介護と勉強 82歳の両立 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

介護と勉強 82歳の両立

●妻支え腰痛 苦労し卒論
【72歳で夜間中学→定時制高→名産大を卒業】

《元機関士・名古屋の福井さん》

 82歳の大学生、福井孝之さん=名古屋市守山区=が16日、名古屋産業大(尾張旭市)を卒業する。在学中に妻が認知症を発症。介護を続けながらも、勉学はやめなかった。「途中で投げ出すのがいやだった。両立は苦しかったが、卒業できることになって満足している」と話している。
 名古屋市中区の生まれ。父が4歳で亡くなり、尋常高等小学校を卒業して、旧国鉄に入った。機関士や運転士を務めた。1959年の伊勢湾台風では蟹江駅近くで辺りが水に浸り、丸2日間、乗客と列車に閉じこめられた経験もある。昇任試験のたびに数学ができないのがくやしかった。「なんとか中学に行きたい」と考えたが、在職中はその夢は実現しなかった。
 72歳の時、たまたま新聞で夜間中学を知って入学、さらに高校の夜間定時制でも4年間学んだ。そして恩師から「福井さんなら、できる」と大学進学を勧められた。高校時代に覚えたコンピューターについて学ぼうと、自宅にも近い名産大環境情報ビジネス学部に進んだ。入学後は最前列の真ん中に座り、夜中まで勉強した。
 3年前の大学2年の時、妻の様子がおかしくなった。認知症と診断され、病状は徐々に進んだ。同居の長男は会社勤めのため、介護は主に福井さんがした。
 「取れる単位は早めにとっておいてよかった。いまでは夜中に1時間おきに起こされて、勉強するのもかなり難しくなった」という。妻を抱きかかえようとして腰を痛め、大学の階段の昇り降りもつらくなった。
 そんな苦労の中で卒論「蒸気機関車乗務体験記」をまとめた。資源や人手の面で蒸気機関車がいかに効率が悪いかや、大気汚染の一因にもなって滅びた姿を書いた。ゼミ担当の菊山功嗣教授(70)は「実際に機関車を動かしたという体験が生きている」と評している。
 福井さんは大学での4年間を「パソコンの操作など若い人に手伝ってもらってありがたかった」と振り返る。その一方で居眠りしている学生を諭すなど、「若い学生の範にもなった」(菊山教授)。
 夜間中学と定時制高校を卒業したときは、妻は手をたたいて喜んでくれた。「大学卒業のことを話したが、反応はなかった。それがさびしい」と福井さんは悲しそうな表情を浮かべた。(前川和彦)
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