判例時報2585号で紹介された裁判例です(京都地裁令和5年2月9日判決)。
本件は公立高校の1年生(未経験)が所属していた自転車競技部の練習中に、国道の下り坂を走行中、右曲がりのカーブ(制限速度が時速40kmであり、トンネルを抜けた直後に道路脇に「速度注意」と記載された看板があり、制限速度の道路標識が二つ続き、路面の「急カーブ注意 速度落せ」という表示とともに減速帯が敷設され、本件カーブに至る。本件道路の勾配は約10%であり(制限速度時速40kmの普通道路の最大縦断勾配は10%である。道路構造令20条)、本件カーブの半径は35m)を曲がりきることができずにガードレールに衝突し、側溝に転落して、両下肢全廃等の後遺障害を負ったという事故に関して、顧問の教諭(学生時代は自転車競技部に所属し、昭和60年に教員に採用されてからは一貫して自転車競技部の顧問として指導に当たり、前々任校、前任校のいずれにおいても、自転車競技部を全国高校総体に出場させた経験があったとされています。)の指導に注意義務違反があり、これにより上記事故が発生したと主張して、国賠請求したという事案です。
事故が起こったカーブについては、本件事故以前に原告生徒が他の1年生とともに本件道路を走行した際には特段の危険は生じていなかったとのことですが、今回は上級生とともに走行していた際に事故が起こりました。
そこで、原告側は、本件道路において原告生徒を上級生らとともに走行させれば、原告生徒が上級生らに合わせて実力以上の速度で走行し、本件カーブに差し掛かる危険があることを予見することができ、原告生徒は、本件事故当時、自転車競技を始めたばかりの初心者であり、本件道路のようなヘアピンカーブが連続する下り坂を一定以上の速度で安全に走行する技術、知識、感覚が十分に身に付いていなかったのであるから、顧問教諭は、このような状態で本件カーブに差し掛かった原告生徒が、本件カーブを曲がりきることができずに転倒等してしまう可能性があることも予見することができたのであり、それにもかかわらず上級生らとともに走行させたといった過失内容を主張しました。
判決は、原告生徒の前を走行していた上級生らは、上級生らが行っていた普段の走行どおりの速度又はそれより速い速度で本件道路及び本件カーブを走行していたのであって、原告生徒を配慮を要する相手ではないと考えていたとみるほかないところ、指導経験が豊富な顧問教諭にとって、1年生の中から抜擢された原告生徒に対して上級生らがこのような考えを持つことは容易に想定できることであったなどとし、顧問教諭においては、本件道路において原告生徒を上級生らとともに走行させれば、上級生らが普段と同じ速度で走行し、原告生徒が上級生らに合わせて同じ速度で走行することを予見することができたと認められるとしたうえで、①原告生徒に対し、上級生らに合わせて走行する必要はないと指導する、②上級生らに対し、原告生徒がグループに加わることから自分たちの普段の練習より遅い速度で走行するよう指導するなど、原告生徒を上級生らとともに走行させることに伴う特別な指導を行うべき注意義務を負っていたと認められるのにこれに違反したとして顧問教諭の過失を認めて、学校設置者に対して約7100万円余の損害賠償を命じています。
また、原告生徒が転倒しない速度を維持しなかった、原告X1が車間距離を詰める必要があると道路交通法に違反した認識を有していたなどの原告生徒にも非があったとする過失相殺の主張について、原告生徒は転倒しない速度について指導されたことはなく、余裕のある状況の下で徐々に速度を上げて下り坂を走行するなど転倒しない速度の感覚をつかむ練習をする機会も与えられていなかったなどとして、退けられています。
なお、学校事故が起こった場合のいつものパターンですが、顧問教諭は、本件事故当日を含めて、1年生が本件道路を下る前に、本件道路は練習ではないことだけでなく、それぞれのペースでゆっくり走行するよう指導していた旨の証言をしましたが信用できないとして退けられています。
テニス大会の試合中に生徒がコンクリート壁に衝突して負傷した事故についての裁判例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)
県立高校のテニスの部活中の熱中症で重篤な後遺症が残った事故についての裁判例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)
公立高校柔道部での練習試合中の事故について判断した事例 | 弁護士江木大輔のブログ (ameblo.jp)