判例タイムズ1519号で紹介された裁判例です(東京高裁令和4年10月31日判決)。

 

 

本件は、市議会において、秘密会の議事録の全てを対象として情報公開条例に基づく行政文書の公開請求がされたところ,処分行政庁である町議会から全部非公開決定を受けたことについて,その処分の取消しを求めるとともに,本件文書のうち個人情報が記録されている部分を除く部分の公開の義務付けを求めたという行政事件です。

 

 

第一審判決は、理由の提示に不備があったという手続上の瑕疵を理由として非公開処分には取消事由があったとして処分を取り消しましたが、公開を義務付けることについては、その裁量の逸脱が明らかであるといった行政事件訴訟法37条の3第5項の要件をを欠くとして棄却しました。

これだけであれば、この判決を受けた市議会としては、改めて理由を適法に提示しなおすことで引き続き非公開とすることができます。

 

 

しかし、第一審判決は、さらに、「本件事案の性質に鑑み」「念のため」として、本件情報が非公開情報にあたらないという判断もしたため、話がややこしくなりました。

 

 

行政事件訴訟法33条1項では、「処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する」と規定しており、本件情報が非公開情報にあたらないという判断つにいても拘束力があるとすると、公開しなければならなくなるのではないかという点を懸念した市議会側が控訴しました。

 

 

行政事件訴訟法
第33条1項 
処分又は裁決を取り消す判決は、その事件について、処分又は裁決をした行政庁その他の関係行政庁を拘束する。

 

この点について、控訴審判決はつぎのとおり説示して、前記の点に係る原判決の判断には行訴法33条1項の拘束力は及ばないものというべきであるとして、市議会側には控訴の理由がないとして控訴を却下しています。

・行訴法33条1項の拘束力が及ぶ客観的範囲は,判決主文が導き出されるために必要とされる事実認定及び法律判断に限られると解するのが相当である(最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決・民集46巻4号245頁参照)。
・これを本件についてみると,本件の争点は,本件情報の非公開情報該当性(争点1)と本件処分に係る理由の提示の適法性(争点2)であるところ,当該各争点のいずれかにつき被控訴人の主張が認められれば,本件処分は違法と判断される関係にある。しかるところ,原判決は,争点2から判断し,本件処分は通知書の理由の記載が本件条例10条3項に規定する理由の提示の要件を欠くものであって,取り消されるべき瑕疵があったものといわざるを得ないから,被控訴人の請求のうち,本件処分の取消しを求める請求は理由があるとした。そうすると,原判決主文第1項が導き出されるために必要とされる事実認定及び法律判断は,上記部分,すなわち手続要件について判断した部分に限られるものというべきである(したがって,控訴人が本件公開請求について改めて処分をする場合には,当該手続要件に係る事実認定及び法律判断に拘束されることとなる。)。

・そして,このように判断した以上,争点1の実体要件について判断することは,原判決主文第1項を導き出す上で,およそ必要とはいえないことである。確かに,原判決は争点2に続き,争点1についても判断を示しているが,それは,「本件事案の性質に鑑み」「念のため」判断したものにすぎないのであって,原判決主文第1項の判断を導き出すために必要不可欠なものとして判断をしたわけではない。