カブトムシもそろそろ終わりかもしれないけど、夏休みに読みたい絵本のひとつ。たのしいだけではない、甘くて苦い夏の思い出――

『カブトムシのなつ』
いしいつとむ:作 文研出版(2015年)

夏。近くに見える雑木林でカブトムシを捕まえたいと願う兄弟。でもいざ雑木林に入ると毛虫やらなにやらいっぱいいで逃げ出してしまう。諦めきれない兄弟はしかし妙案を思い付いた。夜、街灯に照らされた歩道橋に集まってきていたカブトムシを狙い、ふたりは見事に大物を捕まえる。

こうしてキング、ジャンボと名前もつけて自分のカブトムシを手に入れた兄弟は、互いのカブトムシで力自慢対決をさせたりしながらたのしいひとときを過ごす。でも、カブトムシは逃げ出したがっていた。手から飛び出して窓ガラスに激突し、外に出たがるカブトムシにお兄ちゃんは森に帰してやろうかと考える。でも弟は自分のジャンボは絶対に帰したりするものかと嫌がる。しかしある日、ジャンボは死んでいた──

幼い日の記憶を呼び覚ますような、夏の日のたのしくも痛々しい、甘さと苦さ、喜びと哀しみと──自分も何匹カブトムシを死なせては庭に埋めたことか。大人も思わずホロリとさせられる、まるで青春小説のようなナイーブな感覚をもった夏の絵本。


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