高齢者と地域力 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

高齢者と地域力

第1部 高齢者と地域力(4)見過ごされた地域のニーズ


歩き慣れた散歩道、言葉を交わせる顔見知りの人-。住み慣れた「地域」は高齢者にはかけがえのないものだ。介護サービスでも、グループホームなど、ご近所とふれあって生活できる「地域密着型」サービスが認知症の人にはいいとされる。しかし、掛け声はかかるが、「地域の要望」は行政に届きにくい。復興の際もコミュニティーへの配慮は遅れがちだ。高齢者が住まう「地域」を、どう再興するかが問われている。

 ◆署名運動したが…

 仙台市で認知症グループホームを経営する蓬田(よもぎだ)隆子さんは、東日本大震災で同市若林区にあったグループホーム「なつぎ埜(の)」を失った。

 震災前、「なつぎ埜」はご近所の付きあいを大切にしていた。地域で一緒に避難訓練をし、火事があったときにはお手伝いもした。町内会などが立ち上げた災害に関する勉強会にも参加した。

 「大きな地震が30年以内に来る」と言われていた。「なつぎ埜」の近隣町内会などは津波被害に備え、指定避難場所を低地にある小学校から、小高い場所にある高速道「仙台東部道路」に移すよう署名運動を実施。蓬田さんらも署名に協力した。しかし、地元の要求は受け入れられなかった。「OKは出ませんでした」(蓬田さん)


3月11日、「なつぎ埜」のスタッフと入居者は訓練通り、指定避難場所の「市立東六郷小学校」に避難した。近隣住民らの中には、東部道路の法面(のりめん)をよじ登って避難した人もいた。しかし、介護の必要な高齢者には無理だ。

 寒い日だった。津波は避難先の東六郷小学校にも押し寄せ、校庭に止めた自動車内で暖を取るなどしていた「なつぎ埜」のお年寄りら7人が犠牲になった。

 東部道路は堤防のような役目を果たし、町の西側への津波の流入を防いだ。東部道路に避難した住民も助かった。蓬田さんは断腸の思いだ。「署名運動もしたのに…」

 ◆地域密着とは?

 被災して住まいを失った人の中には高齢者もいれば、要介護の人も、家族を失って今まで通りに暮らせない人もいる。また、避難所や仮設住宅で孤立し、介護度が悪化することも予測される。

 厚生労働省は4月半ば、仮設住宅に集団居住ができる「グループホーム型仮設住宅(福祉仮設住宅)」を設置するよう、被災各県に求めた。

 「なつぎ埜」の残された入居者とスタッフらは今、同市宮城野区にあるグループホーム「よもぎ埜」に仮住まい。8月には、グループホーム型仮設住宅に入居できそうだ。蓬田さんは「今回、被災後の住まいや仮設住宅の仕様では、行政に意見を聞いてもらい、本当に感謝している」と言う。


しかし、仮設住宅の入居期間はおおむね2年。“その後”は見えない。関係を育ててきた地域に帰りたいが、流された「なつぎ埜」との二重ローンをどうするのか、元の地域に建物の建設が可能なのか。分からないことばかりだ。

 蓬田さんは言う。「認知症の人には住みなれた『地域』がすごく大切で、『地域密着型』といわれるグループホームは、地域を財産とするサービス。けれど、住む期間に限りがある仮設住宅は『地域密着』の場所にはなりえない。お年寄りが地域の『家』で生活できるよう、早く再建の道筋を示してほしい」(佐藤好美)

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介護や福祉サービスの拠点 グループホーム型仮設住宅

 


 厚労省は、今年度第1次補正予算で被災地の「地域支え合い体制づくり」の基金を積み増し、被災各県に仮設住宅での介護や福祉サービスの拠点づくりを求めている。

 「グループホーム型仮設住宅」はその一つ。キッチンやリビングなどがあり、既存の認知症グループホームと同様、顔見知りの関係が作れる9人で住むのが基本だ。

 このほか、仮設住宅に、高齢者の生活を支える「サポートセンター」の併設も求められている。スタッフが総合相談にあたるほか、訪問介護や看護サービス、高齢者が集うデイサービスなどを提供する。居住者だけでなく、周辺住民へのサービス提供も行われる方向だ。


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