒーロー。母親が初代で、15歳でヒーローの座を継ぐ。幼いころからヒーローになるための特訓をした母親とは感情的なしこりもある。非合法化後は引退して、Dr.マンハッタンの恋人として基地で生活をする。
【Dr.マンハッタン】
1950年代前半に科学実験の失敗で全身が粒子状に分解されてしまった。全身が青く発光しており、正体不明であるが一応、彼の人間としての意識は生き残っている。非合法化後も政府の管理下でヒーロー活動を続ける。
特殊の倫理観を持ち、人間の生死には関心が低い。映画中でもその特殊性を示すエピソードが多数あるが、そのひとつはベトナム戦でのコメディアンの殺人行為の傍観であろう。 彼の特殊な能力はアメリカがソ連に対して圧倒的優位を保つ要であり、その能力はソ連の核戦力の99.5%に相当する。彼の失踪(火星への逃避)を原因としてアメリカはその優位を失い、ソ連はアフガニスタンに侵攻し、核戦争の危機が現実化した。
【オズマンディアス】
ヴェイト社社長にして、「世界一の天才」と言われる頭脳を武器に難事件を解決した元ヒーロー。今は引退して、実業家として莫大な財産を築き、各地でチャリティー活動を行う。エジプト文明を愛好する文化人でもあり、南極に自分の基地を所有する。コメディアンの次に襲撃される。
なかなかの変わり者ぞろいですよね。
この映画は「ヘンタイしか出てこない」、かもしれない。
ひと癖もふた癖もあるヒーローばかりで、一人として100%正義の味方、伝統的なヒーローと言える人はいません。
ラストまで見ればわかりますが、「一人も」、いません。
その人間味がウォッチメンの魅力なのです。
↑ニューヨーク,マンハッタンの高層ビル街