判例タイムイズ1520号で紹介された裁判例です(東京地裁令和6年1月29日判決)。

 

 

本件は、建物オーナーである原告が、宅建業者である被告に、定期賃貸借により賃貸借契約を締結するように依頼したところ、被告が、賃借人との間で、契約自体は定期賃貸借として契約したものの、借地借家法38条3項に定められた事前説明の手続きを怠ったため賃借人との間でトラブルとなり、賃貸人が建物明渡請求を提起したものの、法に定められた必要な手続きを怠っていたことから第一審では敗訴し、控訴審で解決金として850万円を支払うという和解をしたという経緯において、宅建業者である被告がきちんと手続きを履践するか原告にその必要があることを説明してくれていればこのようなことにはならなかったとして 損害賠償を請求したというものです。

 

 

借地借家法

(定期建物賃貸借)
第38条 
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。
2 前項の規定による建物の賃貸借の契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは、その契約は、書面によってされたものとみなして、同項の規定を適用する。
3 第一項の規定による建物の賃貸借をしようとするときは、建物の賃貸人は、あらかじめ、建物の賃借人に対し、同項の規定による建物の賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨を記載した書面を交付して説明しなければならない。

 

 

【判旨】

・およそ免許登録を受けて不動産の媒介業務に携わる者は、委託者から、不動産の売買賃貸等の取引に関する専門的知見を有する者として信頼を受け、その介入によって取引に過誤のないことを期待されているものであるから、このような社会的要請にも鑑み、委託者に対し、準委任関係に基づく善良な管理者としての注意義務を負担することはもちろん、その媒介をするに際しては、委託者が定期建物賃貸借を意図しているのであれば、その実現に必要な手続が履践されているかにつき格段の注意を払い、もって、取引上の過誤による不測の損害を生ぜしめないよう配慮すべき業務上の一般的注意義務があるというべきである。
・被告は、本件賃貸借契約締結に際し、原告から委任状を得た上でI社に事前説明をすることも、原告に対して事前説明の手続が必要となることを伝えることもなかったのであるから、被告は、原告と被告との間の媒介契約の善管注意義務及び前記業務上の一般的注意義務に違反したというべきであり、被告には債務不履行が認められる。

・原告が賃借人に対して支払った解決金850万円から、約定の償却をした後の保証金残金である73万2600円を控除した776万7400円を損害として請求を認容。