将棋の名人在位18期を誇った大山康晴氏。晩年はがんと闘いながら対局を続け、トップリーグのA級に在籍したまま69歳で死去した。A級以上連続44期の大記録は、今も破られていない

▼氏が、ある囲碁棋士のタイトル獲得を祝う会に出席した時のこと。あいさつに立ち、「もっともっと勝って……」とエールを送った。すると棋士本人が「そんなことを言っても、オレは負ける相手がいないじゃないか」と軽口をたたいた。氏はすかさず返した。「もし負ける相手がいなければ自分に勝て」。会場は拍手喝采だったという(石田和雄著『棋士という生き方』イースト新書Q)

▼一時は勝っても、そこで満足して努力を怠れば、成長は止まり、敗北の因をつくってしまう。最も手強い相手は自分自身――命懸けで将棋を指し続けた大山氏らしい逸話だ

▼“仏法は勝負”と説く。それは、人生が勝負の連続にほかならないからだ。どんなに勝っても慢心を起こさず、負けても卑屈にならず、うまずたゆまず向上への努力を続ける。そこに、確固たる自己を築く道がある

▼池田先生は「自分に勝つことが、すべてに勝つことです」と。周りと比べるのではなく、“昨日の自分”を超えることこそ、偉大な勝利。きょうも新たな挑戦の一日を。