「任せて、ちゃんと育てる」
118分ほとんど涙が溢れっぱなしだった。
19歳の少女が「おおかみおとこ」と出会い、その間に生まれた「おおかみこども」の姉弟の成長から自立までの悲喜交々の13年間。
表向きはディズニーやジブリに通じるファンタジーで、数々の比喩を織り交ぜながら人間の《恋愛と結婚と育児》をシンプルに深く描いている。
そう思って観れば全ての場面は現実に起こりうる出来事を判り易く「例え話」として大袈裟に表現しているだけで、ある母親の育児奮闘記をアニメーションでリアルに描いているだけの物語だという事が判る。
育ってきた環境も価値観もまるで違う、永遠に完全には理解し合えない異質の存在の《男》を「おおかみおとこ」として描き、同様に言葉も通じず育て方も育ち方も知らない、常に目が離せないし予測のつかない突飛な言動の数々で日々振り回させてくれる異質の存在の《子供》を「おおかみこども」として描いている。
母親となる女性は幼少の頃から何事も笑顔で乗り越えれるという事を親に教わって大人になった。
親が亡くなった時でさえも笑顔で乗り越えた。
もちろん右も左も判らない育児も常に笑顔で奮闘する。
「おおかみこども」は昼夜関係なく遠吠えするし、家中の物に噛み付いて壊しまくるし、当然のように公共の場でも大騒ぎする。
こういった場面はおもしろ可笑しく描いているが人間の子供の本来の姿として実にリアル。
さすがの母親も他人の目の厳しい都会に息苦しさを感じ始め、ほとんど人の住んでいない『サマーウォーズ』の様な田舎へと引っ越す。
世間体を気にし過ぎて躾を厳しくしてまう現代日本の問題点もしっかり盛り込みつつ、小さな事は大目にみていた昭和の古き良き時代へ戻るという行動で現代の育児論を自ら体現する。
上下関係ではなく対等に子供と向き合い楽しく生活する子育てが日本でもようやく重要視されてきた昨今。
躾より先に何倍もメンタル面を育み、強いハートを持ち始めた「おおかみこども」の姉弟は《自分達の意思》で人生の選択と決断を下す。
目に見える躾を優先し過ぎて禁止語・命令語が多過ぎ、自分でいろんな判断や決断をできなくなっている子供や大人が急増していると言われている現代の日本。
その結果《自己肯定感》が先進国の中でダントツに低いという調査結果も随分と前に出ている。
児童心理の現場で日本の行き過ぎた躾による《過干渉》も問題になっている。
躾の最中に笑顔を絶やさない本作の母親に対して日本国内だけは賛否両論となっているらしい。
この作品はそんな現状をファンタジーに置き換えて痛烈に皮肉っている。
日本よりもユーモア精神の重要性と育児に対する意識と環境が数十年は進んでいると言われているアメリカが生んだ傑作『モンスターズ・インク』以上に、育児においての《笑顔の重要性》を日本映画が描いたという事に大きな意義がある。
「私はまだ何もしてあげられてない・・・。」
「元気で、しっかり生きて。」
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