MIDORI 砂漠ラクダノート「腐乱死体を描写する」

いちじく=無花果、じつは大好物です。エロチックだし‥
ヘタをちぎって、指で割れ目を入れ、2つに割ると、淡い乳白色の上に、赤や紫が滲んで、中心が熟れて食べごろになっている。
切断面からは、白い液体が少し溢れてくる。
「いちじくは、人肉の味に似ているらしい」という人もいるが、味はともかく、人の器官のような姿をしている。
皮は剥かずに、皮ごとがぶりとかじる。皮には、わずかに苦みがあって、この果実の淡白さに、控えめなアクセントを加えているから。
食べるのは、赤ワインを飲みながらでもいいし、朝、目覚めたときに、いきなり食べてもよい。
2月11日ブログで、「MIDORI 砂漠ラクダノートの使い方」ということで、
版画家・柄澤齊の挿絵切り抜き(日経の夕刊で連載している小池真理子の小説『無花果の森』に、超絶技法の版画家かつ小説家、柄澤齊が挿絵をしているので、毎回、切り抜きしている)を貼りはじめているのだが、その続報。
4日かけて、無花果が崩れ落ちるまでが描写されている。

その柄澤齊の小説『ロンド』に、「九相詩絵巻」(鎌倉時代13世紀ころ)という絵が登場する。
死体の変化を視て人間の不浄を知り、それによって世俗の情欲を断つための観想を九想詩と言うらしいが、ここにあるパネルのように人が死んで骨となり、土に還るまでの過程を詩で描写したものだ。さっきそれぞれのパネルの前で新死相とか防帳相とか言ったが、あれは九つの詩の、それぞれにつけられた題なんだ
不吉な絵画たちに関連して、いくつもの殺人事件が起こるという恐ろしくかつ知的な小説。
そして死体を描写する筆致は、作者の版画同様、超絶技巧がほどこされている。
たとえば、死んだばかりの「新死相」の書きっぷり。
芽吹いて間もない野原の茂みの中に、白く艶やかな肌の全裸の女が寝ていた。
死後硬直が解けたばかリだろうか。表情は穏やかだが、まだ張りのある皮膚の奥に、死に際に刻まれたものらしい根深い苦悶の痕跡が消えきらずに残っている。
失った生をつかもうとして反り返った指は未練を、流れる水のように若草のあいだを縫って広がる黒髪は、諦めを表しているように思える。柔らかい筆で胡粉を刷いた肌には弾力すら感じられ、凝りつつある血液をたたえた静脈の柔らかな部分に透けて、ぞっとするような肢体の耽美性を強調しているが、それにもまして艶かしいのは、薄く開かれた目蓋の奥で、もはや何ものも映すことのない光を灯した二つの瞳だった。
新聞連載の小説の中の展開とは関係なく、無花果の崩れを描いた一連の挿絵を視て、『ロンド』の「九相詩絵巻」を思い出したのだった。
ロンド/柄澤 斉

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