※ボーイズラブ小説の感想記事です。苦手な方はご注意ください。
2004年くらいから個人小説サイトで連載されていた「空に響くは竜の歌声」という異世界トリップBLファンタジー小説があります。
連載当時から私は読ませていただいておりましたが、なんと10年以上経ってから書籍化されました。
ビーボーイの特設サイトもあります。こちら
作者:飯田実樹
イラスト:ひたき
kindleあり。
要素としては
・異世界トリップ ・王国もの ・人外×人間 ・王×王妃♂
・世代続き物 ・建国物語 ・生命維持のための必然的H
・黒髪受け ・出産あり
こういうのが好きな人におすすめです。
抗いがたい香りで強く惹きあう設定などはオメガバースの走りのような感じですが、もちろんこの話の方がずっと先に書かれています。
お勧めのBL小説として私が推したい数少ない作品の一つです。
竜歌シリーズは、約100年ごとに異界の竜王への生贄が生まれる家系「守屋家」と、竜王の治める「エルマーン王国」の物語です。
単にボーイズラブというよりは、何世代も続く国史みたいな感じです。
守屋家の家系で、竜の証の痣を持って生まれた男子は、必ず「龍聖」と名付ける。
そして18歳になったら代々家に伝わっている竜王の指輪をはめ、竜王の授けた鏡をのぞき込む、という儀式を行わなければならない。
そしてその儀式を行うと龍聖はエルマーン王国へ転送される、という仕組みです。
生贄と書きましたが、守屋家側がそう思っているだけで、実際の役目は竜王の王妃。
ただ一度トリップしたら一切連絡を取ることが出来ないので、毎回毎回龍聖達は生贄になるつもりで指輪をはめ、何が起こるかわからないまま鏡をのぞき込み、見送りの家族たちの目の前で光って消えるので、やっぱりずーっと生贄だと守屋家側は思っているのです。
個人的メモ書きですが、初代龍聖の生きていた時代は1573年、室町幕府の時代です。
個人的メモ書きですが、初代龍聖の生きていた時代は1573年、室町幕府の時代です。
彼の話もちゃんと本になっています。実はこの初代の話が一番面白かった。
もはやBLの枠を超えて、竜が人間の姿になってエルマーン王国をいかにして作ったかの建国物語になっています。
トリップした龍聖がその後何百年か生き(寿命がエルマーン王国に合わせて更新されます)、亡くなり、竜王も崩御すると、しばらくして竜王の息子のための「龍聖」がやってくるというわけです。この間日本ではものすごくざっくり考えると約百年くらい経っていると思われます。
竜王が亡くなってからエルマーン時間で一年くらい経って新しい龍聖が来るのですが、エルマーン王国での一年が日本での十八年に相当すると想定できます。
ただ、どのタイミングで龍聖が生まれているかはっきりしないので、いつかちゃんと検証したいところです。
ちなみに守屋家側のメリットとしては、本来得られないほどの一族の繁栄が、竜王の力によって与えられること。
小さな貧しい村の村長でしかなかった守屋家は、三代目龍聖になる頃には金沢の立派な商家に発展しています。
というわけで親たちは泣く泣く息子を差し出す。
九代目は戦後初の龍聖だったのですが、九代目龍聖は28歳までそのことを知らなかった、なんて話もあります(これがサイトで連載されていた記念すべき一巻)。
すると守屋家には倒産や早死に、財産の消失など次々と悪いことが重なり、龍聖がエルマーン王国に渡るまでそれは続きました。
守屋家の不幸の一環として、伝承を受け継いでいた男子が次々早くに亡くなったせいで、もはやそれを知っていたのが嫁いできた龍聖の母だけだったことが原因でした。
21世紀にもなって、母親は儀式の事を本気で信じていたわけではなかったと思いますが、それでも守屋家の家系図全てで「龍聖」と名付けられた男子が享年18歳になっていることに戦慄したのではないでしょうか。
彼女が蔵に指輪と鏡を封印していたのです。
でも、偶然が重なり龍聖は何かに導かれるように指輪を発見し、鏡を見てエルマーン王国にやってきた。
実は竜王の方にも命がかかった事情がありまして、竜王は「龍聖」が発する「魂精」を摂取しないと生きていけません。
だから、九代目の竜王は龍聖を待ちわびたままかなり衰弱しておりました。
まあBLのお約束通り魂精はエッチな方法で摂取するのですがごにょごにょ、子供の頃は先代の竜王の龍聖、つまり自分の実母から抱きしめられたり手を握って貰ったりのスキンシップで魂精を摂取します。
いやー母龍聖からも同じ方法だったらどうしようと思ってました!!ハハハ。
ちなみに竜王同士(つまり父子)でも、スキンシップで魂精を与えることができます。
でもこれをやらねばならない時は、エルマーン王国に龍聖が長期不在であるという緊急事態なのです。
サラッと「実母」と書きましたが、そう、龍聖は竜王の卵を出産します。
男の体のまま、「産む」んです。どーやって子作りするかは、我々とおんなじです。
BL界広しと言えど、BL要素を保ったまま卵を出産する話はいまだにかなり珍しいんではないでしょうか。
女体化しちゃうとそれはもうBLの萌え要素がなくなってしまうんでありまして。
2020年7月現在10巻まで出ていますが、竜王たちは命辛々12世代目まで命をつないでいます。
こんな不安定なシステムで大丈夫かと誰もが思うのですが、実は竜王たちが一番そう思っております。
この作品、とにかく台詞がシェイクスピアばりに長いのですが、それもこの作品の持ち味ということで。
登場人物がとにかく喋る喋る。心の声、目で語る、胸に秘める、みたいなのがほとんどないのが特徴です。
書籍化に当たり、作者の飯田実樹先生が昔出されていた同人誌の内容を大幅に改稿したものや、書き下ろしなども見ることが出来てとても嬉しい思いでいっぱいです。
連載されていた本編も、書籍という形態や時代に合わせて少しずつ変えられていました(大きな変更点だと思ったのは、龍聖が持っていた折りたたみ式の「携帯」が「スマホ」になっていたこと!)。
一応「どの巻から読み始めても大丈夫」とされてはいるものの、1、2巻(上下巻扱いです)だけは一番先に読んだ方がいいと思います。
相変わらず私は異世界トリップが好きだな。昔から。
タイムパラドックスや時間軸の検証も好きです。
約15年分の感想がたまりにたまっているので、しばらくは竜歌で記事を書いてみたいと思います。
