マッドマックス/怒りのデス・ロード (IMAX-3D版) | 愛すべき映画たちのメソッド☆

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映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「弾丸は危険な種。植えると確実に死ぬ。」



暴力的なタービン回転音が全編に鳴り響き「車の西部劇」と呼ばれた偉大なる狂気の英雄神話『マッドマックス・シリーズ』に、更に「バイオレンス」と「スピード」というパーツを大幅増量し、プラス、新たに「美女」というハイオク燃料をガソリンタンク満タンに注入。

絶叫と轟音を響かせながら、ニトロでブーストされた2000馬力のカスタム車がフルスロットルで荒野を爆走するかの様な「狂気のカタルシス」が詰まった120分。

この「3D鑑賞必須」の暴走車は、確かに「この映画を観ると『ワイルド・スピード』が『おさるのジョージ』に見えてしまう」と批評した米メディアに同意せざるを得ないほど緊張感が異次元レベルに達している。

まさに、映画というスタイルで表現された「ハードロック」だ。

デヴィッド・フィンチャー、ジェームス・キャメロン、ギレルモ・デル・トロたちが最も影響を受けた映画の1本と語る伝説のシリーズ。

その伝説を劇場で鑑賞できる幸運に心底ワクワクした前作『マッドマックス/サンダードーム』以来、27年ぶりの新作を再び劇場で鑑賞できた奇跡に感極まる。

数々のトラブルで10年以上の年月を紆余曲折し、ようやく完成した本作は『マッドマックス2』のスピリットを多く含み「世界の観客が字幕なしで楽しめる」というコンセプトで制作された「作品全体の80%が実写」の全編カーチェイス作品。

カスタム車とバイクの群れが頭上から現れ、画面奥へ飛び越えていく「荒野のスター・ウォーズ」オープニング、そこからこの世の「天国と地獄」に特化した凄まじいテンションが延々と続くという異常。

シリーズで初めて左ハンドル車も登場し、再び世界の映画ファンのハートを爆音で震わせる。

世界終焉から45年、妻子を失った元警官「マックス"マクシミリアン"・ロカタンスキー」は、放射能汚染後の世界を旅をしていたが武装集団に捕らえられ、放射能の影響で長く生きることが出来ない人間たちの「輸血袋」として血を抜かれ続けていた。

そんな中、武装集団から逃亡した女達一団の砂漠横断の手助けをする事になる・・・。



「なんて日だ。なんて最高な日なんだ。」



旧3部作でメル・ギブソンが演じたマックス役を引き継いだのは『ダークナイト・ライジング』の悪役ベインで知られるトム・ハーディ。

彼は冒頭20分は全く喋らず、全編を通して表情とアクションだけで全てを語る。

片腕マシンの女戦士「フュリオサ」を演じるのは『モンスター』でアカデミー賞主演女優賞を獲得したシャーリーズ・セロン。

彼女自身のアイデアでフュリオサは坊主になり、本作の数少ないCG場面は、ほぼ彼女の左腕に使われた。

「奴の名はナイト・ライダー。夜空を見上げる度に思い出せ。」という名台詞で人々を恐怖に陥れたシリーズ一作目『マッドマックス』。

その暴走族のリーダー「トゥーカッター」役のヒュー・キース・バーンが演じる「イモータン・ジョー」は、馬の顎骨と歯を使用したマスクを着け「ダースベイダー+プレデター」の様な狂ったビジュアルをまとい悪の権化を体現する。

彼は暗黒の時代で完全武装集団ヒエラルキーの頂点に君臨し続けている。

日本のアニメを愛する監督らしく、デザインに抜擢したのが『青の6号』『ヱヴァンゲリヲン』『アニマトリックス』でも監督・キャラクターデザイン・作画監督を務めた日本のアニメーター「前田真宏」というのも誇らしい。

元医者で、シリーズの創始者であり、全ての監督と脚本を務めるジョージ・ミラーは本作を作るにあたり、セリフよりも「ビジュアル」を中心とした語り口の『AKIRA』を始めとする日本のアニメの「美意識」に多大なる影響を受けたと語っている。

その為か最初に書いた脚本には文字は無く「絵コンテ」で描き、撮影日数の「128日間」ほぼ毎日アクションシーンを撮り続けフィルムに焼き付けた。



「祈ってるのよ。聞いてくれる誰かに。」



奪うか、奪われるか。

狩るか、狩られるか。

殺るか、殺られるか。

理性も文明も崩壊した狂った世界では「水・食料・血液・ガソリン・女」を奪い合い、正義と本能の戦いという「生きる為の戦い」のみが日々繰り返されている。

「弱者」を助けたり、誰かの「死」を悲しんでいる余裕は全くない。

もしも自分の「心」が傷つきバーストしてしまえば、メンテナンスを出来る者は誰もいない。

そんな状態に陥ればすぐにエンストし、弱肉強食の生存競争をリタイアしなければならなくなる。

心を傷つけ「理性」を失う恐れのある「喜び」「期待」「悲しみ」「絶望」「恨み」・・・などの人間的感情は今すぐに捨てなければいけない。

もしも、自分の心が「理性」を失えば、後には「狂気」しか残らないからだ。

この世界では、襲いかかる「捕食者」と戦うのと同時に「弱い自分の心」にも勝たないといけないのだ。

しかも、トップスピードで突っ走る車を巧みに操りながら・・・。

そしてこの世界で最も必要なのは、ヒロイズム、理性、優しさ、銃の腕前、運転技術、腕力、知識、カリスマ性・・・などではない。

真っ先に、振り返らずに、全力で、「逃げる」という勇気だ。



「俺の世界はたった一つの本能に集約される。サバイバルだ。」