
「覚えておいて、何かが追いかけてきたら走って逃げるのよ。」
ついに禁断の「恐竜公園」がオープンした。
シリーズ四作目の本作も「生命倫理・生命の進化・歴史」という深いテーマの中に、「クローン」に代表される最先端の科学技術を使い「神」という領域にまで到達し、そして介入してしまった「人間の行い」への痛烈な批判や、種の繁栄と絶滅、生命同士の共存、生命の素晴らしさを描いている。
そして、「神の真似事」をして絶滅種を蘇らせるばかりか、地球上に存在しなかった「新たなる種」までもを生み出す人間の危険さ、愚かさ、「利益」だけの為に「危険と判っていながら」身勝手なプロジェクトを始動し、慎重で冷静な判断を疎かにしていまうという、ビッグバジェットの「ハリウッド・メジャー大作」への皮肉も重ねて込められている。
シリーズ一作目の原作小説では、琥珀に閉じ込められていた「蚊」の腹部の血液から恐竜のDNAを採取し、これを解析・復元した上で欠損部位を現生のカエルのDNAで補完し、さらにこれをワニの未受精卵に注入し、クローンとして再生させることで「恐竜を現代に蘇らせる」という非現実的なテーマに大きなリアリティを与えることに成功した。
アメリカで最も有名な古生物学者の一人であり、映画版『ジュラシック・パーク』シリーズ全作品のテクニカルアドバイザーを務め、一作目と三作目の主人公「アラン・グラント博士」のモデルでもある「ジャック・ホーナー」が本作でもアドバイザーとして参加している。
一作目と二作目『ロスト・ワールド』の原作者である小説家の「マイケル・クライトン」は、彼をモデルにジュラシック・パークを執筆し、その後スピルバーグ監督により映画化された。
ジャック・ホーナーは「恐竜の成長」に関する最先端の研究によって最もよく知られていて多数の論文を発表している。
昨今では「鳥類」の先祖は「恐竜」の獣脚類の一種であるという説がほぼ定説となっていることもあり、本作は「鳥の脚」のクローズアップから始まる。
1970年のイギリス映画『恐竜時代』の原題と同じ「WHEN DINOSAURS RULED THE EARTH」と書かれたビジターセンターの垂れ幕が「雄叫びをあげるティラノサウルス」の前を落下した、イスラ・ヌブラル島での「ジュラシック・パーク」の惨劇から22年、パークを経営していたインジェン社はマスラニ社に買収され、島はサイモン・マスラニ社長が所有している。
マスラニ社は、パークの創設者である故ジョン・ハモンドが夢見たテーマパークをついに実現させ、2005年の開園から10年、今や世界中から毎日2万人、年間1000万人の旅行者が訪れる爆発的人気のテーマパークとして大成功していた・・・。
映画用デジタル音響システム「dts」を採用した最初の作品としても知られるシリーズ一作目『ジュラシック・パーク』への愛が詰まった本作は、スピルバーグが創造した世界へのオマージュとリンクで溢れている。
一作目と同じく恐竜が山羊を丸呑みにするアトラクションが登場し、大歓声を上げる大勢の観客の向こう側でチラリとしか見えない「ティラノサウルス」やその鳴き声にまずは惹きつけられる。
そして、巨大な檻の中に生い茂る樹木の「枝葉の揺れ」と「音」だけで「恐ろしい生き物」の大きさや凶暴さを表現し、茂みの向こう側からこちらを睨みつける大型恐竜の「眼」だけをクローズアップで映す場面など、物語の前半は「見たいのに見えそうで見えない」という焦らしの演出の連続でモヤモヤが募り、後半でアクセル全開のパニック展開に移行する点など、スピルバーグ監督作かと思えるほどに観客の興味を引っ張る推進力が凄まじい。
その他にも「原点回帰」や「エピソード1リスペクト」の要素は多く、一作目でクローン再生の概要を解説したアニメキャラクター「ミスター・DNA」がコリン・トレボロウ監督の声でリニューアル再登場し、トレボロウ監督の友人で『Mr.インクレディブル』『ゴースト・プロトコル 』の監督ブラッド・バードがモノレールで流れるアナウンスの声でカメオ出演している。
一作目と二作目の主要登場人物である「イアン・マルコム」博士が書いた著書「God Creates Dinosaurs=神が恐竜を創造する」が劇中に何度か登場したり、一作目と同じく、疾走する「ガリミムス」の群れの間を人間が移動するという躍動感あふれる「ガリミムス・バレー」の場面があったり、主人公が一作目の「マルドゥーン」の役職を引き継ぎ、彼と同じ型のジャケットを着用していたり、恐竜オタクのオペレーターがネットで落札した「物語内では黒歴史であるジュラシック・パーク」のTシャツを着ていたりする。
「ティラノサウルス・レックス・キングダム」でパークの目玉として飼育されている「ティラノサウルス・レックス」は、一作目と同じく赤い発炎筒に導かれ堂々たる貫禄で召喚されるうえに「ヴェロキラプトル」との戦いで付けられた傷跡が首に残っていることから、一作目に登場した通称「レクシィ(Rexy)」だという事が判る点も巧い。
「ジュラシック・ワールド」の設立及び所有者マスラニの父は「ジョン・ハモンド」の親友でもあったという設定で、2014年に90歳で他界したリチャード・アッテンボローが演じたハモンドの銅像が本作で一瞬登場し、一作目にも登場した遺伝子学者「ヘンリー・ウー博士」は、新たなる恐竜「インドミナス・レックス」を独断の遺伝子操作で生み出している。
エリマキトカゲに似た特徴的な姿の肉食恐竜で、一作目では悪役の一人に襲いかかる恐ろしい場面が印象的だった「ディロフォサウルス」は、本作では登場人物たちがヴェロキラプトルに追われる場面で意外で現代的な登場の仕方をする。
他にも一作目に登場した場所やガジェットが本作の展開に絡めて多数登場し、その場面ではジョン・ウィリアムズのテーマ曲のピアノバージョンが流れノスタルジックな雰囲気が一層高まる。
シリーズ初登場の巨大海生爬虫類「モササウルス」は、まるでイルカのショーのように、スピルバーグの『ジョーズ』と同じホオジロザメに喰らい付くという楽屋ネタで豪快に登場するし、一作目のティラノサウルスの様な粋な再登場も披露し観客を唖然とさせる。
コメディアンの「ジミー・ファロン」が、ジャイロスフィアと呼ばれる球体の乗り物に搭載されているビデオの案内人として本人役で登場し笑わせたり、『ジュラシック・パークIII』のプテラノドンの恐怖を思わせる翼竜「ディモルフォドン」と「プテラノドン」の大襲来も用意されている。
主人公「A」と心を通わせている「ヴェロキラプトル四姉妹=B・C・D・E」の「動物的」な師弟関係は、野生の肉食動物を飼い慣らすのと同様に「いつ捕食者に逆転するか判らない」というギリギリのバランスが生々しくスリリングで、彼らとバイクで並走する素晴らしい名場面は、一作目から見続けている観客にとっては感動的ですらある。
昨今では「イルカ」並の知性があったことが判ってきているヴェロキラプトルの「四姉妹」の熱い「共闘」と生き様も本作の見所だ。
長編二作目のコリン・トレボロウ監督がブラッド・バードの奨めと、長編一作目を観て感銘を受けたスピルバーグのプッシュで大抜擢され、世界興行収入の歴史を塗り変えるという偉業を成し遂げた。
そのおかげで我々は、ついにオープンした禁断の「恐竜公園」の恐ろしいアトラクションを体感することができ、再び人間のちっぽけさと傲慢さと無力さを改めて目の当たりにし、「神」に近づいた人間の素晴らしさと愚かさを同時に思い知らされる・・・。
「骨を掘り起こしていた過去の百年間より、ここ十年で私たちは遺伝子についてより多くのことを学んだわ。」