予告犯 | 愛すべき映画たちのメソッド☆

愛すべき映画たちのメソッド☆

映画感想家・心理カウンセラー・芸術家のNatsukiです☆

『映画にどんなに素晴らしいメッセージが含まれていようと
「娯楽性」がなければ作品としては失敗だ』/レオナルド・ディカプリオ



「6時間のナイトパックが1700円。15分延長ごとに100円追加。ドリンクおかわり自由の一畳半。この汗臭いタコ部屋の片隅から、俺が世界を変えてやる。」



原作全3巻のうち2巻までしか発刊されていない2012年の時点で始まった「原作権争奪戦」は、20社以上が殺到したオファーの中でWOWOWとTBSが勝利した。

我々が漠然と抱いている「正義と悪」の境界線がどんどん揺らいでいく本作は、ある日「新聞紙を頭に被った男」が、某食品加工会社に放火の予告をしている動画がネット上で発見されるところから始まる。

そしてその予告は実行され、その後も幾度となく犯罪予告と犯罪が繰り返されるようになる。

警視庁のネット犯罪対策部署として設立されたサイバー犯罪対策課はこの男を「新聞男」と名付け、正体や動機を探るべく調査を始める。

ネット上で彼は「シンブンシ」と呼ばれ、次第に若者たちの支持を集めだす。

「シンブンシ」は、三十代で面接に来た人物をSNSで公開し面白おかしく晒し者にした面接官、集団食中毒事件を起こしたうえに記者会見で逆ギレした食品加工業社の社員、飲食店の調理器具でゴキブリを揚げそれを自慢げにツイートした店員、性犯罪について「簡単について行く女も悪い。自業自得だ。」とネットに書き込み炎上させた人物など「世間から反感をかう非常識な言動」や失言などでSNSやネット掲示板で炎上騒ぎを起こした者に対してだけ犯罪予告をし、その後「制裁」を行う。

制裁の方法もターゲットを拉致監禁して重傷を負わせたり、精神的苦痛を与えたり、世間での評判を失墜させたり、様々だ。

また、シンブンシの真似をして「殺害予告」を実行しようとする「摸倣犯」が現れるなど、現代社会ならではの社会現象にまで発展する。

ネット上のユーザー投票でも徐々に支持が集まり「シンブンシ」は社会の弱者たちの間でカリスマ的人気を博していく。

警察は、シンブンシの真の目的を暴き、そして彼を捕えることができるのか・・・。



「小さなことでも、それが誰かの為になるなら、人は動く。」



世間を欺く企業や人物に容赦なく制裁を加えていく謎の男「シンブンシ」と、彼を追うエリート女性捜査官の息詰まる攻防戦を描く、2011~13年に「ジャンプ改」で連載された筒井哲也の同名人気マンガ(全3巻・全22話)を完璧に映画化。

海堂尊の『チーム・バチスタの栄光』『ジェネラル・ルージュの凱旋』、伊坂幸太郎の『アヒルと鴨のコインロッカー』『フィッシュストーリー』、湊かなえの『白ゆき姫殺人事件』など「原作もの」の映画化を得意とする中村義洋監督作品。

キャストもみな役者魂に溢れている。

伊坂幸太郎原作『グラスホッパー』でも主演を務める生田斗真。

『デスノート』で世界を虜にした戸田恵梨香。

まさかの傑作『HK/変態仮面』で主演を務めた鈴木亮平。

中村監督作の常連で『みなさん、さようなら』で主演を務めた濱田岳と田中圭の最共演。

内田けんじ監督作『鍵泥棒のメソッド』でも大いに笑わせてくれた荒川良々。

舞台と映画『くちづけ』で知的障害者を見事に演じ日本中を涙で沈めた宅間孝行。

『渇き。』でトラウマ級の強烈な印象を残し思春期の危うさを体現した小松菜奈。

変態的で情緒不安定でクセのある人物を得意とし『ゴールデンスランバー』など中村監督作常連でもある滝藤賢一。

伊坂幸太郎原作の映画化『重力ピエロ』での温かい父親役の好演が忘れられない小日向文世。

ピアノの発表会で業界関係者の目にとまり大抜擢され、役者初挑戦にも関わらず儚い笑顔も含め忘れ難い印象を残した福山康平。

「日の出」という飲料水のメーカー名と共に、さりげなくサプライズ登場する『白ゆき姫殺人事件』の菜々緒。

連鎖する「新たなる絆」を代表して表現する『るろうに剣心』の窪田正孝。

出番の多い少ないに関係なく、全ての登場人物が魅力的で忘れ難いのは中村義洋監督作品の特徴の1つ。



「お前は頭悪くないよ。ただ教育を受ける機会がなかっただけだ。」



「日の出化粧品」と「菜々緒」のリンクを初め、恐ろしいスピードのTwitterの拡散、沸点の低いネットの炎上、裏をとらないワイドショー報道の危うさ、SNSでの無責任な誹謗中傷、そしてそれら全てによる《事実の歪曲》・・・など、数々のテーマが中村監督の前作『白ゆき姫殺人事件』とも重なり、まるで二部作の様に「日本、報道、犯罪、ネット、企業」などの問題点の暴きっぷりが繋がっていて面白い。

最後に「友情」が効いてくる泣ける展開も同じだ。

《理不尽な世の中》のリアルが、YouTube、2ちゃん、ニコ生、ネカフェ、OTPトークンなどを巧みに利用した「ネット社会のテロリズム」からあぶり出される。

そして、ネット社会の軽薄さ、無責任さ、暴走っぷり、その片隅で必死に生きる人々が浮き彫りにされる。

遠目に見れば「豊かで平和な理想郷」に見える日本は、近くで見れば実は「心は貧しく、物騒な街」だったりする。

そんな「表向きの日本」を夢見てやってくる世界の人達もいる。

本作はその流れから本筋が出来上がっている。

「リストラ」「パワハラ」「食品偽装」「不景気」「派遣社員」「失業率」「バイトテロ」・・・など「物質的には豊かだが、心は貧しく、物騒な街」である日本に、法では裁けない制裁を加えるべく「ダークナイト」が現れる。



「明日の予告を教えてやる。この動画が最後の投稿になるだろう。」



「シンブンシ」が国家権力を嘲笑うかの様に仕掛けるテロの数々は、日本の「物質的には豊かだが、心は貧しく、実は物騒な街」という「国が抱える現代病」を巧みに利用した痛烈な「メッセージ」だ。

日本中の関心を集め、日本中にいる同じ境遇の人々を救う為のメッセージ。

彼の想いは、彼の経験した「アンダーグラウンド」という名の「日本社会」が原因で出来た心の「トラウマ」から来ているのだ。

底辺から這い上がった「頑張って成功した者」と、底辺にずっといる「頑張ったけど落ちこぼれた者」は結果だけを見れば対照的なのだが、頑張ったという「途中経過」は全く同じなのだ。

「結果」を重視し「失敗」を絶対に許さない日本社会の古い体質は、Googleやpixerなどの世界のトップ企業と正反対のものになってしまい、世界から取り残されてしまっている。

インターネットやスマホの普及など「物質的には豊か」であっても「失業率」や「自殺率」などの「中身=心」が伴っていないのは「日本人」も「日本企業」も同じで、これからの日本の大きな課題なのだ。

我々は日本自体の「失敗」を許し、もしも日本が頑張り再び這い上がってきた時には「努力」を褒め称えなければならない。

そして本作で描かれた「友情」とその過程には涙が止まらなかった。

どんなに過酷で辛い状況が訪れても「友情」に救われ「友情」で救うことができる。

「友」という存在があるだけで人は「自尊心」を持つ事ができるようになり、「自尊心」により打たれ強く負けない心を持てるようになる。

その「自尊心」があれば人は何でもできるし、何にでも立ち向かえる。

「同じ想い」を持った友との掛け替えのない「絆」は、敵も味方も、職業も、性別も、人種も超えて、自尊心となり、永遠に「心」と「心」で響き合うだろう・・・。



「俺がこの世で最も憎んでいるものは、お前たちの中から自尊心を奪い取ろうとする何かだ。俺はお前たちの生活を助けてやることはできないが、お前たちが今鬱積させているその感情を、少しくらいは救ってやることはできる。もしも今後、理由もなくお前たちを侮辱する人間が現れたら俺に言え。」