去年も紹介した絵本ですが大事なことなので今年も。今日は7月16日。78年前のこの日、人類は――
(紹介文は過去の投稿そのままです)

『この計画はひみつです』 
ジョナ・ウィンター:文 ジャネット・ウィンター:絵 さくまゆみこ:訳 すずき出版(2017年)

このタイトルからどんなおはなしだと思われますか?きっとなにかワクワクするような話にちがいない、と思ってしまいそうです。ところがどうでしょう。

そこはアメリカの何もない砂漠地帯。小さな学校だけが建つその土地はあるとき合衆国政府から取り上げられ、その名もない土地に秘密の施設が作られました。世界中から科学者や技術者が集められ、スタッフたちにはそこで働いていることなど一切漏らしてはならないと箝口令が敷かれ、科学者たちはそこで何かを作る研究をはじめます。何を作ろうとしているのかも徹底した機密扱いで、彼らはただ“ガジェット(小さな装置)”とだけ呼んでいました。そこから少し離れた町でくらす人たちも、彼らが何をしているのかなど一切知りません。

科学者たちは日夜研究を重ねました。彼らはとても急いでいました。ほかの国に先を越されてはならないからです。ウランやプルトニウムを材料になにか大きな力を生み出す研究を急ピッチで続け、それから2年後、ついに“ガジェット”は完成します。

夜中にこっそり砂漠の真ん中へと運ばれ、科学者たちは遠く離れた安全な場所に避難して、いよいよ実験がおこなわれます。カウントダウンがはじまりました。
5…4…3…2…1…… 巨大な火の玉が・・・そして・・・きのこ雲・・・闇—―

世界で初めて原子爆弾が開発された過程を描いた本。1945年7月16日、ニューメキシコ州の砂漠に突如現れた巨大な火の玉ときのこ雲。それは人類がついに「核兵器」という悪魔の最終兵器を手に入れてしまった瞬間でした。原爆を描いた絵本はこれまで日本で書かれたものしか出たことがなかったはずです。その点これはアメリカの絵本作家が原爆を描いた、非常に貴重で意味のある絵本です。

きのこ雲のあとに最後に登場するのは見開き2ページまるまる真っ黒で表した闇。本文はそこでプツンと終わります。それはなんの闇でしょうか。この瞬間から76年…いまだ核兵器は世界中に何千発も存在し、今なお製造・開発を続けている国もあります。原爆点火のカウントダウンは、まさに人類が踏み込んではならない域へ足を踏み入れてしまう合図でした。そしてその後の人類は今なお漆黒の暗闇をさまよっています。

われわれはどこへ向かうのでしょうか?核兵器のない、平和で安らかな世界・・・いつか取り戻すことができるでしょうか?非常に重い、しかしぜひ読んでほしい絵本です。とくに学校現場などでは是非とも読んでいただきたい。原爆、核、そして平和について考える機会になっていただければと思います。


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