井筒俊彦「イスラーム生誕」その7 | さかえの読書日記

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琴線に触れたことを残す備忘録です。

 「部族至上主義について、古来、アラビアの過酷な自然環境において人は単独で生存することはできず、常に、共通の祖先にまで遡る人々の集団である部族に属し、部族の利益と繁栄と名誉のために文字通り身を捧げることにより、その代価として譲られた。そして部族こそ彼らにとって人間存在のすべてであり、また最高の価値を体現するものであり、とりわけ、部族の中でよい血筋、高貴な血統に属していることが何よりも尊ばれた。」


「次に自主独立自尊の精神について、イスラーム発生以前のアラビア砂漠に生きる人間が最も大切にしたのは何ものにもとらわれない自由奔放な生き方であり、自主独立自尊の精神であった。自主とは、自分こそ主人で、神であれ人であれ他の何者にも従わず、完全に独立独行し、自尊とは、己を最も尊しとなす極度に高慢な自負心と燃えるような激しい誇りの感情であった。」


「ジャーヒリーア精神を構成するこのような部族至上主義および自主独立自尊の精神に対して、イスラームの預言者ムハンマドは、人間の価値は部族との血のつながりや血筋のよさによって決まるのではなく、どのような血縁に属していようと全く問題ではなく、人間の価値は、一人一人の人間が神の前でとる態度、すなわち個々の人間の信仰にひとえにかかっていることを宣言した。すなわち、人間は主人ではなく、実は神こそ主人で人間はその奴隷であり、人は他の人間には従うべきではないが、絶対的に唯一である神に対してだけは、ちょうど奴隷がその主人に従うように絶対無条件的に神の前に自己を放棄して服従すべきであるという<イスラーム>の信仰をうち出した。そして<イスラーム>という、本来この『自己放棄』、『絶対服従』を意味し表していたまさにこの語が、この宗教の名称となったのである。」


 解説から抜粋