美術館の入り口は広くて、何だか吸い込まれるような気がした。
担任先生の号令と共に、生徒たちは次々美術館の中に飲まれていく。
「ゆかり、早くいこ!」
ハッとした。
親友の夏帆が急かしている。
私はお気に入りのシュシュで髪を結ぶと、夏帆のもとにかけていった。
「ごめんごめん、シュシュとれちゃって」
「とかいって、雪斗くんにシュシュ褒められたから緊張で動けなかった?」
「もう!いつもと違うって言われただけじゃん!」
顔がほてるのが分かる。
“雪斗くん”とは、同じクラスの男子、真水雪斗のことだ。
そして、私が最近気になり始めた人。
付き合ったことが無いから、
どうすれば良いのかわからないけど。
今は、真水くんのことを見ているだけで、十分。
「もう、いこ!」
からかう夏帆の話を遮って、美術館の大きな入り口に私達も飲まれた。