過酷労働「割に合わない」 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

過酷労働「割に合わない」

老いの未来図:介護・医療の現場で 第2部/4 生活保護者、高専賃で管理人 /千葉


 ◇弱者が弱者支え苦悩 過酷労働「割に合わない」

 「介護の資格があるんだって? ちょっとアルバイトをしてみないか」。3年前の春、生計に困った人が無料又は低額な料金で入居できる県内の「無料低額宿泊所」(無低)で暮らしていた男性(51)は宿泊所の職員から声をかけられた。

 仕事内容は県内にある高齢者専用賃貸住宅(高専賃)の管理人と清掃で、勤務時間は、日勤の職員が帰宅した午後5時から翌朝の午前9時まで。職場は駅から10分ほどの小ぎれいな5階建てだった。


 しかし、実際の業務は「管理人と清掃の仕事」で浮かぶイメージとは程遠い過酷さ。夕食の配ぜんに始まり、ボイラー点検、風呂場・食堂の清掃、夜間の巡回だけならまだしも、徘徊(はいかい)者の部屋の施錠確認や失禁者のおむつ交換。時には、医師が処方した薬の管理、体調が悪い人の体温、脈拍などの計測もこなさねばならなかった。

 その理由は単純明快だった。深夜早朝の職員は自分一人だけになるからだ。対応する入居者は40~50人で、体の不自由な人や車いすの利用者もいる。初日からすべての仕事をこなすのは無理だと思っていたところ、前任者は2日と持たず、逃げ出したことを後になって聞かされた。

 「いくらヘルパーの資格はあるとはいえ、こんなことをしていていいのだろうか」「火事などがあれば、自分一人では絶対に避難させることはできない」。深夜の孤独な施設内で考え込むこともあった。3カ月後、「割に合わない」と仕事を辞めた。

 以前病院で夜勤のアルバイトをした時の報酬は1回3万円以上だったが高専賃の1晩の報酬は6000円に抑えられた。無低では、生活保護を受けており、収入が一定額以上増えると、受給額が減ったり、受給資格を失うことを思い出した。

 一方、仕事中、入所しているお年寄りの多くが、自分同様の生活保護受給者だったことを他の職員から聞かされた。「職員も利用者も生活保護。報酬や夜勤職員を減らしてもどっちも文句ひとつ言わないと考えていたのでしょう」と振り返る。

 弱者が弱者を介護する構図が社会全体に広がり、それぞれが足元を見られ続ける状況が深刻化しないか。男性の懸念は解消されていない。

  ◇  ◆  ◆

 県西部の訪問介護事業所に勤める40代女性は、利用者の日程に合わせ、自宅を訪ね、必要な介護をするのが仕事だ。平日の日中勤務が原則だが、「急に家族に予定が入った」「約束していたヘルパーが来られなくなった」など、急な仕事が入るのは日常茶飯事だ。

 にもかかわらず、月の収入は20万円程度にしかならない。上司は「同業他社との競争が激しい。悪いけどがまんしてくれ」と言い、サービス残業も少なくない。

 振り返ると、1年で3人に1人ぐらいが何らかの理由で退職し、職場の顔ぶれが短期間にがらりと変わってしまう状況が続いている。女性は「いまは自分の技術向上と経験になると思って仕事を続けているが、特に若い人は、見切りをつける人が多い。これからの介護を担う人材が、キャリアを積んだと思ったところで簡単に辞める。本当にもったいないことです」と顔を曇らせる。

  ◆  ◆  ◆

 財団法人介護労働安定センターが調べた09年度の介護労働実態調査によると、介護職員の平均年齢は44・6歳。平均賃金は月額21万2432円だった。

 介護サービスを運営する上での問題点(複数回答)は、「今の介護報酬では人材確保・定着のために十分な賃金が支払えない」が52・7%で最も多く、「良質な人材確保が難しい」(43・2%)▽「指定介護サービス提供に関する書類作成が煩雑で、時間に追われてしまう」(33・8%)が続き、46・8%の事業所が職員数に「不足感あり」と回答。人材確保と業務量の多さに苦闘する状況は解消されていない。

 同センターは、「職員の不足感は前年に比べてやや緩和されたが、優れた人材確保が難しい状況が大きく改善したとは言い難い」と話している。=つづく


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