大切な気づきをくれた「金のおの」 | えほんや通信

えほんや通信

名作童話の電子出版「えほんや」の編集長・原 真喜夫のブログ。こどもの本と教材、雑誌、実用書の編集を手がける編集プロダクション・スキップの代表取締役。アロマテラピーにも目覚める。村上春樹、マーヴィンゲイ、寿司と焼き鳥、日本酒とワイン。


おまえが落としたのは、この金のおのか?
有名なフレーズですよね。

イソップの名作、「金のおの」

この作品を電子えほんにしたのは、ちょうど1年前
「えほんや」スタートのときでした。

絵を描いて頂いたのは、名手山口マサルさん。

絵本に限らず、コマーシャル、グッズ、プロダクト、
イラストから、果ては石像まで、数々のお仕事で
ファンもたくさんいらっしゃいます。
(かくいうボクも大ファンです。)

そして、この作品はいくつかの大きな
「気づき」を与えてくれました。

白抜き文字の美しさ
青い湖のバックに置かれた白い文字、美しいですよね。
このえほんのデータを作りながら、社員の中から
誰とはなしに「白がきれい」「文字が見やすい」
という声が聞かれるようになってきました。

たしかに、読みやすい。

鮮やかな青に、パーンと抜けた白。

紙の印刷物に慣れた目には、とても新鮮でした。

それが、RGBの特性の発見につながりました。

いや、発見と言っても、映像をやっている方なら
常識なんでしょうけれど…。

RGBの光で作られる色の世界では
すべての色が重なってできる「白」が一番濃い色、
ということに気づいたんです。

これが第一の発見。


「おまえは、正直じゃのう。
 ほうびにこの金のおのもやろう。」

え、銀のおのは出てこないの?

そうです。出てきません。

これは、山口さんのアイデアによるもの。

イソップの原作では、神様は
金のおのと銀のおのの2つを木こりに見せます。

「はてさて、銀のおのを削っていいものか」

編集者としての悩みどころでした。

いくつかの文献を当たって出た結論は、

「画家さんに描きたい場面を全力で描いてもらう」
ということでした。

イソップの「原作」という意味については、
またの機会にゆずるとして、話が大きくずれない限り
画家さんのアイデアを優先する、という原則を
この作品で作りました。

これが、第二の気づきでした。

結果的に、それが素晴らしい作品群を支える
「絵の力」を強固なものにしてくれたと信じています。


Mercuryって何だ?

ローマ神話に登場する商売の神様で
ギリシャ神話では「ヘルメス」と呼ばれてることは
ちょっと調べればわかります。

持っている杖まで指定があって、
あ、なんと一橋の校章にもなっている!

なぜここで、商売の神様なのか。

イソップの深みにはまり始めたきっかけでした。

原作を突き詰めて読まなければ、
古典を編集することはできない
という、あまりに当たり前すぎることを
改めて気づかさせてくれた作品です。

これが、三番目。

おまけにもう1枚



この構図と色、とんでもないです。

湖の澄んだ青色のバックが
うそをついた木こりの言葉に怒った神の
心を表す赤紫に染まる。

ふつうなら思いつかない色づかいと構図です。

出来上がったものを見るから
「あ、なるほどね」と思ったり、
下手すると気づかずに通り過ぎるかもしれないけれど、
いや、よく選んでいただきました!
と脱帽たくなる色づかいです。

そして、今にも破裂しそうな
神さまの横顔。

それを首すら描かずに、斜めに配置することで
覆い被さるような勢いを感じさせるこの構図。

場面数を多く設定できる電子えほんだからこそ
この心の変化を見事に色と構図で表した
こうした素晴らしいページが生まれたのだと思います。

白、ストーリーと絵のバランス、
原作とその周辺を深堀することの重要性などなど。


「えほんや」のスタート時点でとても大切なことを
気づかせてくれた作品です。

まだ、お読みでなかったらぜひ!