果たし合い。


『武曲 MUKOKU』
父に鍛えられ、剣道一筋に生きてきた研吾(綾野剛)だが、あることがあって、今は酒に溺れる日々。
母は他界し、父は植物状態で入院中で、研吾は警備員のバイトで食いつないでいた。
一方、ラップに夢中の羽田融(村上虹郎)はある日、同じ学校の剣道部員にからまれる。
連れ込まれた道場で、顧問の光邑(柄本明)に素質を見込まれ、いつしか剣道部に入ることに。
数日後、融たち剣道部員が道場で練習していると、酒に酔った研吾が現れ‥‥。

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原作は、藤沢周さんの小説です。
監督は「私の男」などの熊切和嘉さん。

「果たし合い」なんて言う言葉は、現代で使われることはもうないわけですが
まさにその「果たし合い」を、現代を舞台に描いた映画でした。

形は違えど「死」を目の当たりにし
耐えずそのことが頭から離れずに生きている、研吾と融。

ある時その2人が、剣道というものを介して接するのですが。
その「立合い」までを、ゆっくりじっくり描いてあって。

丁寧に描いてある分だけ、厚みが増していたのですが
相撲の仕切りが、長く感じる人がいるように
そのクライマックスまでが、僕はちょっとじれったく感じてしまいました。

融役の村上虹郎さん、めちゃくちゃ雰囲気良いですね。
耳にイヤホン突っ込んで、制服・セッタ姿でベタベタ歩く姿なんて
役者さんによっちゃあ、滑稽に見えそうなんですけど。
ちゃんと「ただならぬ」雰囲気が出ていて、目を引かれてしまいました。

そして綾野剛さん演じる、狂気に満ちた研吾。
父と剣に狂わされた人生。
物心ついたころから盲信していたものが崩れた時、人はどうなるのか。
観ていて心配になるほどの狂いっぷりでした。

そんな2人が交わるとき‥‥
その緊張感と殺気に、圧倒されてしまいましたよ。
凄まじかった。

気になったのは、前田敦子さん演じる、研吾の恋人の存在が浮いてしまっていたことですね。
もちろん前田さん自身がどうではないですよ。
ストーリーの上でそのキャラの存在が、生きてたと思えなかったので。
せっかくの前田さんがもったいなかったなと。

静かで長いイントロ。
そして、火の出るようなクライマックス。
かつて武士たちの間であった果たし合いも、そんな空気をまとっていたのかもですね。

村上虹郎さん、これからももっといろんな映画で観てみたいです。


☆個人的見どころ
 ・ただならぬ融
 ・迫力の和尚
 ・果たし合い

(6月3日公開予定)