エッカーマン「ゲーテとの対話」その11 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

「話題は一転して『ヴェルテル(若きウェルテルの悩み)』に移った。」


「あれもやはり私がペリカンのように、私自身の心臓の血であれを育てた。あの中には、私自身の胸のうちからほとばしり出たものがたくさんつまっているし、感情や思想がいっぱい入っている。だからたぶん、それだけでもあんな小さな小説の十冊ほどの長編小説にすることもできるだろうな。それはともかく、すでにたびたびいったように、あの本は出版以来たった一回しか読み返していないよ。そしてもう二度と読んだりしなように用心している。あれは、まったく業火そのものだ!近づくのが気味悪いね。私は、あれを産み出した病的な状態を追体験するのが恐ろしいのさ。」


「よく取り沙汰されたヴェルテル時代というのも、よくよく考えてみると、明らかに世界文化の発展とは無関係で、個々の人間の人生行路と親密な関係があるのだよ。個人は誰でも生まれながらの自由な自然の心をもって、古くさい世界の窮屈な形式に順応することを学ばなければならないのだ。幸福が妨げられ、活動がはばまれ、願望が満たされないのは、ある特定の時代の欠陥ではなく、すべて個々の人間の不幸なのだよ。誰でも生涯に一度は『ヴェルテル』がまるで自分一人のために書かれたように思われる時期を持てないとしたらみじめなことだろう。」


 ペリカンはその雛を自分の心臓の血で養うという迷信があったとのこと。