すでに取り上げてきたように、EUそのものが長年の敵対相手であるフランスとドイツの和解の上に立って成立した共同体である。EU議会は、フランスとドイツが血を流しながら取りつ取られつしたアルザスのストラスブールに設置された。「戦争は遠くなりにけり」である。そのストラスブールに新会社「ヨーロッパ株式会社」の本社が置かれる。平和の申し子ユーロの成果はここまできた。


EUの産業構造の今後を代表するものは先端技術部門である。その中でも、情報部門と宇宙開発部門がユーロ時代のりーデイングーセクターになろう。情報産業については、すでに長年にわたってEUは共通政策の中に組み込み、その育成に力を注いできた。その結果、EUには情報共同体ともいうべき社会的システムーネットワークが構築されてきた。EC委員会の共同情報政策報告書グリーン・ペーパー(一九八九年)によって、その概略を知ろう。

まず、グリーン・ペーパーは、一九八七年からスタートした統一技術開発研究計画の中での情報産業育成の位置づけをしている。これによってEUの情報共同体への前進は決定的になったのである。一九八七年九月にECは、八じ年九月から九一年までにわたる統一技術開発研究計画を発表、実施した。この計画による技術開発投資は、約六〇億ECUである。この額は、ヨーロッパ全体の関連開発研究投資額とほぽ同額である。総費用の四〇~五〇パーセントがECからの補助である。

研究投資額の四〇パーセントが電気通信と情報処理の分野に割り当てられた。このうち、テレコミュニケーションに関する共同計画(レース計画)に対しては、五億五〇〇〇万ECUが当てられた。このレース計画の目的は、統合広域ISDNの設営である。情報処理技術に関しては、「エスプリ計画2」が作成され、総額ニ八億ECUの研究開発資金が投入された。