「成年後見」支援に課題 | 辻川泰史オフィシャルブログ「毎日が一期一会」Powered by Ameba

「成年後見」支援に課題

身寄りのない認知症の高齢者が介護サービスや施設入所の契約、預貯金などの財産管理をすることが難しいというケースがある。


不利益な契約を結んだり、悪徳商法の被害に遭ったりすることを避けるためにあるのが成年後見制度だ。


だが、こうした高齢者と後見制度をつなぐ自治体の制度利用は進んでいない。


後見人の支援を得るのが難しい現状が浮かび上がってきた。

 

「身寄りがない80代の女性が家に閉じこもっている。近所でご飯を差し入れしているが、支えきれない」。


彦根市で2008年、女性の近くに住む民生委員から、市にSOSが寄せられた。

 

市職員が女性宅を訪問すると、女性は現金の管理ができていない様子。


何とか通帳を見せてもらって民生委員が現金を引き出し、給食サービスにつないだ。


「本来現金の引き出しに他人が関わることはいけないことだが、サービスを受けるためにやむを得なかった」と職員は振り返った。

 

本人が判断能力を欠く場合、本人に代わって契約などの法律行為を行い保護、支援するのが後見人。


もの忘れが進行していた女性は09年、自治体の首長が後見の申立人となる「首長申し立て」で制度の利用を申請した。

 

女性は収入が少なかったため、自治体による後見人への報酬助成も利用した。


現在は、家庭裁判所が後見人に認定した民生委員と司法書士が、現金管理や介護サービスの契約などで女性の生活を支えている。

 

だが、このケースは、身寄りのない認知症高齢者が自治体を通じて後見人を確保できた県内でも数少ない例だ。


契約を前提とする介護サービスを利用するため、こうした高齢者の後見制度へのニーズは増える一方、首長申し立てや報酬助成の利用は進んでいない。

 

後見制度利用を支援するNPO「あさがお」(大津市)や県弁護士会など県内の4団体が各市町に実施した調査によると、首長申し立ての件数は07~09年度で計70件にとどまり、ゼロ件という市町が五つ。報酬助成も、扱いがあったのは彦根市と高島市の2件のみだった。

 

4団体による聞き取り調査では、行政の同制度への不安感も明らかになった。


担当者からは「財政面から、報酬助成の対象者が増えることが心配」と戸惑いの声もあったという。行政が積極的に制度を推進しかねている要因だ。

 

関係者は財源の不備を指摘する。弁護士など第三者への報酬は、被後見人の資産に応じて家裁が決定し、弁護士などがなかばボランティアとして引き受けることもある。

 

成年後見センター・リーガルサポート(大津市)の山田武史支部長は「介護は社会化され、財源も受け皿も確保されたが、後見制度は財源がなく、人材も足りていないのが現状だ」と指摘する。

 

制度は契約や金銭管理のほか、悪徳商法から判断力の衰えた高齢者を守る側面もある。


あさがおの社会福祉士西川健一さんは「必要とする人が利用できるよう、市町と顔の見える関係をつくり、連携しながら取り組みたい」と話す。

 

課題の解決とともに、後見人の支援・保護が必要なお年寄りと関わりの深い民生委員やケアマネジャーらに制度を知ってもらうことも必要だ。

 

高齢者の成年後見制度についての問い合わせは、各市町の地域包括支援センターへ。

 

(森若奈)


中日新聞より

 

【成年後見制度】 認知症の高齢者や知的障害者など、判断能力が十分でない人に代わり、後見人が財産を管理し、契約などの法律行為を行う制度。2000年に介護保険制度とセットで導入された。家裁が後見人を選ぶ「法定後見制度」と、本人が将来の後見人を決めておく「任意後見制度」がある。身寄りのない人などの後見人不足が問題になっており、市民を第三者後見人として育成する動きも出ている。