離陸する介護関連企業 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

離陸する介護関連企業

離陸する介護関連企業


2011年相場の主要テーマは「4つのE」(Ecology/Energy=環境/エネルギー、E-Commerce=インターネット・電子商取引、Emerging=新興国、Elder=高齢者)とした。

 このところ環境/エネルギーに偏った観があるが、改めてそれ以外の「E」を考えたい。Elder=高齢者の介護関連企業の収益が好調なのである。とりわけ「通所・施設シフト」「大規模化」「広域展開」に努めた企業の業績が伸びている。

2009年介護報酬プラス改定を機に収益環境が改善

 介護関連企業主要6社(ニチイ学館、メッセージ、ツクイ、パラマウントベッド、セントケア・ホールディング、ジャパンケア・ホールディング)の連結経常利益合計は、2009年度から様変わりによくなった。

 会計年度 連結利益合計(前年度比)
 2007年度 84億円 9.7%減
 2008 72 14.2%同
 2009 189 2.6倍
 2010 257 36.0%増
 2011(予) 287 11.5%同

(出所)決算短信より、いちよし経済研究所作成、予想は会社計画

 介護関連企業主要6社の収益好転の背景には、3年に1度改定される介護報酬の改善がある。2009年4月の介護報酬プラス改定である。介護従事者の人材確保・処遇改善を基本的な視点にして、介護報酬を3%(うち在宅分1.7%、施設分1.3%)引き上げた。同時に、直接介護従事者の給与引き上げに結びつけるべく、介護職員(常勤換算)1人当たり月額平均1.5万円の賃金引上げ相当を助成する「介護職員処遇改善交付金」(2009年10月開始、2012年3月終了予定)制度を実施した。

 通所介護事業と有料老人ホーム(施設型)事業は設備の稼働率を高めることで収益を確保する点で一致する。介護事業は労働集約型産業であるが、介護サービス価格は介護保険制度によって定められている公定価格であり、かつその価格水準は低く抑えられている。したがって収益向上には生産性向上が必須であり、現象面では設備即ち事業所の稼働率上昇⇒客数増加が肝心となる。

投資回収と規模拡大を両立させる企業

 2009年度の介護報酬改定以降、介護関連企業は全体としては回復基調にあるが、個々では二極化が鮮明である。成長分野を明確にして、投資回収による利益増加と積極投資による規模拡大の両立を図る企業群が台頭してきたのである。具体的には、企業の総合的な収益力を示すROA(総資本利益率)の改善と規模拡大を示す増収率の高さを兼ね備える企業群の出現である。積極投資⇒投資回収⇒再投資という拡大再生産サイクルが鮮明になった企業群を2012/3期会社計画でみたのが図表1である。



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増収・増益ゾーンにある企業群は投資回収と規模拡大を両立させていることを示している。また、それらの企業群は増収・減益ゾーンにある企業群に比べて増収率が高い。過去の積極的投資から得た潤沢な営業キャッシュフローによって投資余力が増し、さらなる投資に結びつき一段の成長を図る、という好循環を示している。こうした二極化の陽極に属する企業の共通項は、キーワードでいえば「通所・施設シフト」「大規模化」「広域展開」になる。

 たとえば、介護大手のツクイ。通所介護(デイサービス)が主力で、神奈川県を中心に全国47都道府県に進出する。2011年3月末の介護拠点数は、デイサービスが334施設、有料老人ホームが24施設、そのほかグループホームが21施設、ヘルパーステーションが66か所ある。投資回収期に入って営業損益が大幅に増えている。ツクイは収益構造の中核を訪問介護から通所介護に移すべく、施設を2008年4月から3年で1.6倍(2011/3末334施設)にした。当初は先行投資負担が重かったものの、利用客数の増加ととともに稼働率を向上させた。その結果、既存店ベースの稼働率は2010/3期の48.3%から、2011/3期に57.1%に上昇した。2012/3期も積極的に施設を拡大させており、中期的な成長が期待される。

 パラマウントベッドは医療・介護用ベッドの製造販売大手で国内シェアは約7割に及ぶ。2009年からの「介護基盤の緊急整備」(厚生労働省の施設開設助成)を背景に、高齢者向け新規開設が相次いだことに加え、2010年4月の診療報酬プラス改定が病院の設備投資を活性化したため、業績が好調である。

介護事業における広域化の意義

 介護関連企業が広域化を必要とする理由は、介護・福祉施設の開設に自治体による総量規制が存在するためである。その規制の度合いも自治体によって差異が大きい。広範囲に「出せる所に出す」ことが求められる。もちろんサービスレベルの維持や管理運営の効率化のために、ある程度の集中展開が必要だが、展開エリアの限定は成長・規模拡大のを制約するリスクがある。実際、主な介護関連企業の展開状況は図表2にあるが、新規開設の多い企業は概ね広域展開を志向する企業であることがわかる。


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特に総量規制が直接に影響する有料老人ホーム主体の介護企業は、いずれも大都市を含む広域エリアで施設展開することで大量出店を実現している。例えば、メッセージは2012/3期に30施設の開設を計画しているが、既に20都道府県に展開している。ベネッセやワタミも約20施設の開設を予定しているが、首都圏をメーンに三大都市圏を基盤にしている。総合型のニチイ学館は新規に有料老人ホームやグループホームなど59施設の増加を計画しているが、すでに拠点展開(訪問介護拠点を含む)は47都道府県に及んでいる。

鈴木東陽(すずき・とうよう) 日本証券アナリスト協会検定会員。証券専門紙や経済誌、三洋経済研究所、いちよし経済研究所などを経て、現在、いちよし証券シニアアナリストとして、投資セミナーや経済講演などに従事。
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