雪のトかし方2

雪のトかし方
宮本えいだい
2
──7月、雨上がり。お誘い、いそいそ……
1学期の終わりが近づき、生徒会は前期の生徒総会に向けて慌ただしくなった。
総会を翌日に控えた放課後。
資料を作り終えたのは、夜9時を回った頃だった。
学園を出た私と掛橋は総会進行のシミュレーションの為に、学園から坂を下った所にあるカフェに来ていた。
「……夏休みは何で7月の中途半端な日から始まるんだろ」
冷めてしまったカフェラテに少し口をつけて、私は呟いた。
「急に、どうしたの?」含み笑いをした掛橋から向けられる視線。
「んー……」それから逃げるように、私はテーブルのカップを見詰めた。
「なんだよぅ。レイちゃんらしくないなぁ」
2人でいる時の掛橋は、私を"レイちゃん"と呼ぶようになっていた。
皆の前と使い分けなくてもと思う反面、名前で呼んでくれる時の彼女は、いつもよりゆっくりとした口調になり表情も緩(ゆる)む。
「……掛橋てさ、誕生日いつだっけ?」
「え?……11月、だけど?」パチパチと瞬(まばた)きをする彼女。
「私さ……8月なんだよね」
コーヒーカップの取っ手を持ち上げ、カップに少しだけ残った胡桃(くるみ)色の溜まりをくるりと底で回した。
「夏休みの間に誕生日が来るのって、何だか味気ないんだよ。気がついたら終わってるの」
「そぉ?誕生日がお休みって、特別な感じだけど?」
「うぅーん……そう言うんじゃなくてね、周りの人もさ、意識薄くなるじゃん?休みの日に誕生日迎えられちゃうと。『あ、そうだったんだ?』みたいな」
自分の胸の内を何とか伝えようと、私の両手はバタバタともがく。
「……」その甲斐(かい)虚しく、首を傾(かし)げた掛橋は眉をハの字にする。
「レイちゃん、何か別に言いたいことあるよね?」
怪訝(けげん)な顔で尋ねる彼女に、私は大きく2回頷(うなず)いた。
「……誕生日を皆で祝って欲しいの?」
「んんーっ、そうじゃなくてぇっ……でも、惜しい!近いっ!」
「あーもー……面倒な人じゃなぁ!じゃあ、どうしたらええんよ?」
掛橋の訛(なま)りのある声が、お客が疎(まば)らになった店内に響き渡っていた。
──夏休み、誕生日。お出掛け、そわそわ……
私は掛橋とブランドのお店が並ぶファッションビルに来ていた。
夏休みともあって、店内は人で溢(あふ)れている。
ちょっと背伸びしてお目当てにしたブランド商品は、値札を見てはその金額に驚かされた。
でも誕生日だし、今日くらいは贅沢しても良いよね?
声を掛けてくれた黒いハットの店員さんに、私の誕生日を伝えるとお勧めのバッグやアクセサリーを紹介してくれた。
気さくな店員さんのお陰で、店内の雰囲気に慣れてきた私たちは、勧められた商品を試着しては燥(はしゃ)いでいた。
「何で私も試着してるんですか?」
試着室のカーテンから掛橋の顔と爪先が覗(のぞ)く。
「いいからいいから」
「いいからいいから」私と店員さんは声を重ね、陽だまりにいる猫のように目を細めた。
ネイビーに白い水玉模様が入ったワンピース。清楚(せいそ)な雰囲気の掛橋に良く似合う。
散々と迷った挙句(あげく)に私は、衛星を型どった小さなオーブが付くネックレスを買うことにした──
──「ダメ!私、お金払うから……」
選んだネックレスをペアで購入するところを不思議そうに見ていた掛橋が、肩掛けの鞄から財布を取り出していた。
「いいの、いいの。誕生日に付き合ってくれたお礼」
帰りの電車でショッパーバッグに入った片方のネックレスを、私は掛橋に手渡した。
家の最寄り駅に着くまで掛橋は私と問答して、漸(ようや)く持っていた財布をしまってくれた。
2人の時間を勿体ない使い方をしてしまったなと、1人残った電車の席で私は思い返すのであった。
雪のトかし方/つづく