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古民具で認知症ケア

古民具で認知症ケア、博物館が「回想法」



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富山県の氷見市立博物館が、昔の生活用品や農具といった民具を介護施設などに貸し出して、高齢者の認知症の予防やケアに役立ててもらうユニークな取り組みをしている。「地域回想法」と呼ばれ、薬に頼らない治療法の一つとして専門家も注目している。

昨年12月中旬、同市阿尾の高齢者介護施設「つまま園」で、デイサービスを利用する80歳前後の高齢者35人が、レクリエーションに参加した。


扇形に並んでいすに座り、中央では職員たちが30種類ある民具を一つ一つ手に持って話しかける。
 

「これ何でしょうか。どうやって使うがけ?」。


前列の高齢者たちが民具を指さし、一斉に話し始めた。昭和30年代に作られたスリッパのようなわらの履物には、「それ、ゲンベゾウリ」。


すぐに答えが返ってきた。
 

高齢者の中には90歳を超えて中程度の認知症を患い、自分の名をやっと覚えているという人もいる。


そんな人たちが立ち上がって民具に近づき、「スイッチが入ったように」話し始め、職員も知らない道具の名を次々に挙げていく。普段の輪投げや塗り絵のようなレクリエーションでは、高齢者は「教わる立場」が多いが、この日ばかりは「教える立場」に変わる。
 

ほぼ全員が反応を示したのが農作業などで使われる「ソウケ」と呼ばれるざるのような道具だ。


介護士の大文字秀明さん(33)は「田んぼをやっていた方が多いので、それぞれの思い入れがあるのでしょう」と話す。
 

つまま園では昨年夏に初めて博物館の民具を使い、地域回想法を試してみた。


「日頃しゃべらない人が自分から話し始め、利用者同士もコミュニケーションが生まれた」と予想以上の反応があった。「利用者、ベテラン職員、若手職員の3世代の交流にも役立っています」と大文字さん。

博物館が取り組みを始めたのは、2010年春。市福祉課にも在籍したことがある学芸員の小谷超さん(44)たちが民具を持って別の施設に行くと、職員から「利用者の生き生きした表情を初めて見た」と良い反応が返ってきた。
 

その後、地域回想法の先駆けになっている愛知県北名古屋市にも出かけ、手法を学んだ。11年春には、氷見市内の26事業所に案内を送り、(1)施設利用者の博物館の入館料無料化(2)民具の貸し出し(3)地域回想法に関する研修会の開催を知らせた。
 

民具の貸し出しは、資料保存の観点からは良いとは言えない。だが、ずっと誰の目にも触れないままでは、宝の持ち腐れになってしまう。「一歩踏み出しただけで、ここまでできるとは思わなかった。お金もかからず、博物館と福祉の協働という新しい価値を生み出すことができました」と小谷さんは話す。

気になるのは、認知症のケアや予防に本当に効果があるのかどうかだ。日本神経学会が監修した「認知症疾患治療ガイドライン2010」によると、回想法は音楽療法や運動療法と並んで、非薬物療法の一つに挙げられている。ただし評価は「効果は証明されていない」といい、5段階のうち3番目の「科学的根拠がないが、行うよう勧められる」との位置づけだ。

認知症に詳しい新潟県南魚沼市立ゆきぐに大和病院の宮永和夫院長は「言葉や感情が自発的に出てくることは、本人にとっても気持ちの良いこと。心地よい刺激や安心できる環境があることは、脳の活性化に役立つ」と指摘する。

より良い方法として、様々な道具を試して刺激に変化を加えること、高齢者が住んでいた住環境自体を復活させて利用することなども提案する。(雨宮徹)


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