海街diary | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「大人のするべき事を子供に肩代わりさせてはいけないと思います。」



誰もがそれぞれ、いつも書き記している「心の日記帳」には、いつか思い出したいこと、思い出したくないこと、嬉しいこと悲しいこと、忘れたいこと忘れたくないこと、恥ずかしいこと照れること、良いこと、悪いこと・・・など、各ページにその人の全てが刻まれている。

笑顔、再会、恋愛、和解、食事、季節、花火、潮風、太陽、絆・・・など、眩しいくらいに光輝く人生の様々な景色を、是枝監督はいつも以上に丁寧に切り取り繋ぎ合わせる。

それに対し、葬式に始まり葬式に終わるという展開、職務、ネグレクト、不倫、喧嘩、離婚、失恋、別れ、死・・・など、同時進行で人生のダークサイドも逃げずに淡々と描くのも監督の得意技だ。

信じ難いネグレクトとその被害者たちの壮絶な生き様を子供目線から描いた『誰も知らない』、長男の死を乗り越えた家族の再生と静かな終焉を描いた『歩いても 歩いても』、離婚などの大人の事情で振り回され傷ついた子供たちの冒険を子供目線で描いた『奇跡』、子供取り違えという大人の事情で振り回され傷ついた子供たちの戸惑いを大人目線で描いた『そして父になる』など、「親から見放された子供」「親を放棄してしまう大人」など、主に「傷ついた子供の本当の気持ち」を撮り続けている是枝裕和監督。

海外での評価も高く「小津安二郎監督の再来」とまで言われている。

『若草物語』がベースにある原作は『ラヴァーズ・キス』とクロスオーバーされた吉田秋生の同名コミックで、四姉妹を中心とした大人の青春を描いた人間ドラマ。

カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に正式出品された映画版は、是枝監督による日本映画ならではの景色と空気感と、極力セリフに頼らない心地の良い「行間」が散りばめられている。



「大変だったでしょう。ありがとう。あなたがお父さんのお世話をしてくれたんでしょう?お父さんきっと喜んでると思うわ。ほんとうにありがとう。」



母替わりでしっかり者の長女で凛とした佇まいの綾瀬はるか。

酒と男を愛するが故に酒癖も男運も悪く活発な次女の長澤まさみ。

破天荒で掴みどころがなく父親の記憶があまり無い三女の夏帆。

自分が産まれたことで周りの人を傷つけ続けていると思っている四女の広瀬すず。

子役の自然体な雰囲気を引き出させたら世界一であろう是枝監督は、本作の演出で、広瀬すずにのみ最初から台本を渡さず、その場でセリフを伝えるという演出方法を取った。

これは、子役から自然体の演技を引き出すために今までやってきた演出スタイルと全く同じである。

その効果もあり彼女の初々しさ、手を離すと消えてしまいそうな儚さ、いつ爆発するか判らない危うさなど、どれも是枝作品らしい生々しいリアルさだ。

共演は、是枝作品常連の樹木希林を初め、『そして父になる』から風吹ジュンとリリー・フランキー、『奇跡』から前田旺志郎、『誰も知らない』『花よりもなほ』から加瀬亮、初参加組は、大竹しのぶ、堤真一、鈴木亮平、元SUPER BUTTER DOGのキーボードで現ソロユニット「レキシ」の池田貴史など、全員主役級の豪華さ。

長澤まさみ推薦により抜擢された音楽は、大友克洋の『MEMORIES/彼女の想いで』を筆頭にフィルモグラフィにアニメ作品が多い菅野よう子。

主要キャストも参加したカンヌでの上映後には歓声が起こり、是枝監督らが劇場を退出するまでスタンディングオベーションが送られた。

鎌倉で暮らす3姉妹の元に、15年前家を出ていった父の訃報が届く。

長い間会っていなかった父の葬儀に向かった三人は、そこで異母妹と初めて会う。

身寄りの無くなった彼女に対し「鎌倉で4人一緒に暮らさない?」と長女は告げる。

何でも抱えてしまう母性溢れる長女、のびのび自由で問題児な次女、大人っぽく優しく個性的でおっとりでマイペースな三女、自分という存在を許せず自己肯定感が欠如した母違いの四女、みんな揃った。



「奥さんがいる人を好きになるなんて、お母さん良くないよね。」



この四人が揃い、今まで許せなかった「父と母」を少しずつ受け入れ、やがて四人は「家族」になっていく。

そうして鎌倉での四姉妹の人生が再び始まる・・・。

同時に、四人それぞれが「居場所」を求め「パートナー」=「未来の居場所」探しが水面下で同時進行する。

本作は全編にわたり、淡く穏やかな木漏れ日の様な雰囲気の世界観に「生と死」が色濃く映し出され、ページをめくるごとに展開する「diary」のような、センチメンタルな雰囲気にも包まれる。

誰もがそれぞれ、いつも書き記している「心の日記帳」には、いつか思い出したいこと、思い出したくないこと、嬉しいこと悲しいこと、忘れたいこと忘れたくないこと、恥ずかしいこと照れること、良いこと、悪いこと・・・など、各ページにその人の全てが刻まれている。

そして、子供には「自分は産まれてきて良かったんだ」と思わせる事が人生の第一の目標で、その為に親は子供に「産まれてきてくれて、ありがとう」と何度も伝えなければいけない。

是枝作品の『奇跡』につけられたキャッチコピー「あなたもきっと、誰かの奇跡」なのだ。

クライマックス、二人で登った鎌倉の高台で四女と一緒に「溜まった想い」を「一言」に集約し絶叫に近い大声で叫んだ長女は、今まで誰にも知られずに背負ってきた多くのものを全て吐き出し、改めて「家族」を見守る覚悟をし、そして・・・母になる。



「お父さんやっぱり優しい人だったんだよ。ダメだったかもしれないけど、優しかったんだよ。」