そこのみにて光輝く | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「すべての終わり、愛の始まり。」



人は、永遠に続くと思えた暗く長い夜を乗り越え、朝を迎えることができた時、そこのみにて光輝く「希望」を手に入れる事ができる。

何度も芥川賞候補に挙げられながらも賞に恵まれず、1990年に41歳で自ら命を絶った不遇の作家「佐藤泰志」の同名小説を『きみはいい子』の呉美保監督が映画化。

難しいテーマの内容から出資もなかなか集まらず、少ない人数と予算でほとんど自主映画のような状態で完成させ、公開から1年以上もロングラン上映された。

北海道函館を舞台に「ある理由」から仕事を失った男がバラックに住む女と出会い、家族のために必死に生きる彼女を愛し続けるという、生きる場所を失った男女の姿を描いた極限のラブストーリー。



「この街、出てこうとしたこともあったんだよ。」



アカデミー賞外国語映画賞部門に日本代表作品として出品されたほか、モントリオール世界映画祭最優秀監督賞、レインダンス映画祭ベストインターナショナル賞、アジア・フィルム・アワード最優秀助演女優賞、日本アカデミー賞優秀主演女優賞、ヨコハマ映画祭ベスト10第1位・作品賞、キネマ旬報ベスト・テン日本映画1位・監督賞・脚本賞・主演男優賞、毎日映画コンクール監督賞、ブルーリボン賞監督賞、芸術選奨文部科学大臣新人賞、日本映画批評家大賞監督賞、高崎映画祭最優秀監督賞、おおさかシネマフェスティバル作品賞・主演男優賞・主演女優賞・助演男優賞・監督賞・撮影賞ほか多くの賞を受賞した。

キャスト全員が「そこにいる」存在感を強烈に漂わせ、オープニングからラストまでこの物語が「現実」としか思えない。

過去のトラウマから抜け出す気力を失いながらも、静かな中に強さと優しさと愛を感じさせる『白ゆき姫殺人事件』の綾野剛。

現在進行系のトラウマと重い十字架を背負いながらも、心のどこかで愛を求め、冷めた視線の中に諦めと悲しみと母性と色気を放つ『ジョゼと虎と魚たち』の池脇千鶴。

ヤンチャで不器用でがさつで失敗もするが、家族を愛し、情に溢れ、明るさと優しさと生命力を決して失わない憎めなさを体現している『共喰い』の菅田将暉。

家族を愛しているが、その反動で小さな世界で常に強がり、地位と欲望の全てを力ずくでも手に入れようとする本当は弱い人間を生々しく見せる『そして父になる』の高橋和也。

この奇跡ともいえる四人の「役者」がみな主役であるかのように、120分間一瞬たりとも途切れずに激しい火花を散らし合う。



「最初から女です。」



仕事を辞めて何もせずに生活していた男は、ある日パチンコ屋で一人の青年と出会う。

青年の家には、寝たきりの父親、その世話をする母親、そして姉がいた。

その姉と男は互いに惹かれ合い、二人は結ばれる。

そんなある日、男は彼女の衝撃的な事実を知る・・・。

本作は説明的なセリフが一切無く、静かなる「行間」が全てを物語る。

日本のどこにでもある寂れた街の止めどない閉塞感、そこに流れる息苦しい空気感が全編を覆っていて、そこに不穏な緊迫感が漂う。

海で必死に泳ぎ抱き合いキスをする場面は、運命という波に流されながらも必死にお互いを求め合い、必死に抱き合い、必死に体を重ね合う「二人の世界」を象徴していて美しい。

「そこのみにて光輝く」=「そこだけでしか光輝けない」人々が、「そこ」という小さな小さな逃れられない「運命」を変え、今まで想像も出来なかった大きな大きな「そこ」で光輝くべく生まれ変わろうとする。

どん底から抜け出せない絶望感を持った人々が「希望」へ向かって必死に、ゆっくりと歩き出す。



「私と結婚したいの?」



生きる気力を失っていた主人公は奈落の底で「寝たきりの父親」「酒浸りの母親」「何をするか判らない弟」を一手に引き受けて生きている「女」と出逢い、むきだしの「家族」の姿を目の当たりにし、「家族」を持つ困難さと「家族」を持つ素晴らしさ、そして「愛」を知り、少しずつ「生きるチカラ」を再び持ち始める。

ほっとけない「家族」がいるから辛くても逃げられない現実があったり、支え合える「家族」がいるから勇気を持って現実に向き合えたり、理想の「家族」を追い求めるから誰よりも強くなれたり、人の一生は「家族」に始まり「家族」に終わる。

そして人は、永遠に続くと思えた暗く長い夜を乗り越え、朝を迎えることができた時、そこのみにて光輝く「希望」を手に入れる。

永遠に続くと思えた暗く長い「孤独」を乗り越え、誰かに出逢うことができた時、そこのみにて光輝く「場所」を手に入れる。

そして手を取り合い「そこ」という壁を破り、この世界の「どこでも」光輝ける二人になる。

それこそが「愛し、愛される」という、かけがえのない「癒し」となり、この世で唯一無二の「家族」になる。

二人の間のみにて光輝く「愛」という名の・・・。



「俺は、母ちゃんも、父ちゃんも、姉ちゃんも、みんなを喜ばせたかっただけなのに。」