僕にしては珍しく?今日は幼児絵本です(何をもって幼児絵本と言うのかわからないけど)。年齢を重ねた大人にこそ響きそうな、成長と「老い」を描いた傑作。

『いしゃがよい』 
さくらせかい:作  福音館書店(2015年)

まずパッと見であれっ?と気づくことがある。これ、そもそも紙に描いてないよね。どうやら梱包材としてよく使われるプラスチック系の段ボールらしい。あれを画材として絵を描いているのね。でもプラスチックに?普通のインクじゃ弾かれちゃうはず。どんな絵の具使って描いたんだろう?

でもこの、半透明の画材に描いているからこそ生まれる悠久とした風雅な感じがいい。そしてもうひとつの大きな特徴。主人公の男のエンさんの中国風の服、パンダのファンファン、簑に合羽、そして桂林のような風景…とことん中国風の絵なのよね。そこも気になる。この作家さんのスタイルなのかな。

繰り返し形式の一見おだやかな幼児絵本だけど、よくよく読んでみるとなんだか泣けてくるような。おなかが痛いとファンファンが泣くたびに自転車で山を越えてお医者さんに通う日々・・・それがいつしか、あの小さくて弱々しくていつも泣いていたパンダがすっかり大きくたくましくなって、そしてエンさんのほうは逆にすっかり年老いて、今度はファンファンがエンさんを自転車に乗せて医者がよい──

このパンダをふつうに人間の子供として見れば、その子供がやがて大きくなって、いつしか自分の年老いた両親の面倒を見るようになる、というふうに捉えればなおわかりやすい。これは、成長と老いのものがたり。みんなこうして親や大人に迷惑をかけながら成長し、大人になり、そして今度は幼いころさんざん世話になった親への恩返しのように、年老いた親の介護なり面倒を見るようになる。それを幼児向けに心地よく、ほっこりとした物語に仕立てている。

老い、を描いた幼児絵本としては傑作かも。しみじみと心に沁みてくる。幼児向けらしいシンプルなおはなしに書かれているからこそ、逆にちょっと年齢重ねた人には響く。最後の場面がいい。また絵のイメージということもあり、どこか映画『山の郵便配達』を思い出させる。


and Me(アンドミー)