表紙の絵に注目してほしい。実はこれ、描かれている物語が終わったあとの、最後はこうなりました…という光景。

ほとんど文字のない絵本だがこれは響いた。こういうの大好き💕いま実際の光景であったらYouTubeとかでアップされて話題になる、ちょっといい話。第12回絵本にっぽん賞受賞作。



『がたたんたん』 

やすいすえこ:作  福田岩緒:絵  ひさかたチャイルド(1988年)



ごく普通の電車の車内、ロングシートに乗り合わせた乗客たちの、ひとときの小さな物語を、がたんがたん、といった擬音語だけで伝える。



絵の描き方もよく考えられている。最初は全員モノクロなのだ。そこでまず小さな女の子が膝に抱えた鞄(ペット用のバッグか)から猫が逃げ出し、慌てたところを隣のお婆さんの隣あたりに座っていた眼鏡の男の子がサッと抱えあげ、女の子は男の子とちょっと仲良しに。そこでまずその二人がカラーになる。



今度は電車がキキーッと急停車でガタッとなってみんなひっくり返りそうに。そのときまた誰かの手から編み物の毛糸玉がいくつかこぼれ落ち、それを座っていたみんなが慌てて座席から下りて回収。みんなはお互い顔を見合せ、なんとなくいい雰囲気に。



でも長座席の隣、ドアの前に立っている青年だけは帽子を目深にかぶり無口で暗い雰囲気。



そこへ今度は窓から一羽の小鳥が飛び込んできて、ドアにぶつかり床に墜ちてしまう。どうしよう・・・という空気が流れる中、動いたのはその無口な青年だった。床にかがみこむと小鳥を救いだし、窓からそっと外に放ってやる。



こうして最後は全員が着色され、いい雰囲気に。


見知らぬ者同士がこうしてなんとなくつながり、ほんのひとときながら連携し、そしてまた別れていく。ああいいなぁと思えるおはなし。



表紙の絵は一連の物語のあと、みんなが打ち解けあったあとのほっこりした光景なのだ。



また情報量が多い深読み型の絵本でもある。一人一人の乗客をじっくり観察して読んでほしい。平成初めに出た昭和テイストの懐かしい絵本でもある。