「近代の国民国家の誕生までキリスト教諸国では婚姻は教会の領域であった。そして、キリスト教においては『神が二人を分かつまで』夫婦はともに生きるべきものとされており、離婚は原則として認められていなかった。そして、近代になり離婚が国家法の問題とされるに至っても、離婚に対する様々な制約はなお残った。例えば、日本法と縁の深いフランス法を見ると、フランス革命後の一時期に離婚自由が導入されたが、ナポレオンの敗退と王政復古によって離婚が再び禁止された。フランスで制限的にであるにせよ、離婚が再び認められるようになったのは1984年のことであった。」
「1970年代の欧米の離婚法改革の特色は、有責主義から破綻主義への移行という点にある。すなわち、それまでは、相手方配偶者に責任がない場合には離婚請求はできなかったが、婚姻関係の破綻という客観的要件によって離婚が認められるようになったのである。ただし、注意すべき点は、どこの国も等しく、破綻主義の徹底へと動いているわけではないということである。日本では、北欧や英米などプロテスタント諸国の動向がよく知られている。そして、確かにこれらの諸国では破綻主義の徹底という傾向が認められる。しかし、やっと離婚を認めるに至った南欧諸国はもちろん、フランス、ベルギー、ドイツなどカトリック勢力の存在する国では、有責主義への執着はなお根強く残っている。そして、それが必ずしも『遅れている』とはみなされていない。欧米の離婚法の変化を一元的・直線的に理解するというのは、必ずしも正確ではない。」