座頭市テレビシリーズをテーマ別に書き記しておきます。

 

勝新太郎演じる座頭市とは居合抜きを得意とするめっぽう強い侠客ながら盲人です。道に空いてる穴に落ちることもあれば橋から落ちそうになることもあります。しかし市はその居合や人並み外れた聴覚、カンの鋭さを武器に対等以上に侍ややくざと渡り合うことができます。盲人であるがゆえに賭場でやくざのカモにされそうになれば相手の油断を利用して金を巻き上げます。相手が刀を抜いてくるようなら仕込杖で黙らせることだってできます。目が見えないハンディキャップを負う弱者の立場にいる者が彼を喰いモノにする奴の裏をかき、そして正面から打ち倒します。そこに見る者はカタルシスを感じます。

 

テレビシリーズの座頭市では市と同じように目が見えない者が数多く登場します。しかし彼らのほとんどは市のように腕っぷしも強くなければ特別カンが冴えてるわけではありません。市という超人を通して目が見えない者たちの虐げられる悲しみや苦しみが、時に喜びも浮かびあがります。

 

テレビ版座頭市で目の見えないものたちが登場する回を紹介します。

座頭市物語では5話「情知らずが情に泣いた」、9話「二人座頭市」、23話「心中あいや節」

新・座頭市part1では4話「月の出の用心棒」、12話「金が身を食う地獄坂」

新・座頭市part2では2話「目なし達磨に春がきた」、4話「蛍」、15話「女の鈴が哭いた」、18話「こやし道」

新・座頭市part3では24話「おてんとさん」、25話「虹の旅」、26話「夢の旅」

(※以下ネタバレ含みます)

 

座頭市物語

 

第5話「情知らずが情に泣いた」(監督:安田公義、脚本:池田一朗)

〈あらすじ〉

旅の道中出会った馬子の少年との縁で宿場に滞在することになった市。その宿場では宍戸一家と下仁田一家が縄張りを争っていた。市は馬子の少年の家にやっかいになるがそこには父親の賭場での借金のカタにされた彼の姉がいた。10両をつくるといって市は出ていく。市は宍戸一家の賭場に遊びに行くがイカサマを見抜いた際いさかいがおきる。そこに宍戸一家の用心棒(黒沢年男)が仲裁に入ってくる。無事に10両を手に賭場を出た市は後を追いかけてきた用心棒に飲みに誘われる。不思議と馬の合う二人。市は用心棒の家に招かれる。そこには用心棒の妹でしの(市毛良枝)という盲目の娘がいた。

 

やくざが幅をきかせる宿場で用心棒と不思議な交流をする市。こう聞くと劇場版第1作の「座頭市物語」の市と平手造酒を思い出します。彼らは交流を深めていきますが後に悲しい結末を迎えることになります。この話でも市と用心棒に同じような悲劇が起こります。用心棒が人を斬るのは妹しののためでした。彼女の目を治すために金を稼いでいたのです。しかし彼は妹に人斬りで金を稼いでいることを秘密にしています。目が見えないしのは兄が手習いで金を稼いでいると思っています。酒の席で市は用心棒の心情を察して話を取り繕います。しのとも交流を深める市。

市は用心棒兄妹と交流を深めていきます。用心棒は妹に自分がすぐに分かるよう刀のつばに鈴をつけています。しのは目が見えなくなって日が浅い。市は彼女に風のにおいついて話します。しのは風のにおいという初めての気づきに感動を覚えます。しのは市に今の自分の気持ちを打ち明けます。目が見えなくてもいいと言うしの。兄がいつまでも一緒にいてくれるからと笑います。市はしのに別れを言いますがもし次に会ったら声をかけて欲しいとしのに言われます。私は市さんの顔を知らないからと。市は彼女に自分が盲目であることを伝えていませんでした。市は悲しい顔で返事をします。

宿場を発とうとする市ですが賭場での恨みを晴らしたい宍戸一家と喧嘩になります。一家のやくざを斬る市。逃げた親分は用心棒に市を斬ることを命じますが彼は断ります。しかし妹を人質に取られ市との勝負は避けられないものとなります。用心棒に呼び出された市。ワケを聞いた市は用心棒なのか自分に向ってなのかつぶやきます。「だから言ったんだい。ひとっところに長いこといるとろくなことがねえ」 用心棒は一言市に詫びると二人は向かい合います。

用心棒の刀の鈴が鳴ります。抜き合う二人。 何太刀か切り結ぶと二人同時にパタリと倒れてしまいます。様子を伺っていた宍戸一家の親分は二人に近づくと用心棒を足蹴にします。市も足蹴にしようとしますが市は倒れたまま親分を斬ります。市は死んだふりをしていました。ゆっくり起き上がる市。しかし用心棒は起き上がる気配がありません。

宿場を去る市。向かいから女性が歩いてきます。それはしのでした。鈴の音がかすかにし、しのは兄を呼びます。鈴を持っていたのは市でした。市は鈴を握りしめ音を殺します。去っていくしの。市は鈴を地蔵にたむけます。

 

目が見えないということはどういうことか。しのを通して描かれたのは誰かに頼り生きていくしかないということです。しのは兄が人を斬って金を稼いでいることを知りませんでした。見えない彼女は兄と市の言葉を信じるしかない。用心棒と市はしのに心配をかけまいとウソをつきます。しのは本当のことを知っていたら兄を止めていたでしょう。彼女は結局一番大切な兄を失うことになってしまいました。やがて聞こえなくなる鈴の音が兄妹の別れを感じさせます。

 

第9話「二人座頭市」(監督:勝新太郎、脚本:高橋二三)

〈あらすじ〉

ある一家の賭場に女の壺ふりがいる。名はおけい(浜木綿子)。賭場に対立している一家のやくざが喧嘩を売りに来る。おけいは威勢よく啖呵を切ると座頭市がついていると言う。ロウソクの火を吹き消すおけい。暗闇から市と思われる男がぬっと浮かび上がる。杖を手に凄むとやくざたちは逃げていく。しかし市と呼ばれる男(植木等)は全くの別人だった。賭場から逃げたやくざたちは道で座頭市の話をしている。そこに本物の市が通りかかる。話を小耳にはさんだ市は不思議がる。按摩笛を吹いて街を流す市はニセ座頭市のいる賭場に療治に呼ばれる。ニセ座頭市の肩をもむ市。市はニセ座頭市の頭にこぶがあることから昔なじみのこぶ市であると気づく。うれしくてこぶ市に自分がぼろ市のあだ名で呼ばれていた市だと名乗る。こぶ市も市との再会を大変喜び、二人は昔を懐かしむ。

 

勝新太郎が監督で、植木等がニセ座頭市を演じています。予告で「植木等扮するニセ座頭市が大いに笑わせる」と言っているようにめっぽうカンの悪い座頭を演じ、コミカルな演技を見せてくれますがそこからは座頭市ではない座頭の哀れみと悲しみが溢れています。

女壺ふりのおけいと組んでニセ座頭市として金を稼ぐこぶ市はおけいに心底惚れています。彼女と夫婦の契りまでしたと市に話します。本物の座頭市である市はこぶ市の身を案じます。こぶ市がおけいに騙されていると気づいた市はおけいと別れたほうが良いと忠告しますがこぶ市は浮かれていて聞く耳を持ちません。いつもニコニコしているこぶ市。こぶ市はおけいのおかげで目の前が明るくなったとはなします。今までこぶ市が歩んできた道は決して幸せなものではなかったことが伺えます。市の話を信じないこぶ市ですが段々不安が広がり、やがておけいの本性を知ることになります。悔しさに涙し、市に八つ当たりしますが、カンの悪いこぶ市のこぶしは虚しく空を切るばかりです。おけいはこぶ市に見切りをつけ、親分に本当のことをバラします。驚く親分ですが、おけいは保身のためある策を親分に授けます。それは対立する一家との争いを避けるために座頭市の首と偽りこぶ市の首を差し出すというものでした。

親分に酒の席に呼び出されるこぶ市。やくざたちはこぶ市の正体を知っているためいたずらをしてきます。酒をかけたり魚を投げつけたり無理やり酒を飲ませたりしてこぶ市を苛め抜きます。おけいは気まずい顔をしています。しかしこぶ市はニコニコして踊りまで踊っておどけます。ここで彼が今まで見せていた笑顔やおどけが違ったものに見えてきます。理不尽に反撃する術を持たないこぶ市は笑顔やおどけでやり過ごすしかなかったのです。しこたま酒を飲まされたこぶ市は親分たちに沼まで連れていかれます。自分が死ぬことを告げられたこぶ市は激しく動揺し泣き叫びます。おけいは遠くで悲しい顔をしています。そこに市が現れると親分たちを斬り、こぶ市を助けます。市はこぶ市におけいが本当にいい女ならお前のところに来るだろうと話します。遠くで聞いていたおけいは二人の前から姿を消します。

 

植木等演じるこぶ市の笑顔やおどけの本当の意味が話が進むにつれ分かってきます。それは座頭市ではない座頭の哀れで悲しい生き様を浮かび上がらせるものでした。

 

第23話「心中あいや節」(監督:勝新太郎、脚本:星川清司)

〈あらすじ〉

市が瞽女(浅丘ルリ子)と一緒に雪道を旅している。瞽女の名はさわ。市たち一向を付け回す男(石橋蓮司)の影が。村に着いた市たち。さわのもとに佐八(松平健)という男が訪ねてくる。さわと佐八は互いに思い合っているようだが佐八の思いをさわは拒む。市はさわに越後の瞽女は三人連れだと聞いていたと話す。しかしさわは一人。どうやらはなれ瞽女らしい。村人に三味線と歌を聞かせるさわ。市を含めた村人はさわの歌に聞き入る。しかし村の男の中にはさわを含みのある目でジロジロと見る者もいた。市たちをつけていた男もその場にいた。さわを見る男たちの視線に耐えられない佐八は薬屋でも何でもしてさわについて行くと言い切る。市はさわの世話をする少女豊からさわがはなれ瞽女になったのは佐八と結ばれたからだと聞く。翌日市はさわたちと別れる。佐八はさわと一緒に旅をする。市と別れ橋を渡るさわたちの前にボロボロな姿の女が現れる。彼女はさわの知り合いでかつて村の男と一緒になったことではなれ瞽女になった菊だった。菊は男に捨てられそれから歌も三味線もできなくなるほどつらい目にあったこと、こどもができたが一人では育てられないからおろしたことをさわに涙ながらに打ち明ける。さわが村に来ていると聞いた菊はもう一度さわのあいや節が聞きたくて待っていた。さわはしみじみとけれど力強くあいや節を唄う。さわのあいや節を聞きながら菊は閉じた瞼の裏に赤ん坊の姿を見る。幻の中の子に乳をあげようとする菊。彼女は笑みを浮かべて息を引き取る。さわと佐八ははなれ瞽女の悲しい末路見る。

 

ドラマ版の座頭市を語る際に外せない話が勝新太郎が監督をつとめる今作です。しんしんと降り積もった雪と必要以上な音楽を使わずに、海がうねる音や風が吹きすさぶ音で、そこに劇中のさわの三味線と唄が加わり、悲しい物語を見事に表しています。市たちをつけ狙う不気味な男の影を感じさせる演出も男の豆をかじる嫌な音が聞こえることでわかるようになっています。市はさわたちと別れますがそれは後をつけてくる男の気配をずっと感じていたからでした。さわたちを巻き込まないために去っていく市。しかし男の狙いは市ではなくさわでした。男に襲われるさわたち。しかし自分を追う男の気配が消えたこと気づいた市が助けにきて、男を退けます。男の雇い主は佐八を取り戻そうとする彼の父親(加藤嘉)でした。市とさわたちの前に佐八の父である庄屋が現れさわと佐八の中を認めるといって別宅にまねきます。しかしそこには佐八の妻と彼の赤ん坊が待っていました。さわの耳に赤ん坊の声が響きます。一度は父親のもとに戻ったかのように見えた佐八。しかし彼の頭の中でさわの「遠く離れているときだけ私いつも佐八さんと一緒にいました」という言葉を思い出します。。さわは市のところへやってきて少し話をします。市はさわが別れを言いに来たと察します。夜深くに家を出ていくさわ。そこには佐八が待っていました。さわと佐八は二人で歩きだします。雪の中二人は裸足で歩きます。しかし二人の後を殺し屋の男がつけてきます。そこに市が立ちふさがり、それ以上さわのいるところに行ってはいけないと忠告します。三味線をバックに雪の中で斬り合う二人。殺し屋は縄を鞭のように使い市を追い詰めます。しかし市は地蔵堂にできた氷柱を投げつけ男を倒します。翌朝浜辺にさわと佐八の亡骸が並んで横たわっていました。佐八の妻は赤ん坊を抱いたまま呆然とし、彼の父は地に手をついて涙します。黙ってうつむく市。あいや節が聞こえる中豊が二人の亡骸に向かって歩いていくところで物語は終わります。

 

盲目の芸者の瞽女というマイノリティー集団からさらにつまはじきにされたはなれ瞽女という存在。はなれ瞽女の悲しい生き様が男に捨てられたことで子を堕ろすしかなかった菊、そして幸せになるための唯一の方法として男との心中を選んださわの二人から描かれます。幻想的な淡く明るい雪の中を歩くさわと佐八。二人は薄着で裸足です。二人が幸せになるにはこの死出の道を行くしかないことが画だけで伝わってきます。あとこの話は座頭市は主役ではありません。市がいなくても話が成り立ちます。

 

新・座頭市における見えないことの話は次回以降します。

 

 

座頭市物語(ドラマ版)DVDボックス

結構お高めですね。

今ならamazon prime videoの時代劇専門チャンネルNETで新・座頭市パート1が配信されています。

それとニコニコ動画の時代劇専門チャンネルpresents座頭市TVで座頭市物語がポイントで見れます。

今はやってませんが時代劇専門チャンネルで頻繁にやってるのでそれで見るのが一番いいかも。

 

 

 

春日太一先生の名著

23話「心中あいや節」について詳しい裏話が載っています。