仮設で介護、募る不安 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

仮設で介護、募る不安

避難の現場から:東日本大震災 仮設で介護、募る不安--岩手・宮古


◇敷地に砂利、市中心部から車で30分

 仮設住宅に入居した要介護者と家族が、介護の負担増に悩んでいる。設備が十分でないうえ、頼れる人が亡くなったり離れ離れになるなど、生活環境が一変したことが大きい。ケアマネジャーは「利用できるサービスや仕組みもある。行政には制度の周知徹底が求められている」と指摘している。

 「今は生活費やおやじの介護のことは考えたくない」

 岩手県宮古市の仮設住宅に15日入居した男性(54)は、こう言って力なく笑った。

 6年前に母が死去して以来、寝たきり状態の父(87)と2人暮らし。月1万円程度の介護サービスを利用してきたものの、父の世話に追われた。このため夜間に働ける運転代行会社に勤めたが、近所に住んでいる元妻と暮らす2人の娘も手助けしてくれていた。

 しかし津波は自宅も仕事も奪った。会社も被災したためだ。父と2人で親戚の家に身を寄せたが、「いつまでも迷惑をかけられない」と、一人で仮設住宅に移った。7月からは父を引き取るつもりだ。しかし自分の年齢や介護を考えると、「再就職は難しい」。

 仮設住宅での介護は苦労が多そうだ。敷地の砂利で車椅子は押しづらいだろう、と思う。市中心部から車で30分以上かかるため何かと不便だ。娘たちも市内の別の場所に引っ越した。車がないため、これまでのように頼れない。貯金もない。「自力で生活したいが良案がない」。介護サービス利用料の振込用紙を前に、頭を抱えた。

 市内の仮設住宅1032戸には、要介護1~5までの計44人が入居している。

 市社会福祉協議会によると「部屋や浴室が狭くて介護が大変」「介護でストレスがたまる」などの声がある。長引く避難所生活で体調を崩した高齢者も多く、要介護者の増加が懸念されるという。

 一方、国は被災者支援のため介護サービス利用料の免除や介護施設での食費や居住費の補助に関する特例措置を講じた。

 同協議会は「一人で悩みを抱え込まず、介護サービスや支援制度の利用をケアマネジャーに気軽に相談してほしい」と話している。【松田栄二郎】

毎日新聞 2011年6月20日 東京朝刊