これから卒業シーズン、そしてまた入学式の季節がやってきます。大好きな作家のひとり、北見葉胡さんの絵本を。
予想外の結末…あらためて平和の意味を考えてほしい一冊です。

『小学生になる日』
 北見葉胡:作  新日本出版社(2010年)

6才のあおいはこの四月から小学生になる。
春休みのきょうはおばあちゃんの家に遊びに出掛けたところ。バスで向かうが早すぎたのかバス停におばあちゃんはまだ来ていない。
するとそこへ見知らぬ少女が声をかけてくる。「あなた あおいちゃんでしょ。いっしょにきて」となぜか名前を知っているその少女に引かれ、あおいはおばあちゃんの町の学校へ。その少女も同じように四月から小学生なんだと話す。

少女は学校に勝手にずんずん入っていく。一緒に校庭で鉄棒をやったり朝礼台に上ったり。玄関の下駄箱、理科室の実験器具、保健室にも入ってみて、広い体育館にも。そうして肝心の教室へ。ふたりで学校ごっこをたのしむ。
そうしてまたバス停に帰る道すがら、少女はあおいに言うのだった。
「あおいちゃんと がっこうが みられて よかった」

そしてバス停で「じゃあまたね」とお別れすると、不思議と少女の姿は霞んだように見えなくなっていく。そこへおばあちゃんがやってくる。
おばあちゃんの口から語られたのは思いもよらない真実だった──

どう見ても昭和のおかっぱ頭の女の子、という感じの少女に、最初からこれはおばあちゃんの幻影だろうか、などと考えていた。しかし、おばあちゃんの口から語られたのは予想外のものだった。おばあちゃんには昔、妹がいたのだと。でも戦争で空襲にあって6才で死んでしまった・・・

少女の正体は小学校に上がる前に戦争で死んでしまったおばあちゃんの妹だった。「小学生になる日」だなんてタイトルだがなんと意味深なことか。その少女は小学生に、なれなかったのだ。理不尽な形で命を奪われて──

全体的に昭和の雰囲気。あおいにとっては異空間だがおばあちゃんの記憶のなかでは懐かしくも痛ましい記憶と共に封印されてきた思い出の世界でもある。時空をこえて友達になるふたり。おばあちゃんの妹は、少しは、成仏できただろうか・・・

これから小学生になる子供たちに。学校に行けるということ。その幸せをあらためて思わされる一冊。そして残念ながら、広く世界を見渡せば同じような境遇から行きたくても学校に行けない子供たちがなお大勢いることを考えさせられる。