前回の記事に引き続き座頭市テレビシリーズで目が見えない人物が登場する話について書き記します。

新・座頭市(第2シリーズ)の話を紹介します。

(※以下ネタバレ含みます)

 

新・座頭市(第2シリーズ)

 

第2話「目なしだるまに春が来た」(監督:安田公義、脚本:高橋二三)

〈あらすじ〉

寂しい道を一人歩いている市が突然待ちかまえていたやくざたちに斬られてしまう。ところが斬られた男は市ではなく別人の按摩だった。足早に逃げていくやくざたち。そこに本物の市が通りかかる。道に倒れている按摩に気がついた市は介抱すると、息も絶え絶えの按摩が誰かに間違えられて斬られたと話す。市は自分と間違えられて按摩が斬られたと知り罪悪感を覚える。按摩は市にかつて旅一座の前に捨てた娘に会いに行く途中であったことを伝え、娘のためにためた金を渡して欲しいと市に頼み息を引き取る。按摩の弔いを済ませた市は重い足取りで旅一座に向かうと、そこにはだるまに片目をいれて願うほど父との再会を心待ちにしている娘がいた。娘の名はおくみ。おくみは厳しくも優しいお蝶太夫(朝丘雪路)に立派に育てられていた。父が按摩であることを知っているおくみは突然現れた市を父だと期待してしまう。

 

冒頭に登場する按摩は宿場を渡り歩く旅の中1人では子を育てることができず、やむなく子を捨てた悲しい心の内を市に打ち明けます。市と子のエピソードで有名なものは劇場版8作「座頭市血笑旅」とそれをドラマでリメイクした座頭市物語第14話「赤ン坊喧嘩旅」があります。市は自分と間違われてやくざに斬られた母親の赤ん坊を父親に届けることになります。道中赤ん坊に情が湧いた市は赤ん坊と別れることがつらくなりますが、兇状持ちで一つどころに留まれない身の上では赤ん坊を真っ当に育てることができないため泣く泣く手放します。どちらも子を手放したワケは子を思うがゆえのものでした。

勝新太郎演じる市が自分と間違われて殺された男の娘であるおくみに会いに行くべきか、会ってから本当のことを告げるべきかと悩み苦しむ姿に胸が締め付けられます。どうしたらいいのかわからずびくびくしている市の微妙なたたずまいを演じる勝新太郎の演技が見事です。

 

第4話「蛍」監督:太田昭和、脚本:安倍徹郎)

<あらすじ>

宿場で市は一人の飯盛り女と蛍の話をする。成田まで行くという市に女は大堀のおたよという娘にお金を渡して欲しいと頼まれる。おたよは市と同じで目が見えないという。父と母には内緒でと女に念押しされる。翌日船に乗った市は土田という医者(柴俊夫)からいきなり目を手術してやろうかと声をかけられる。面くらった市は断るも土田は気が向いたらいつでも来いと療養所の場所を教える。大堀についた市は目が見えないことで人々から笑いモノにされても健気に生きているおたよ(大竹しのぶ)に出会う。市はおたよに金を渡し、優しく励ましてやる。バカにされるのは平気だが親切には慣れていないと泣き出すおたよ。おたよの目は物心つく前から閉じていた。不憫に思った市は船で出会った土田のところへおたよを連れていく。市たちを快く迎えてくれた土田。おたよの目は開く可能性があるという。厳しい手術を乗り越え、おたよの目はまた見えるようになるのだが…

 

おたよはいつも顔に笑みを浮かべています。生まれた時からひどい目にあうことに慣れてしまったおたよは自分の幸せを諦めています。手術前にもおたよは市に目が開かなくても構わないと笑いながら話します。ひどい目にあってもこれ以上絶望しないためにおたよはいつも笑顔で心に蓋をしています。しかし市の親切にふれたおたよは嬉しさのあまり涙が溢れます。悲しい時には笑い、嬉しい時には涙する儚げな少女を大竹しのぶが見事に演じています。

この話では生まれて初めて世界を目でとらえた少女の心のゆらぎを表現しています。2つほど紹介しますと、まずおたよが術後の経過を見るため包帯を外されるシーン。恐る恐る目を開けるとぼやけた闇の中にかすかに点滅する光が見えます。それは蛍の光でした。初めて世界を見た喜びを目をいっぱいに開けて感じているおたよ。しかしおたよは「こわい」とつぶやきます。この「こわい」というセリフは初めて目で世界に触れる少女の喜びであったり恐怖であったりが入り混じった繊細な感覚、感動を印象的に伝えてくれます。2つ目はおたよがはっきりと世界を目でとらえるシーン。個人的にこの場面は座頭市シリーズの中で最も残酷で胸が締めつけられます。目の手術が成功したおたよは両親に連れ戻され自宅で療養することをになります。彼女の両親はおたよを含め身寄りのない子供を拾い育てていますが、それはお上から得られる給付金と子供たちに芸を仕込んで売り飛ばすことが目的でした。盲目であるおたよを地元の親分が求めたため、義父母(義母役は菅井きん)はまだ治療中のおたよの目を無理やり開けて潰そうとします。おたよは必死で抵抗しますが、2人に押さえつけられ叩かれ包帯を無理やり取られてしまいます。おたよの絞り出るような絶叫に耳を塞ぎたくなります。こうして無理やり目を開けられてしまったおたよ。しかしその眼には空一面に敷き詰められた青々とした木の葉と風に揺らぐ木の葉の隙間から顔を出す真っ白な太陽が飛び込んできて、やがて暗闇が拡がります。義父母に目を潰されるという地獄のような仕打ちを受けながらも、最初で最後に目に焼き付けた儚い夢のような世界に心うばわれるおたよの姿が心をうちます。

 

第15話「女の鈴が哭いた」(監督:井上昭、脚本:山田隆之)

〈あらすじ〉

湖畔を歩く市の耳に胡弓と鈴の音が聞こえてくる。音の方へ近づいていく市。大道芸に人だかりができている。胡弓を弾いている盲目の男と鈴を身に着けて踊る女がいた。2人は客が集まると包丁投げの芸を見せる。鈴の音を頼りに盲目の男は女の体すれすれに見事に包丁を投げる。芸は大盛況。市は宿場に泊まると大道芸人の2人も同じ宿場に。2人は夫婦で男は菊次(高橋長英)、女はおりん(佐藤オリエ)という。その夜市は2人と打ち解け酒を飲み交わす。仲睦まじい夫婦の幸せそうな姿に市は羨ましさと寂しさを感じる。翌朝市はおりんと洗濯をしながら談笑する。1人になった菊の前に薬屋と名乗る男(蟹江敬三)が現れる。薬屋は菊に女房が大道芸で稼いだ1両小判を隠し持っているだの、市とできているだの吹聴する。薬屋をつっぱねる菊だが猜疑心にさいなまれていき…

 

大道芸夫婦の幸せが崩れ落ちていく様が鈴を利用した演出で描かれていきます。盲目でありながら美しい妻を持つ菊と出会い、幸せそうな市は羨望と嫉妬を感じます。空にむかって両手を差し出し、水をすくうような仕草をする市。手をほどくと何かがこぼれ落ちたかのように鈴の音が聞こえます。ここで市の手から鈴の音とともにこぼれ落ちたものは一体何なのか。話が進むにつれ分かってきます。物語全編を通して物語上では聞こえていない鈴の落ちる音が恐ろしいカウントダウンのように不穏な雰囲気を醸し出します。疑心暗鬼に陥った菊はやがて市やおりんの命まで狙うようになります。市を包丁で狙う菊。おりんは市を守るために鈴の音で菊の気を引きます。菊はおりんに包丁を投げると包丁に鈴が絡まり壁に突き刺さります。菊をウソを吹き込んだ薬屋の正体はかつて片腕を斬り落とされたことで市に恨みを持つ十手持ちだとわかります。物語の終盤、市は男に本当のことを吐かせます。真実を知った菊はおりんに涙ながらに詫びます。これでまた全てが元通りになる…そうではありませんでした。壁に刺さった包丁から鈴が滑り落ち、音を立てます。とうとう物語上の現実で鈴の音が聞こえてしまいました。おりんは菊の言葉が聞こえていないかのようにうつろな表情。湖畔にたたずむ市にの耳に鈴の音がこびりついています。もの悲しい音楽の中物語が終わりを迎えます。

市の手からこぼれ落ちたものの正体、それは「幸せ」であること、そして鈴の音は「幸せ」の崩れ落ちる音であることがわかります。悪漢は消え去り真実が明らかになりながらも仲睦まじかった夫婦の幸せがもう元に戻ることはない、そんな悲劇的な結末を最後の鈴の音は語っているようです。

 

第18話「こやし道」(監督:太田昭和、脚本:犬塚捻)

〈あらすじ〉

茶屋で女衒の男をなじる按摩(藤岡琢也)がいる。市が通りかかると按摩は肩をもませる。だしぬけに座頭市か聞いてくると、市に間違われて斬られそうになったとなじりだす。市は間違われたのはそちらの勝手と言って去っていく。按摩の名は徳之助。徳之助は女衒に誘われて寺に泊まることに。寺には住職(殿山泰司)と女房(菅井きん)、そして住職を療治する市がいた。住職は女衒と組んで女を売り飛ばして金を稼いでいた。徳之助が大金を持っていることを知っている女衒は住職に徳之助を始末して金を頂戴することを提案する。目の見えない徳之助は酒に毒を盛られてしまう。しかし女衒が席を外した隙に酒瓶を入れ替える徳之助。そうとは知らず毒入りの酒を飲んだ女衒は痺れて倒れてしまう。ふくみ針で女衒にとどめを刺した徳之助は本性を現し、寺の金を奪うために動き出す。

 

盲目ですが鋭いカンと凄技のふくみ針を使う徳之助はまるで座頭市のようです。女衒を始末した徳之助は住職夫婦に墓穴を掘らせると2人とも針で殺して埋めてしまいます。寺の金の隠し場所は床下でした。床下に潜る徳之助。そこには市が待ちかまえていました。床下という閉塞状況での戦いが珍しく面白いです。仕込杖と針、距離があり、骨組みが入り組んでいる足場の悪い空間では市が不利です。徳之助と話しながら市は仕込みを抜き骨組みを斬り、徳之助までの一本の道をつくります。徳之助は針を吹きますが市に杖の柄で止められると一気に距離をつめられ仕込みで突かれます。市は徳之助が盲人のふりをしていることを見破っていました。市は針で徳之助にとどめを刺します。徳之助は盲人を演じることで常に相手を油断させてその裏をついてきました。しかし本当の盲人である市にはその手は通じず敗れます。

不気味な人殺し按摩徳之助と人身売買のアジトになっている寺の住職夫婦、女衒の男と悪人だらけの登場人物たち。演じる藤岡琢也、殿山泰司、菅井きんといったアクのある役がぴったりの役者陣もこの物語にはまっています。さらに座頭市が本筋にほとんど関わらず、最後にラスボスのように徳之助の前に立ちふさがる展開。暗く狭い床下での決闘。仕込杖対ふくみ針、按摩対ニセ按摩。話の展開、舞台設定、キャラ設定のクセが見どころの1話です。

 

 

次回以降、新・座頭市(第3シーズン)における「見えない」話について書いていきます。

 

新・座頭市(第2シリーズ) DVDBOX

現在配信はされてないみたいです。

12月から座頭市物語(ドラマ)の放送が時代劇専門チャンネルでまた始まりますので、そのうち放送するかもしれないです。