ピクニック星のおはなし | しあわせになりたかったのに

しあわせになりたかったのに

すみませんでした。

アラートが船内に鳴り響く。

赤いランプが点灯し、計器の数値が下がっていく。

大気が船を押し包み、アブゾーバー越しに椅子や棚をカタカタと揺らした。

星系外から来た僕の船は、減速途中でエンジンが壊れ、十分に相対速度を下げられないまま大気圏に侵入した。

船外の発電パネルが剥がれ、船の周りで流星となって眩しく消える。

緊急空間子アンカーが放出され、陽電子を引っ掻きながら減速する。

そうして船は大地を叩いた。

 

ぼくを包んだエアバックから這い出して、計器の目盛を確認する。

赤いラインを振り切っていたメーターは、次第に減衰し平常値に戻っていく。

船外の温度、大気圧、構成成分、いずれの数値も母星によく似ていた。

船のハッチを開けると、真っ青な空が広がっていた。

白い鳥がチイと鳴きながら二羽、追いかけ合うように飛んでいく。

見渡すかぎりの原っぱに草の葉がそよぎ、陽光のなかで緑に輝いている。

ところどころに黄色や白の花が咲いていて、そこをミツバチみたいな昆虫が飛んでいた。

船は小高い丘にこすり付けられるようにして停まっていた。

 

丘の向こうに人影があった。

白いワンピースを着た少女が船を見上げていた。

煙をあげる船体を、現代アートのオブジェのように眺めている。

その後ろには、御座がひろげられ、お弁当を開いているのが見えた。

ぼくは彼女のピクニックを邪魔してしまったようだった。

船内に戻った僕は、食糧庫をのぞいた。

着陸の衝撃で棚から備品が飛び出し、缶詰めやボトルが乱雑に散らかっている。

ぼくはお菓子の籠を見つけ出し、何袋か手に取った。

もう一度そとに出ると、僕は彼女に声をかけ、果汁グミを差し出した。

申し訳なく頭を下げると、彼女は不思議そうに首をかしげる。

 

ぼくは袋を開けてみせ、一粒食べてみせた。

そうして、もう一度、彼女に差し出す。

彼女はぶどう味の果汁グミをつまんで、押し縮めたり、陽光に透かしてみたりした。

しばらく感触を確かめたあと、口に入れる。

彼女の星空みたいな瞳がくるくるとして、笑った。

彼女は僕を手まねきして御座に戻ると、お弁当箱を手に取った。

中にはサンドイッチが並んでいて、僕にどうぞと差し出す。

ひとつ取ると、ふわふわと柔らかい感触がした。

パンに挟まった黄色い物はなんだろう。

思いながら口に入れると、舌の上でぱちぱちとはじけた。

カレーみたいな香辛料の香りがして、口をあたたかく刺激する。

僕は少し驚いて、彼女はそれを見てまた笑った。